05-06 独白
「何だい!? 僕は一刻も早く帰って姫様と二人きりになりたいんだよ! 邪魔しないでくれるか!?」
薬の効能なのか、それとも元々の性格もあるのか。
もはや清々しいとさえ思えるキレっぷりでキロスが睨み返してきた。
「すいません。いや、キロスさんの姫様に対する愛情の深さに深く感銘を受けまして。キロスさんは心から姫様の事を敬愛されているんですね」
「当たり前だろうがっ!! 何だ、まさかそんな当たり前の事を言うためにわざわざ僕達を呼び止めたのか貴様?」
声を荒げながらもその口元は微妙にニヤついている。よし……おだては効いたみたいだな。あと一息!
「いえ、めっそうもありません! ただ一つだけ――念の為に一つだけ確認させて下さい」
深々と頭を下げてキロスに質問の許しを請う。
「……何だ? さっさと言え」
よほど早く帰りたいのか、苛立ちつつも俺の質問に答えようとしてくれるキロス。
――掛かった!
「キロスさん。あなた、そこまで愛されている姫様に対して――まさか重大な隠し事なんてしてませんよね?」
「……何の話だ」
キロスの顔が一気に怒りに満ちていく。こめかみに血管をひくつかせ、目で見ても分かるほどに唇をプルプルと震わせ顔全体で怒りを表現してくる。
「僕が聞きたいのはつまりこういう事です。――姫様があなたに抱くその恋心。これは本物ですか?」
「――貴様ぁ! それは僕と姫様双方に対する侮辱と取るぞ!!」
「――だとしたら! あなたのその行いは、錬金術への冒涜として俺は取りますよ!」
声を荒げるキロスに対して、負けじと俺も声を張り上げて応じる。
「だ、だから……何の話だ。何故今錬金術が関係ある」
錬金術の話を出した途端に勢いを失い口ごもるキロス。つまり、思い当たる節があるって事だな。
一気に畳みかけるぞ!
「はっきり申します。キロスさん。いや、王宮錬金術師キロス・モーリア!」
キロスの鼻先を指差し、確信を告げる。
「あなたまさか、愛するシェトラール姫に――“惚れ薬”なんて盛ってませんよね」
俺の発言に、その場に居た全員が固まる。
「――ちょ、マグナス!? なんで惚れ薬の話がここで――!」
慌てて口を挟んでくるティンクに掌を向けて、『いいから黙って聞いてろ』と静止する。
「そ、そうだぞ貴様! なにを訳のわからない事を……」
口では気丈に振る舞ってるつもりだろうが、明らかに目を泳がせてどんどんとキロスの挙動が怪しくなっていく。
「訳が分かりませんか? 身に覚えも無いと? もし本当に俺の勘違いならば、名誉毀損で訴えるなりなんなり好きにしてください。ただその前に――俺にじゃなくて、愛する姫様に向かって“コイツの言ってる事は大嘘です”と一言でいいので明言してください」
姫様の方へ向き直り固まるキロス。
そんな彼を見て、姫様はただじっと黙り前を向いている。
「どうなんです、キロスさん。まさか愛する姫様に……嘘なんかつけませんよね?」
キロスの額には特大の脂汗がどんどんと浮かび上がり、唇は何か言葉を吐き出そうとしてはブルブルと震えている。
「キロス……」
何も言わないキロスの肩に、姫様が震える手をそっと伸ばそうとした……その時――
「――申し訳ありません姫様ぁ! 敬愛する姫様に隠し事をするなど、私が愚かでしたぁぁ! そうです、このキロス・モーリア! 姫様のお食事に、自ら錬成した惚れ薬を幾度にも渡り混入させておりましたぁぁ!!」
懺悔と共に膝から崩れ落ち、床に突っ伏すキロス。そのまま四つん這いになり、床に顔を埋めて泣き出してしまった。
……すごい効き目だな。これじゃ“惚れ薬”ってより、もはや自白剤じゃないか。
惚れ薬さんが錬成の調合を決める時に言っていた一言を思い出す。
『今回はこれくらい強力な方がいいわ』
……なるほど、ここまでの展開も含めて折り込み済みか。流石だ。
――そう。
惚れ薬さんが去り際に俺に言い残した言葉。
『あの子、惚れ薬を盛られてるわよ。私が言うんだから間違いないわ』
シェトラール姫の恋心は、錬金術によって作られた物だった。
俺たちが今目の前でやって見せたのと同じく、惚れ薬によって作られた“偽物”だ。
キロスの独白を受け、シェトラール姫はただただ呆然と立ち尽くすだけだった。
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