色欲の錬金術師 〜アイテムが全て美少女化して錬成されるんですけど！？ これじゃ商品にならないので、アイテムさんたちと街の便利屋始めます〜

10-03 モリノに集う錬金術師たち

　――晩餐会当日。

　夕刻のモリノ王都は普段以上に賑わっているように思えた。実際、街中の宿屋は満室となっているところが多いらしい。

　今この街にはいったい何人の錬金術師が居るんだろうか。

　錬金術は魔術や剣術に比べればまだまだマイナーな分野だ。冒険者でもない一般人からはそれこそ魔術の一種くらいにしか思われていない。

　専門家である錬金術師の数も、魔術師や剣士に比べれば相当に少ない。俺だって知り合いの錬金術師といったら片手で数えられる程度だ。

　それだけに、こうして他国の錬金術師に会える機会というのは否が応にもワクワクする。

　道行く人を見るとそれっぽい恰好をした人は皆錬金術師なんじゃないかと思えてくるが、あまり浮かれてティンクにバカにされないよう気を付けながら王宮への道を歩いていく。

　―――

「おっと、失礼」

「あ、こっちこそすいません」

　キョロキョロしながら歩いていると、行き違った男性とうっかりぶつかってしまった。

　お互いに会釈を交わして道を譲り合う。

　辺りを見れば、開宴より一時間以上前だっていうのに王宮の正門前は既に大行列になっている。

　聞こえてくる会話からして、ここに居るのが皆晩餐会の参加者らしい。ざっと見ただけで100人近く居るんじゃねぇか！？

　てっきり城の一角で細々とやるのかと思ってたが……想像より遥かに大がかりな会食みたいだな。何か今更ながら緊張してきた。

　さすがに全員が本職の錬金術師という訳ではなくティンクみたいに付き添いで来た人も居るみたいだが、まぁそれにしてもこれだけの錬金術師が一堂に会する事は滅多に無いだろうな。

　門の前では門番が慌ただしく入城の手続きを行っている。この混雑に備えてか、普段の倍近い番兵が配備されているようだ。

「何か仰々しいわね。最近って許可が無いと正門すら通してくれないの？」

　背伸びをして行列の先の様子を伺っていたティンクが不満そうに耳打ちしてくる。

「ん？　あぁ。前からそうな筈だけど」

「へぇ。随分と厳重になったものね。まだ昔の……それこそ戦時中の方が緩い感じだったわよ」

「まぁ、髭じぃがあんな感じだからな。今の国王様になってから色々堅苦しくなったとは聞くな」

「今の国王……確かエイダンの息子の"グランツ"よね。――あんまり評判良くないんだって？」

「おい、こんな場所で国王様を呼び捨てにすんなって！」

　ティンクの口を押さえながら慌てて周りを見渡す。警備兵に目をつけられたら晩餐会どころの騒ぎじゃなくなるぞ。

　声を落としてティンクの耳元で話す。

「まぁ、特別悪評って程じゃないけど、髭じぃ……エイダン前国王の人気が凄すぎたんだよ。戦乱の世を治めた“賢王”として間違いなく歴史に名が残る名君だって言われてるからな」

「……ついこの前まで、勘違いでその“賢王”に復讐しようとしてたバカがいたような気がするけど。そこまでの評判を知っててよく一瞬でも自分が間違ってるかもって思わなかったわね」

　呆れた顔でティンクが溜め息をつく。

　……まぁ、確かに思い込んだら融通が利かないのは俺の悪い所だ。

「ま、まぁ。済んだ話はいいじゃねぇか！」

　その場は笑って話を誤魔化す。

「それよりグランツ国王の話だろ。お前も直接面識は無いんだな」

「えぇ。私が前に居た頃はまだ小さな子供だったわ」

「俺も詳しくはないけれど、色々苦労はしたらしいぜ。前国王は戦後に軍事縮小をやり終えた途端『後は若者達の時代だ』とか言って生前退位しちまったし、即位直後は家臣や国民の求心に相当苦難したんだとか」

「あー確かその頃、何を血迷ったかサンガク公国に侵略戦争を仕掛けようとしたんですって？」

「おぉ、よく知ってんじゃん。功を焦ったのか、独断で進軍を強行しようとして国民やら家臣やらあらゆる所から大バッシング受けたらしいぜ。『エイダン前国王の和平政策を無駄にするつもりか！』ってさ。まぁ、先代が優秀過ぎると跡取りは大変だって事だな」

　うんうんと頷いて見せる。

　俺自身も偉大な錬金術師を師匠に持つ身だからな。苦労は分かるぜ。

「なるほどね。じゃあ何の苦労もなく七光らせて貰ってるあんたは運がいいのね」

「別に七光ってねぇよ！　てか何だよ、七光るって！」

　そんな話をしていると、いつの間にか列は進み俺たちの番になった。

「――お待たせしました。入城許可証のご提示をお願いします」

　門番が礼儀正しく話しかけてくる。

　許可証……確か晩餐会の招待状がそのまま入城許可証になるって書いてあったな。

　懐に入れておいた招待状を取り出して……あれ？

　ん？？　……無い？

　もう一度落ち着いて内ポケットを確認する。

　……けれど、やっぱり招待状が見当たらない。

「……いかがされましたか？」

　門番の顔色が徐々に不審そうなものに変わっていく。

「ち、ちょっと待ってください。――ティンク、俺確かに内ポケットに入れてたよな！？」

「えっ！？　知らないわよ！　何か出かける前に確認してたような気はするけど……」

　後ろに並んでる人達もなんだなんだと様子を伺ってくる。

「ち、ちょっと一旦確認してきます！」

　不審者を見るような周りの目がいたたまれなくなり一度列から離れ、足元を確認しながら列の最後尾まで歩いた戻った。