其の漆

 基本的に第三者視点での語り方になっていきます。


──────────────────────


 その日の夜。

 強者を好むネネはヨシナリを気に入り、豪奢な宴を催した。自分の友人としてこれ以上ない歓迎をせよと告げる。


 この世界の人々は宴会好きである。結婚した、子供が産まれた、花が綺麗だ、月が綺麗だ、忘年会や新年会等の現代日本でも催されてるモノだけではなく


 子供がハイハイした!?こりゃめでてぇ!酒!

 子供が喋った!?こりゃめでてぇ!酒!

 子供が歩いただぁ!?こりゃめでてぇ!酒!

 男子が精通した!?ふーん……エッチじゃん。おう、酒ぃ。

 女子に初潮が来た!?お、おう、そりゃくるよな。はい解散、かいさーん!

 恋人ができた!?ふざけんな!爆発しろ!飲むぞ!いや飲ませて爆発させるぞゴルァ!!

 恋人が優しくて幸せすぎて怖いだぁ!?…酒……!飲まずにはいられない……!!

 妊娠した!?へへっ奥さん暫くお預けですよね?私にも旦那さんの……先っちょだけ!先っちょだけでいいんでっ!!……えっダメ!?クソがあああぁ!酒ええええ!

 えっ!?フラれた!?っきゃろー!!酒だ酒えぇ!!

 etc...


 大半が男関係なのが何とも言えない。



 さて贅を尽くした食事は目を見張るものがあり、もちろん食材の主役は霊鳥と呼ばれていた烏骨鶏だ。

 ヨシナリは上座に座るのを断り一番の下座に座った。するとネネは健脚を披露しヨシナリの横を陣取る。なんなら一番上座と言える所にはお市がプルプルしながら座っている。


 他の家臣達も最初は渋ってネネを止めたが、宴会が始まればなんのその。無礼講だというネネの命令により皆悔しさ半分で酒を飲んでいたが、今となっては皆上機嫌に酒を煽っている。



「おい!坊!!ヨシナリに酒を注がんか!」



 ネネが世話役の坊(美少年)にヨシナリに酒を注ぎつつ挨拶をしろと指示し、一つ二つ会話して握手を交わす。酒気にあてられたのか坊と呼ばれた男子は少し顔を赤くしつつ愛想良く笑顔を浮かべている……と、ブッという音と共に鼻を押さえて会場から走り去るネネ。


 それにハッとした顔で他の家臣達も自分の世話役の坊をヨシナリに差し向けてきた。ある者は男子に少し酒を飲ませてまでいる。



「どこいった無礼講」



 握手をする度に周りの家臣達から声にならない声やツバを飲む音が聞こえたような気がするが、大体どういうことなのか把握しているヨシナリは気にしない事にした。



「気にしない気にしない」


『けど男の娘はいけますよね』


「あれはフィクションだから楽しめるわけですよ。あと帰って頂いて。アーメン」


『ふた○りはどう思います?』


「帰れええぇ!」



 ちなみにお市は泣き上戸だったのか、やられたはずのヨシナリの対面に座りひたすらに自分の不甲斐なさをエグエグといった感じに泣きながら語っていた。



「お市は情け無いです!情け無いんです!…ゴクッゴクッ…己の魂と呼べる刀を手放し、あまつさえネネ様の眼前に飛ばしてしまうなんて……ゴクッゴクッ……嗚呼ヨシナリ殿、このお市が腹を裂く際は…あっ!ヨシナリ殿と呼ばせて頂いてよろしいか!?あれ程無礼を働いたお市の事はなんとでもお呼び下さい!!それはもうお好きに!………ゴクッゴクッゴクッ………プハァ!カリ刀バーン女とでも!!」



「お市さん、落ち着いて!」

 呑むか語るかどちらかにしろ。というかネネさん、お市さんが飲む度補充するのやめれ。そしてお市さんは呑むのやめなさい!



「バーンじゃない!どーんじゃ!!」



 横でお市の失態を見て手を叩いて笑うネネ。

 お市以下全ての家臣達の得物はヨシナリに例外なく吹き飛ばされ、そして何故か全てネネの方へと飛んで行った。その度ネネはヨシナリの力を流す技術を吸収し、自身の周りの床に毎度落とすせいで刃物が立ち並んでいた。側から見た者がいたら刃物が生花状態だったと言う事だろう。

 そんな得物を手放した他の家臣達は誤魔化そうと下手くそな口笛を吹いている。何故あれで誤魔化せると思っているのかは昨今の謎である。


 ネネが上機嫌である理由。それは飛んで来た刃物を落とす練習がなかなか楽しかったというのもあるが、普段気丈に振る舞い、滅多に酒の席に参加せず弱音を吐かないらしいお市を見れて嬉しかったのだそうだ。それだけではないのだが。


 仕方なくヨシナリは、あれは冷静さを失わせるための策略だ、普通だったら敵わないといった誰が聞いてもフォローになっていないフォローを入れる。

 その度にお市は「お主は優しいのだな…」と泣き声を大にしていた。



「…無礼講とは……」 



 聞こえていたのかネネが笑いながら背中をバシバシ叩く。


 まあ酒はうまいし、中身が薔薇薔薇しいとはいえ見た目は良い家臣達である。

 そこらへんはちょっとした役得だなと思いながら酒を注がれ続けるヨシナリなのであった。




───────────────────


毎度の事ながら、フォロー、応援はぁと、すたぁ⭐︎ありがとうございますm(._.)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る