其の陸


 今回はネネside回となります。


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 黒髪黒眼の男ヨシナリ。この世界において黒髪は良くも悪くも異常。男に表れるのも稀すぎるが、そこに黒眼となると何がどうなるかなど予想もできない。



 ネネは満足そうに笑っていた。

 自分の気が向いた時に稽古をつけているとはいえ、そこそこの使い手として育っていたお市を素っ気なく倒した男の姿を見た為である。いや、それよりも。



「何アレカッコいい。ワシもやりたい」



 こうヨシナリがすーっぐるんとするとお市の手もぐるんとなって刀がぶおんと回ってどーん!と飛んでいく。アレカッコいいと思っていた。今すぐにでも誰ぞ持てして誰ぞの得物をぶおんしてどーんしたい!



「だが我慢じゃ。ワシはネネじゃ。人類最強の吉田ネネじゃ。どーんしたい!そんなみっともない姿は見せられん」



 既にヨシナリの実力は分かった。というか挙動しか見ていなかったから気付かなかったが、黒髪の似合う美男子じゃん。むっちゃ好みだわありゃあ勝てんと脳内では白旗を振っている。

 初対面する相手の刀の速さ、軌道、距離感を瞬時に見抜きそれに対応し、あまつさえぶおんどーん!だ。

 此方に刀が飛んで来る前に一瞬此方を見て、ヤベっ

みたいな顔をした挙句どーん!してきたのだ。最初の勢いのままだとネネでも対応しきれない速さでどーん!していたに違いない。



「あのヨシナリと言った男。どーん!する前に勢いまで殺しおったわ。ワシでなければ逃げ惑っていただろうが対応できるとこまで速度を落としたのぅ」



 やはり世界は広いな、と思いつつ自分と男が戦う姿を夢想し小さな溜息を吐きながら恍惚の表情を浮かべていた。


 この世界には剣道3段という最強の称号を贈られた者は4人しかいない。その者達はみな女であり、中でもネネは一番の使い手である。

 こちらの世界の剣道3段とは、全ての武道を納めた者のみが許される称号だった(神の色々な勘違いの末に出来上がったのである)。

 自分より強いかもしれない男がいるなど誰が予想など出来ようか。

 


 はぁ……今度の溜息は大きくなりすぎてしまった自分の立場に向けての溜息だ。

 何故こんなつまらない立場になってしまったのか。只々己を練磨していた時代が懐かしいものだ、と道場の中を見渡す。

 

 皆一様に何が起きたか分かっていないのだろう。お市はかろうじて把握したか。このままでは終わらないはずであるのだが皆尻込みしている。



「もう終わりか?存外根性ないんだな」



 つまらなそうな態度とは裏腹に、懐かしい遊びをしたかのような、童心に返った目をした男が立っていた。当たり前である。十数年ぶりに竹刀相手ではないとはいえ、剣道の真似事をしたのである。その事をここにいる皆が知る由もない。



 「ワシが名乗り上げたいが…」



 この男と戦ってみたい。何なら手取りナニ取り指導してもらいたい。口に出す事は簡単だろうが、それを家臣達は許してくれるだろうか。まだダメか。


 ネネは考える。この男を我が物にできないだろうか?

 この男となら子を成させるのもやぶさかではないと。


 嗚呼、けどこの男とあの町男との組み合わせも最高ではないだろうか。世話役のやつとでも中々のものかもしれない。



「私が!やらせてもらおう!己の魂とも呼べる得物から手を離すことはせん!!」



 遂に挑戦者が現れる。薙刀を持った一番若い家臣だ。お市はギロリと睨みヨシナリはニヤリと笑う。



「おっ!やっとやる気になったんだな。お市さん、離れてて下さい。カエデさん、始めの合図を」


「えっ、あっ……ああ、始めぃ!」



 お市は頷くと静々と下がり、春画を描くのが趣味である審判係のカエデが名前で呼ばれて照れている。自らを隠れ薔薇シタンなどと吹聴しており全然隠れていない。というか描く春画が主に薔薇なのだが、なんなら街で売りまくっているのだが、どこに隠れ要素があるのか小一時間ほど問い詰めたい。



「あーもう!吉田様。また行きますよ!?」



 ヨシナリが声を上げる。見れば薙刀を持った家臣の位置がどーん!したら薙刀が飛んで来る位置にいたのだ。



「……ふっ、構わん!好きに戦え!あとワシの事はネネと呼べぃ!!」



 とりあえず何かにつけて今夜は泊まらせようと画策するネネ。

 雰囲気がかわり、ニヤニヤしだしたネネにヨシナリが怪訝な顔を向ける。


 そう自分が今後、夜のオカズに使われるとは思ってもいない男なのであった。



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