07-07 一階はいいけど……ニ階は
外から見た印象の通り、屋敷の中はかなりの広さがありそうだ。
さすがにロンドのジェルマン邸ほどの規模ではないだろうけど、それでもさっきから既に大きな部屋を3、4つは調べてきている。
しかし、まだ目的の絵は見つからない。
「ご主人様、そういえば探してる絵ってどんなものなんですか?」
木の盾ちゃんが俺の顔を覗き込んで問いかけてくる。
「んん? あ、いけね。みんなにはまだ伝えてなかったな。『死者と生者を分つモノ』ってタイトルで、なんか骸骨が額縁の外に向かって手を伸ばしてるような絵だって言ってたぞ」
「げ、何よその趣味の悪い絵」
ティンクが気味悪そうに顔をしかめる。
「さぁな。あの依頼人、必要最低限の事以外は何も喋ってくれなかったらからなぁ。絵の見た目以外の事は聞き出せなかった」
「まさかその絵……呪われてたりして!」
ピョンと跳ねて、隣で震えているシルバーソードさんの顔を悪戯に覗き込むティンク。
「こ、怖い事言わないで下さいよぉ!」
さっきからただでも泣き出しそうなのに、目に一杯に溜めた涙をどうにか堪えてアワアワと震え出してしまうシルバーソードさん。
こら、イジメるんじゃない!
「なーに、安心しな! 呪いは得意分野だよ! アタシに任せればイチコロさね!」
シスターがティンク達の方を振り返り、逞しい力拳を見せつけてくれる。
た、確かに呪いくらいイチコロなんだろうが……何だかこの人に任せておくと、肝心の絵画までタダでは済まない気がするんだよ。
シスターにお願いするのは最悪の場合だけにして、基本的には自分たちでどうにかしよう。
……
食堂、迎賓室、寝室――次々と見て回るけれど、それらしい絵画は見つからない。
館の中を一周してしまったらしく元のエントランスホールに戻ってきた。
「……あれ? どこの部屋にも無かったですね?」
「おかしいわね。見逃した部屋は無いはずだけど……」
首を傾げる木の盾ちゃんと麻の服ちゃん。
「……一階には無いって事ね。となると――」
ティンクが階段の方へ視線を向ける。
「ニ階か。夜が明けないうちにさっさと探すぞ」
さっそく階段へ向かおうとしたとき――
「ちょっと待ちな。……ここからはアタシが先に行くよ」
後ろから俺の肩を掴むとズイと前に出るシスター。さっきまで絵画探しには興味なさそうにだったのに、真剣な顔で階段の先を見据えている。
「……あの、どうかしたんですか?」
「分からないかい? この屋敷……一階は大したことないけど、二階はとんでもない怨念が渦巻いてるよ。一階だけで事が済むなら、無闇に怖がらせる事もないと思って黙ってたんだけどね。二階へ上がるなら覚悟しな」
注意を促すように、皆へと視線を向けるシスター。
「ええええ、ほ、ホントですか!? や、やめましょうよマグナスさん! シスターが言う程だからよっぽど危ないんですって!」
涙を浮かべながら俺に縋りつくシルバーソードさん。
「そうは言ってもなぁ、仕事だし。それに、もし本当に危険なんだとしたら尚更放っておけないぞ。俺たちがこのまま帰ったとして、キキーナ婦人が他の人に頼んだらその人が大変な目に会っちゃうし。俺たちにはシスターも居るんだし今のうちに何とかしておくべきだろ」
「ハッハッ! よく言った! さすがアタシのお気に入りだ! 肝が据わってるじゃないか!」
そう言ってバンバンと俺の背中を豪快に叩くシスター。背骨がミシッと音を立てる。
「まぁ、怖い奴らはここで待ってな。なぁに、絵を取ってくりゃあいいだけだろ? アタシだけでも十分だからさっ!」
踵を返すと躊躇いもなく階段を昇り始めるシスター。
「さすがにシスターだけを行かせる訳にはいかなって。俺も行くよ。他の皆んなはここで待っててくれ」
慌ててシスターの後を追う。
「ち、ちょっと! あんただけで大丈夫!? 私も……」
「いや、お前は他の皆んなを頼む。直ぐ戻るから」
追ってこようとするティンクを制止し、不安そうな顔をしているちびっ子達と、声もなく泣きべそをかいてるシルバーソードさんへ目を向ける。
それを見て少し困ったように戸惑いつつも、頷きみんなの元へと戻っていくティンク。
俺も頷き返し、階段を駆け上がると急いでシスターに追いつく。
「なんだい! 肝が据わってる上に男気まであるなんてね! ますます気に入ったよ!」
満足げな顔をしたシスターが、がっしりとした上腕二頭筋で俺の肩を抱いてくる。鋼のような筋肉で首をメキメキと締められ、骨がゴキゴキと音を立てる。く、苦しい!!
必死に腕をパンパンとタップして、どうにか熱い抱擁を解いてもらった。
この調子じゃ、呪い殺されるか筋肉に殺されるかどっちが先だろうな……。
一段登る度にギシギシと音を立てて階段が軋む。この館、いったいいつから放置されてたんだ……?
踊り場まで昇ったところで、ふと壁にかけられた大きな肖像画が目についた。
破れて顔が無いにも関わらず、何だかじっとりとした目線で見下ろされているような気がして気味が悪い。
そのまま階段を昇り切り、吹き抜けを囲うようにぐるりと回る空中廊下から階下のティンク達を確認する。
皆んな揃って不安そうにこっちを見上げている。
「大丈夫だ、直ぐ戻るから! もし何かあったら俺たちの事は気にせずに直ぐに逃げろ。あ、シルバーソードさんの事よろしく頼むぞ!」
怖がりなシルバーソードさんのことだから、何かあったらその場で泡を吹いて気絶するだろう。あいつら、パニックになったら気づかずにそのまま置いて逃げそうだしな……。
「わ、分かりました!」
「シルバーソードのお姉ちゃんは私達がしっかり守ります!」
元気よく返事をして、シルバーソードさんの両手をそれぞれギュッと握る麻の服ちゃんと木の盾ちゃん。
その頼もしい姿を見ると、思わず口元が緩んでしまう。
「さ、それじゃこっちも気合い入れて行くよ!」
息巻くシスターに続き、エントランスホールを出て二階の廊下へと進む……。
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