其の玖
酒が抜けていないのか、ネネは起き上がったと思ったら再び寝転び、ヨシナリの入っていた布団を自分の身体に巻きつけ、苦しそうな表情であーあー言いながらゴロンゴロンと回り出す。
酒豪のわりには二日酔いはするらしい。まあ、ヨシナリのペースに負けじと飲んでいたから仕方がないだろう。
なぜ彼が無事なのかというと能力のおかげだったりする。その能力は
『ターメリックのチカラ 継続作動パッシブ
これは強力なアルコール分解補助能力である。飲む前に飲む!あと酒は飲んでも呑まれるな!』
とまぁこんな感じの謎能力であり、パルプン○の影響なのだろうと当りをつけているヨシナリ。
というかやりたい放題だな、神様よ。
朝食にもまだ早いとのことで、行く宛のないヨシナリはなんとなしに庭を歩き回る。
そこは見事としか言い様のない庭で、手入れの行き届いたアカマツやクロマツ、ゴヨウマツが敷地の中を飾り、池では錦鯉が優雅に泳いでいる。
松は特にアカマツが多いようで、それに挟まれる形でクロマツが植えられていた。
たしかアカマツとクロマツは別名が…とうろ覚えの知識をひり出そうとしたが、裏庭の方向より大きな声が響いてきた為、そちらを見に行こうとヨシナリは歩を進める。
因みに隣には世話役にネネを任せたお市の姿があった。
ヨシナリはないがしろにされている主人にほんの少し同情しつつ、歩きながらお市に何かやっているのかと尋ねる。
「あ、この声は……ま、またれよ!ヨシナリ殿!」
なにか不味い物があると勘付いたのか、突然お市が通せんぼうした。
が、好奇心が疼いたヨシナリは構う事なく裏庭に繋がる最後の角を曲がる。するとそこには……
「いやぁ、やはりこのようなネタがあると筆も進むというものだ……こうか!?こうかっ!?」
「おおう(ジュルリ…!)そ、そんな所まで描き込むのか!?ま、まてこれ以上は不味い!R的に危険が危ない!!早く部屋のほうへカエデ殿!(目は全く離れていない)」
「待って!うちの坊とヨッちゃんガガガガ」
「阿呆!声がでかい!!(クソデカボイス)」
「う…ま、まずい……妄想が!妄想がとまらんんんんん!…………ふぅ。カエデ殿、次は私のところの坊を頼む。心配するな、金ならいくらでもある」
「こいつぁ今日は仕事にならんな!」
何やら座り込んで書き込むカエデと、やんややんやして大興奮の女達がいたのであった。
少し高い声を作りヨシナリが問う。
「ほぅ、吉田様にそのような言い訳が通用すると?」
「大丈夫だ!いくら酒豪とはいえ、あれだけの酒を飲んだのだ!吉田様とて今日は立ち上がれまい…!ヨッちゃんもあれだけ飲ませたのだから、寝顔でも拝ませて頂いてもバチは当たるまい!」
「ヨッちゃんとは?」
「皆まで言わせるな!ヨシナリ殿に決まっておろう!」
「成る程な。俺はヨシの方がいいんだが」
「「「「「……えっ!?」」」」」
女達が一斉にばっと振り向く。
その顔はサーっと青ざめていった。
女達の手にはヨシナリに似た男と、昨日見た美少年の春画が握られていた。
……なんで白昼堂々、しかもわざわざ外でこんな事をしているんだ、こいつらは……
ヨシナリの横には地面に額を擦り付けるお市の姿があった。
「も…申し訳ない……吉田様のお客人であるヨシ殿にこのような醜態を晒すとは!本当に何と申し上げればよいのやら……お前達、歯を食いしばれ。鉄拳をくれてやる!!!!」
お市の拳が真っ赤に燃えていた。
多分とどろき叫んだ結果だろう。
そしてお市よ。貴方なかなか強かだな。
どうなってるんだこの屋敷は、と頭を抱えるヨシナリなのであった。
因みに後日談だが、カエデはネネによりこっ酷く怒られる。
そして絵師であるカエデの部屋にあった春画のうち、ヨシナリとネネ、お市が登場する物だけが神隠しに会うという怪奇現象が継続的に起きているんだとかいないんだとか。
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