異お江戸逆転生物語
んじょも牧場
はじまりはじまり
俺の名前は吉田ヨシナリ。
ダークでブラックな会社に勤めている、意見を言う事も彼女もできない三十路手前のしがない男である。
しかし今日の俺は違う。
その懐には辞表と撮り溜めていたボイスレコーダーを携えてダークでブラックな人生に終止符を打とうとしていた。今後の事を考えると不安がないわけでもないが、このまま使い潰されて禿げあがるよりはましだろう。
そんな新しい自分になるべくやっと腰を上げた俺はなんとなく、本当になんとなくだが心は軽かった。家を出た時は軽くスキップしていたぐらいだ。
そんな俺は今、本当に軽くなっていた。
いや正確には軽くはなってはいなかったのだが、俺は空を飛んでいた。脳内では何が起きたのか考える余裕などないのに何が起きたのか考えており、死という確実に迫っている自分のリミットは何故か分かった。
嗚呼、ついに終わってしまったか、これから始まると思っていた人生が。バスに跳ねられ宙を舞う中、ありがちな走馬灯というものが脳内に再生されていく。
あのクソ野郎に辞表を突きつけてから終わりたかったなぁ…。俺を使い潰せと指示していたクソ上司のムカつく顔と声が流れ、こんな事を人生の最後に見てるのが情けなくなり苦笑いを浮かべる。
もう少し考えてから自分の未来を決めるべきだったのだ。だが後悔先に立たずだ。もう終わったのだと眼を閉じると共に、しょうもなかった30年弱という人生に終止符が打たれた。
さて人生が終わったと思った俺ヨシナリだが奇怪な事に、気が付いたら自分の部屋にいた。
しかし自分の身体があるわけでもなく、まるで意識しかないような状態だった。しかも何か光ってるようなないような不思議な感覚だ。
そこに綺麗な声が響いた。
「死んでしまうとはなさけない。」
どこぞのファンタジーでロールプレイングな世界で聞いた事のあるような台詞だなと思ったが、無いはずの脳が勝手に動き出す。
その俺の知っているロールでプレイングなファンタジーはこの台詞を言われた時は確実に蘇生された後に発っせられる台詞である。
蘇生されるなんてとんでもない。やっとしがらみのない世界に行けるのだ。俺は断然拒否と念じる。口がないのだ、念じる他あるまい。するとロールでプレイングなファンタジーに出てくる衣装に身を包んだ美女が現れた。
「あの…今日の朝からやり直しをと思ったのですが…」
そんなの要らん余計なお世話だと告げる。あとその衣装は著作権的にどうかと思う。
「あ、著作権てなんですか?えとその話はいいのですが…困りました。生き返りは拒むという事でしょうか?」
モチロン丁重にお断り願う。いや、この姿で丁重にもクソもないだろうが。
「そうですか…けどそうなると私が来た理由がなくなるのですが…あの子達には、やり直しをという口実でここに来たので普段のように召されても困るのですよ」
色々と気になるような事を口走る推論神様だが、俺はそこで頷く──いや首はないのだが──俺ではなかった。なら他の人間に生まれ変わるか、そこら辺に生えている野草とかの主に脳を使わない感じな奴に変えて欲しいと嘆願する。
「えーっと…新たに他の人に生まれ変わるのはポイントが足りないようですね。しかし逆に野草などになるとポイントの余りすぎでバランスが崩れるので許可できないのです」
…ポイント制なのか…だったらやり直しもポイント足りないんじゃないか?どうすればポイントが貯まるのかをものすごく聞きたいが、それを飲み込んだ俺に推測神が続ける。
「ヨシナリさんでもやり直しは使えそうです。あ、ポイントは生きてきた時間経過によって貯まるんですよ。あと何か偉業を成し遂げても貯まります。しかし悪業をするとなくなるのです」
なるほどな、じゃああのクソ上司は蘇生できないのか、ざまぁwwと今だにしょうもない事を考える俺。じゃあ時間を自分の好きな時に戻してやり直しはできるのか?
「あ、それもポイントが足りないですね。幾人か巻き戻しされた方がいましたが、莫大なポイントが必要なのでとてもオススメはしてないのですが。」
オススメとか生きてる人間がポイント制の事など知らないだろうし、その場で初めて知るのだろうに。
「えっと?ポイントについて仏教とキリスト教の方達はお布施していたと思うのですが…で、どうなさいます?やり直しを受けて頂けますか?なんなら私が作った世界に行く事もできますよ。」
…ここで異世界を匂わせるか、と仏教の衝撃的なお布施内容を軽く流しつつ、最近の逃げ場がラノベだった俺は心の中でガッツポーズをしたのだった。
異世界でファンタジーが最近の流行りであるのだ。あ、だからファンタジーな服装なのか…とやっと推測神が元からそのつもりで来ていたのが理解できた気がした。
「その世界ならこちらより全然少ないポイントで色々とボーナスを付ける事ができます。オススメは神の気まぐれコースなのですがどうなさいますか?ヨシナリさんの魂が消えるまであと10分なのですが、多分カタログを見てる内に時間切れになりそうです。」
時間制限あったのかと驚きつつも、とりあえず生き残る為に必要な能力と包茎を直してくれ、他はお任せでと伝える。
「…承りました。ではいったん意識がなくなりますが不安に思わずに身を任せてください。あ、申し遅れましたが私は神ですよ」
少し頬を赤くした神が軽いお辞儀のようなものをしたと思うと俺の意識が少しずつ消えてゆき、この世界との繋がりを薄くしていった。
消える直前に
──えと能力はこんな感じで…あ、剣道3段?この前読んだ漫画の主人公みたいな感じでしょうか?……ではそんな感じにしとこうかなー。後は皮を治して…わたし好みのサイズ感にして……やっべこりぁでけぇwwそれらをプロテクトに入れて余ったのは…パルプン◯!──
…どんだけでけぇんだよ!?あと最後の最後にいやな呪文が聞こえた気がしたな……と思ったその時には、もう俺の意識はこの世界との繋がりを断った時なのであった。
身体を起こすとそこは異世界だった。
そしてとりあえず町を見つけないとなーと呑気に鼻歌混じりで歩いていく俺なのであった。
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