07-10 アンデッドが何だっていうんですか!

 耳をつんざくようなけたたましい金属音がエントランスホールに鳴り響く。


 今まさに目の前で起きている出来事が、あまりにも予想だにしなかった展開で思わず口がポカンと開いてしまう。


 シスターが振り下ろした巨大な十字架。

 麻の服ちゃんが叩き潰される寸前、その前に立ちはだかったのは――



 シルバーソードさんだった!


「……し、シルバーソードのお姉ちゃん?」


 腰が抜けてしまいへたり込みながら、呆然と彼女を見上げる麻の服ちゃん。

 そんな麻の服ちゃんには振り向かず、じっと前を向いたままシルバーソードさんは肩を震わせている。


「……な、何なんですか! 皆さん揃いも揃って。どれだけあるじ様の事、大好きなんですか!? そ、それは私は錬成して貰ってまだ日は浅いですけど……。それでも、こんな恐がりで役立たずの私を見捨てないでいてくれる主様の事は……割と好きです! だから私だって主様のお役に立ちたい!!」


 はっきりとしたその強い口調は、今までのナヨナヨとしたシルバーソードさんとはまるで別人のよう。


「皆さんが主様のためにこんなにも頑張ってるのに、私……自分の事ばっかりで。確かにロングソードさんに比べればまだまだですけど――私だって、主様のつるぎなんです! 」


 ブンブンと首を振り覚悟を決めたように大きく目を見開くと、満月のような銀の輝きを放つ彼女の瞳から、湛えていた涙が流星のように弾け飛んだ。


「このまま主様を見捨てて、騎士の誇りすら失うのに比べたら、アンデッドが何だって言うんですか!! 私は“シルバーソード”! 闇を祓う聖なる剣です!」


 十字架を受け止めていた剣を素早く翻し、その重量を逆手に取って地面へと素早くいなす! シスターが大きく体勢を崩した隙に、カウンターの一撃が叩きこまれた。


 その剣捌きは――まさに勇猛なる騎士の剣技!!


 ロングソードさんの言葉が頭の中で蘇る――


『実力ではそこいらのアンデッドになど後れを取るはずも無いのだが――』


 相手はアンデッドじゃなくて“聖水”なのがやや気になるけれど……とにかく、吹っ切れたシルバーソードさんはめちゃくちゃに強かった。


 パワーで攻めるシスターの攻撃を軽々といなし、的確にカウンターを入れ続けていく。

 ロングソードさんの圧倒するような攻撃的な剣技とは違い、相手の動きを制し冷静かつ的確に最適な一手を放つような闘い方。


 シスターに致命的な傷は与えず、それでも徐々に機動力を奪っていく。つまり、手加減した上で制圧しているのだ。


 “補助アイテム”と“武器”。

 シスターがいくら異常な強さだとはいえ、その差を遺憾無く見せつけるシルバーソードさん。


 足に何度か斬撃を受け、ついにガクリと膝をついたシスターの前に、シルバーソードさんが立ちはだかる。


「さぁ、観念しなさい悪霊! シスターに乗り移ったのがあなたの運の尽きです」


 鋭い目つきで剣を構え直す。

 その構えからはさっきまでの頼りない様子はもう微塵も見て取れない。

 鞘を高く掲げ、切っ先の向こうに獲物を捕らえたその眼光は、冷淡で一切の揺らぎすら無い。


『……おのれ、おのれ小娘ぇ! 先程まで震え上がっておったものを! 突然なんだというのだ!? クソ忌々しいぃぃっつ!!』


 シスターがこの世の物とは思えないよじれた声で雄叫びを上げ、目を真っ赤に血走らせる。

 しかし……そんな気迫にはお構いなしに、シルバーソードさんはあっけらかんとして答えるのだった。



「だって、よく考えたら別にグロくないですし」



 ……あ、成程。

 グロいのがダメなんだっけか。そういえば最初っから言ってたかも。

 見た目は普通にシスターだもんな。

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