其の拾
行く宛のない、というより何をしたいか今だに決めかねていたヨシナリ。何のために転生してきたのかを神に尋ねても……
『いや、今は大体平和ですし特に何もないですよ?馬車馬のように働いても種馬のように働いても好きなようにしてもろて』
「言い方よ!」
コレである。
「なんかこう凄い使命があってとかこう勇者的なアレはないんですかね!?」
『あー魔王とかですか?そんなのいるわけないじゃないですかー……いたとしても何故ほぼ例外なく人類と敵対しなくてはいけないんですか?稀に最初から仲間だったりする時もありますが』
「あ、これ読んでる。絶対にこの神様異世界転生系ラノベ読んでる。しかも結構な具合に」
『ヨッシーの脳内お勧めは、かいつまんで読んであげました』
「俺のプライバシー……」
『そんなものは無い!』
「」
ネネの客人という事で数日の間なにをするわけでもなくダラダラとしており、町に欲しい物を買いに行く時は金を払って貰っていた(烏骨鶏は小国であれば買い取れる程の価値がある。ヨシナリには知る由もない)。
故に物申せる者などいるはずもなかったのだ。
つまりヨシナリはヒモ。絶賛ヒモ生活中である。
そんな堕落しきった自分に気付いたヨシナリは、慌てて何かをしようとした。
しかし自分の誇れる知識など剣道か、ラノベや漫画関係の浅い知識くらいしかない。
いわゆる詰み、である。
「なんか知らんがマヨネーズとか普通にあるんだよなこの世界」
転生初心者が頼る簡単チートアイテムであるマヨネーズ。これは美味い!美味すぎる!え!?わが商会に独占で卸してくれる!?よし!金貨10000枚!!
そんなムーブが取れなかったヨシナリは魔王の存在を確認し旅に出ようかと考える……が。
「ま、まーおう……ですか?それは……あの、アレの大きな男の王様という意味でしょうか?」
「マラ王じゃねぇんだわ!魔王なんだわ!」
マラ王ってなんやねん。ヤバイデカそうだ。
「マラ王!こうビビッときましたぞ!誰ぞ紙と筆を持てい!」
「魔王だって言ってるだろうがぁぁぁ!」
冒頭に戻る。
そんな騒がしいやり取りをしていたある日、ネネの屋敷に農民と思われる団体が訪れた。一団はヨシナリをチラチラと伺っている。
話を聞いてみれば、通年より多数出現した獣に村の畑が荒らされ年貢が少なくなってしまう旨と獣狩りを嘆願する内容であった。その旨を了承するネネ。
ヨシナリはここだ、と勢い付いて声を上げた。
「ネ……吉田様!俺もついて行ってもいいでしょうか?」
「うーむ……戦闘面では問題ないのは分かるがヨシナリをやるのか……ムム」
「ネ……吉田様!なにとぞお願いします!」
「あの、吉田様。こちらの見目麗しい男性は吉田様の配偶者様でしょうか?男性の方は……ちょっと…」
「何だ?ヨシナリの実力を疑っているのか?ヨシナリはワシより強者だ。それにまだ配偶者ではない」
「えっ!?」
ポカーンとヨシナリを見つめる農民達。
「あ、いえそれだけではなくてですね……」
再起動し何やら言い淀む農民代表。チラ見する農民一団。ネネは何となく察しながらも話を促す。
「申し上げさせて頂くと我らの住まわせて頂いている土地は男日照りが酷く……えー……色々危険かと…」
端的に言って、襲われるぞと。
「ネネ……吉田様。俺は自分の身くらいは自分で守れます。実際東の森を一人で1週間生き延びてここまできましたので」
「ネネでよい。許す。というかネネと呼べ。ならばワシも体が鈍っていた故行くとしよう」
「吉田様!?」
「お市よ留守を頼む。東の……森!?ヨシナリよ東の森と申したか!?」
「え?あ、はい」
「そこは魔の森ぞ!お主何ともなかったのか!?」
東の森。
そこは魔物が住むとまことしなやかに囁かれ、森に入って生きて帰った者はいないとされる呪われた森なのであった。
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