其の参


 だらだらと30分ほど歩き、やっと町につく事ができた。その町はなかなか風情のあるそこそこ大きな町で、木造平屋造りが所狭しと並んでいる。まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような錯覚を覚えた。


 変わった点は、通りと呼ぶような所はやたら大きく幅取られ、馬車と思われるものが同じ所を行き交い非常にガチャガチャしている点だろう。現代日本のバスのような役目なのかもしれない。



 そして一番の変わっている所といえば町人にあった。


「なんか女の方が多くないか?」


 大雑把に見た感じで男女比は約3:7 女の方が多い。戯れる子供の相手をするのは男性で全ては小柄で力の値が低い。それを妻だろうか微笑ましそうに見つめる170近い身長の女性で、男より力・耐久・速度の値が大きい。因みに眼に映る女性は巨乳しかいなかった。



「でっっっっ!」



 その女の腰には刀が差されている。周りを見てみると店の売り子には男がおり、職人気質なのか奥で黙々と作業を続ける女。



「うん。なんとなくだが把握したかな」



 色々と思う所があるが、とりあえず情報収集がしたいところである。しかし飯処に行くにしろ何をするにしろ金が掛かるものなのだ。そこで俺はチートスキルに頼る事にした。



 衛生的とは到底いえないが、これだけ大きくて人で賑わっている店なら多少の無理は聞いてくれるだろうと主に食料を扱う、周りより一回り大きい店に足を向ける。


「へい、らっしゃい!」


 威勢のいい声を掛けてきたのは女だ。店に良い物を安く買おうと押し寄せているのは男であり、この世界では主夫が一般的なのはよく伺えた。

 そして俺は今しがた狩ってきた鳥(調べたが烏骨鶏とのこと。高価らしい)を売ろうと店主と思われる女に話し掛ける。

 

 「こちらを買い取ってもらいたいのだが」


 そう告げるが何故か表情を曇らせ女店主は店の奥へと下がっていった。周りからもハッと息を呑む音が聞こえた気がするが気にせずにそのまま待つ。


「霊鳥だ………!」


 誰かが放った一言。霊鳥とは?そう尋ねようと声が聞こえた方を向く。すると堰を切るように押し寄せた人達により、俺は捕らえられるのであった。




 捕らえられた俺はというと、後ろ手で縛られ町のお偉方の中でも一番の権力者と思われる屋敷に連れられていた。思われるとは道という道を歩き、その中でも一際大きな屋敷の中に連れられたからだ。すると後ろ手に縛られた縄は解かれ、俺の手は自由になる。

 俺はなんとなしに顔を上げた。


「無礼者!吉田様の面前ぞ!」


 いきなり怒号が飛んでくる。周りには見目麗しい女達がこちらを見下すように視線を向けていた。中でも上座の近くにいた一番の側近と思われる女はこちらを睨みつけている。


「よい。一つ聞きたい事がある。貴様武道を嗜んでいるな?」


 そう澄んだ声で告げたのは頬杖をつきながら面白い物を見るような視線を向ける、息を呑むほどの大和撫子だ。

 艶やかな黒髪と人形のように整った顔立ち。周りの女とは違い巨乳ではないが、スレンダーと呼ぶに相応しいスタイル。俺と同じ名字の吉田と言うらしい。おっと質問には迅速に答えなければ不味そうだ。


「剣道を少々嗜んでおります」


 何かをいいたそうな側近の女はその場にドカッという音を立てるように座る。

 改めて周りを見てみると全員の髪は日本人にはあり得ないような髪の色、そして得物を腰にまたは横に携えている。レイピアのようなものや諸刃の西洋刀を腰に差す者、薙刀を横に携えている者もいた。


「して、貴様はこの霊鳥をどうやって手に入れたのだ」


 その大和撫子の眼前に、まるで神に捧げる供物のようにうやうやしく飾られた烏骨鶏があった。どうやったって言われてもなぁ。


「売るためにそこらにいた烏骨鶏を二匹つかまえただけなんだがなぁ」


結構な小声で呟いたはずが聞こえてしまったのだろう。それを聞いた落ち着いたはずの女が立ち上がる。


「貴様、男の癖になんだその口の悪さは。どこの生まれだ!村ごと矯正してやる!」


「よい。…で、お前の事情はどうでもいい。どうやったか、それだけを吐いてもらおうか」


 なぜそこまで烏骨鶏にこだわるのか俺には知る由もなかった。だがなんとなしに烏骨鶏を調べてみる、と


『烏骨鶏 栄養価バツグン。希少価値が高いため金策に有用。…かと思われたがどうやら烏骨鶏は神聖化されており、姿を見たら幸と名声を。食べれば不老を授かるという。不用意に捕まえないでネ!』


あのムッツリ神!さっきまで金策に有用。までしか書いてなかったのに今更補足しやがった!!ていうか神聖化されてるのを食うなよおお!


 心の声が表に出てしまっていたのかビクッとしたかと思うと睨みつけてくる女達。

 だがこの屋敷の主たる吉田様こと大和撫子はニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「お主変な男じゃの。この状況で慌てておらん。なにか隠し玉でもあるのか?」


「いえいえ、そんな上等な物はございませんよ。もしあったなら路銀にでも変えて銀シャリでも頂いてます」


 この人も変人に値する人物なのかもしれない。類は友を呼ぶとはよく言ったものだと感心しつつ、さりげなく練度が上がってきた識別能力を発揮する。


『名前 吉田ネネ

 種族 人間

 力 80

 防御 80

 速さ80

 運の良さ 77


 ■補足 剣道3段(人類最強)強い者や賢い者、つまり強者に最も興味を抱く。酒豪。ツンデレ。男好きな処女。隠れ薔薇。最近の流行りは悪代官ゴッコ』


 おもわず最後のほうの説明に吹き出しそうになる。

 なんちゅーいらんとこまで丁寧に教えてくれる能力だ。ちなみに薔薇とは百合の反対。つまりはアッー!なやつである。

 思わぬ情報に狼狽える俺であり、周りの女達からも情報を見ようと試みた。どれもこれも『熱心な薔薇信者』やら『隠れ薔薇シタン』と薔薇薔薇しい一面であった事に頭を抱えたがどうやら普通に皆、男好きらしい。

 そして俺は頭を振り、なんとか飛びそうな意識を繫ぎ止める。と大和撫子ネネが口を開いた。


「で、この霊鳥をお主がどうやって捕まえたのかという質問だが、答える気がないなら身体に聞いてみるしかないが?」


 それは穴に聞くって事ですか…!?

 俺はガクガクと震え嫌な汗をかきはじめた。


「…ふむ期待外れか、霊鳥を捕える事が出来た者なら男だろうと何かしら力があると思ったのだが」


 …ああ、そういう身体に聞くですか。それなら恐れる事はないと視線を上げる。

普通ならそちらの方が恐ろしいはずだが。



俺はここにいる誰よりも強いらしい。



 俺の考えている事などわからないのだろう、こちらをジッと見つめたネネは楽しそうに笑っていた。

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