其の弐
「またお前かよおぉ!」
道なき道をゆく一週間。
その間すれ違う人もなく大自然からの恵みで生き延びながら歩き続けていた。
初日に試してみたのだが、自分のパラメーターを目視できるようなチート能力は付いていないようだった。コレがあるのとないのとでは勝手が全然違うだろう。
「ばっ!うん○を投げるな、う○こをおぉぉ!」
肝心なチート能力を付けてもらうのを失念していた俺が項垂れていたのは一週間前。今となってはそんな日も懐かしい。
元々なかったサバイバル能力と、どう考えても省エネな機能を携えた10代と思わしき身体は、森の中で生きていくにはこれ以上の適応はないみたいで、授かった能力があれば森の仙人にもなれると思い始めていた。
○んこが俺のすぐ横を通り過ぎて行く。
「猿野郎!!てめぇまじでええええぇぇ!」
ただ1つ問題があるのは、俺は一人では生きていけない生き物のようだ。最初は生きる為に必死で気付かなかったが、余裕がでてくれば欲がでてくるもので人と話がしたい、共に生きたいと思っていたのだ。
現代日本の魔境にいたわけでもない俺はなんだかんだ言って、他人がいるという空間に慣れすぎてしまっていた。
ァ゛ァ゛ァ゛……服に付いた……服に付いたよぉぉぉ!
ただここに来るまでに農業、牧場の跡がなく、家や倉庫といった人が関係しているようなものは一切なかった。それゆえに俺は今も歩き続けて……いや、走り続けている。
「なんとか……撒いたか……」
まじでなんなんあのうん○ざる!俺とエンカウントすると毎回う○こ投げつけてくるんだが!武器手に入れたら絶対切り刻んでやるからな待ってろよなぁぁ!!
風向が変わってくる。森を抜けたのだ。
そこは一面を青々とした天然の芝生のようなものが生い茂り、視線の端の方には巨大な岩のような山が頂きを刺々しくさせて鎮座している。そして川が芝生を斜めに断ち切るかのように走っていた。
この風景は現代世界にはない壮観なものだろう。旅行特集などの番組でTVを通してでも見たことのないような風景であった。というか増水したら一面水没しそうまである。
「いや、すげぇな……」
その見事なまでの自然美と迫力に圧倒され息を呑む。この歳で感動を覚えるなんて久しい事だと1人うんうん頷きながら、近くにあった川に目をやり、水を飲もうと近付いた。あと、洗わんとな。
何気にちゃんと水を飲むのは転生後初だ。ほぼ食物に含まれる水分だけで一週間も身体がもったのは一重にチート能力のおかげであろう。
ゴク……ゴクゴクゴクゴク…
ひとくち飲みその美味さに驚き、まるで魅了されたかのように満足するまで水を飲む。煮沸しないと危険が危ない?森の中の泥水啜って腹痛等一切なかった話聞く?俺は話したくない。
ただ水を飲んでいるだけなのになんでこんなに美味いんだと思いつつ、何気なしに水に映る若かりし自分の姿を見るとそこにカーソルが現れる。
「えっ……あっ…これって……」
期待と不安で震える視線カーソルを自分にあててクリックする要領を思い描きながら操作をしてみると、案の定というかなんというか、自分の概要を確認する事が出来た。そこには──
『名前 吉田ヨシナリ
種族 堕仙人
特殊能力 たくさん
人物 なんとなくな付き合いはできるがちゃんとした付き合いはできない。つまり友達がいない。ラノベを読んで休日を潰すダメ人間。年齢=彼女いない歴で、太腿は太いから太腿って言うんだよ?上半身とのバランス狂ってると愛おしくなるよね尻も忘れずに派。初体験は二十歳の時に風俗ですてt…』
「恥ずかしいとこまで説明しなくていいんだよ!しかも特殊能力の説明雑すぎだろ!何たくさんって、何たくさんって!!」
あとなんだよ堕仙人って。既に人間辞めてるうえに仙人から堕ちてるじゃねえかよ。
『名前 吉田 ──略──
えーかっこいいじゃないですかーあと沢山特殊能力あったおかげで泥水啜れたんですよ?』
「その節はお世話になりました。だが俺の概要文で会話を成立させないでくれませんか。ムッツリ神様よ」
『────略────
……む、なんだねその態度は…この能力はいらないと?』
「いいえ、ありがたく使わせていただきます。さすが神様仏様、偉大な方はやはり偉大だ!(?」
『─ry─…仏と同列はあれですが、まぁよしとしましょう。ところでヨシナリは何処に向かっているんですか?』
「いや人恋しさに町に向かっているんだけど。近くに町とかなかったし」
『─あの…貴方の起きた場所から1時間もかからないとこに町があったはずだけど?ヨシナリの能力にある鷹の目ならみれたんですがねぇ(クソデカため息)』
「能力の使い方もわからない俺がわかるわけないだろ…俺は一通り説明を受けて咀嚼してそれを間違いないか確認してから行動するタイプなの!」
『あ、じゃあ暇つぶしにそちら向かいますねー』
随分と気安い神様に戸惑いつつ、説明してくれるという事なのでとりあえず座って到着を待つ。しかし2時間たっても(時間の把握も能力)神の姿は現れない。
「おっせええええ!来ないなら来ないでいいから、その旨を伝えてくれよおお」
イライラしながらも目に映るもので識別の練習をほぼ終えた俺は、川の底に何かを見つける。
なんとなしにそれを調べようとしてみるが上手く識別できない。
「気になるし潜ってみるかねぇ。待たされてるのはこっちなんだからそれぐらいいいよな!?」
気になった俺は、どこかの誰かさんに言い訳しつつ川に飛び込みその物体を引きずりだす。
ちなみに川の深さは4m近くもあるが、たくさんな特殊能力のなかに潜水の能力があった為、転生前だったら絶対にしないような行動も今となっては楽々行えるようになっていた。
というか能力を調べた(クリックした)ら使い方が載っていたので、神が来る必要が全くなくなっていた。
川底にあったものはなにかの鉱石のようだ。識別の感覚に手慣れてきたのか、ノータイムでその鉱石を調べる事が出来た。
『七色の鉱石 この鉱石は使用する者の技量に依存するが任意の鉱石の代替品として使用できる。また分解の能力でリユース可能。不具合を直すので向かう事ができなくなりました。これで許してください』
「ごぼぉっ!!」
世界バランスを壊しかねないその鉱石と最後に告げられた遅すぎる神の謝罪。
俺がこれを見つけなかったらどうするつもりだったのか問い正したかったが、それらを飲み込みついでに水も少し飲み込みありがたく懐に納め浮上した。
「一応能力あるし何か作ってみるか……武器ができたら糞猿叩っ切りに行く事も吝かではない」
こうなんかすんごい不思議パワーが集まってくる!この物凄い光はなんなんだ!?やばいモノが出来てしまいそうだ!
「う、うおおおおお!」
別に何かしているわけではないのだが、気合いを入れに入れて造り上げていく。もう少しだ!剣のような形になってきたぞおおおお!来い!俺のカリバーン!!
ペカーと一際大きく光を放ち武器が完成する。そう出来上がったのは……
竹 刀 (カリバーン)
「……鉱石から?竹刀?………うん……分解!!」
速攻で分解して七色の鉱石へと変換する。
そして何事もなかったように能力を駆使して近くに大きな街があると理解した俺は、この鉱石どうしようかと考えながらダラダラと歩くのであった。
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