05-02 魅惑的な惚れ薬さん
「こんちは! おじちゃん、この手紙王宮まで頼むよ! 速達で」
シェトラール姫宛の手紙を持って町の通信商を尋ねると、店先ではいつも通り店主のおじちゃんが呑気に煙草を吸いながら日向ぼっこをしていた。
「おぉマグナスちゃんか、いらっしゃい。今王宮って言ったか? 珍しいな。何かの手続きかい?」
「まぁ、そんなとこかな」
実際は惚れ薬の材料が揃ったので一度店まで来て欲しい、という内容だ。
第三王女とはいえ一国の姫君を店に呼び出しとは、俺も偉くなったもんだ……。
指定された通りに宛名を記載した手紙をおじちゃんへ渡す。これで宮廷内の検閲をパスして直接姫様に届けられるはずだ。
「えぇと。このサイズだと鳩は無理だから……狼だな。速達で王都までとなると……3時間程で着くが、それで大丈夫か?」
「うん、問題ないよ」
「よっしゃ。そんならうちのエースの出番だ」
おじちゃんが、小屋で昼寝していたフォレストウルフを1匹連れて来る。
真っ黒な毛並みにモフモフの尻尾。コテツくん(8才♂)だ。
人懐っこい性格で町の人気者でもあるが、その俊足は店で一番。町と王都を繋ぐ"
森狼便のユニフォームでもあるハーネスをおじちゃんに付けて貰い、背中のリュックに俺の書状を詰めるコテツくん。
「コテツ、よろしく頼むな」
頭をひと撫でてやると、舌を出して嬉しそうに尻尾を振った後素早く森の中へと駆け出して行った。
……
その日の夕方。店に書状が届いた。
シェトラール姫から直筆のお返事だ。
さっそく明日の昼においでになるとの事。相手が相手だ。騒ぎにならないよう明日は店を閉めて貸切にしておこう。
―――
翌日昼過ぎ。
店の前に例の豪華な馬車が溜まり、黒いローブで顔を隠したシェトラール姫がご来店された。外ではこないだと同じく護衛の兵士が門番をしている。
……この人、本気で“忍ぶ”つもりあるのかよ、というツッコミはさておきティンクと一緒に出迎える。
「随分と早かったわね。1週間程かかるかと思ってたけれど」
挨拶も早々にカウンターに腰掛ける姫様。
「えぇ。初めての事なので多少納期に余裕を見させて頂きましたが、あの程度の魔物ならそれ程時間はかかりませんでした」
ここは俺の有能ぶりをアピールしておくべきだろう。出来る錬金術師を気取って、胸に手を当ててペコリと頭を下げる。
「あら、そうなの? まんまとサキュバスの術にかかって夜中に家の中を逃げ回ってたって"授乳欲の錬金術師"からの手紙に書いてあったけど」
う……。バレてる
そういえば帰り際にナーニャさんが御者さんに手紙を預けてたな。シェトラール姫へ宛てた報告書だったのか。
「……そ、それはさておき。姫様に一つお願いがありまして。会って欲しい人が居るんですが、良いですか?」
「……人?」
「えぇ。僕の……助手みたいなものです。惚れ薬について特別詳しい人物で、少しお話を聞いて上で今回の錬成の方針を練らせて頂こうかと」
「そ、そうなの? 中々ややこしいのね。それで品物の質が上がるというなら構わないけど……秘密は守れるんでしょうね!?」
「それに関しては安心してください。秘密は必ず守ります」
姫様の承諾を受け一端工房へと下がる。
――
それでは早速いきますか!
用意しておいた【惚れ薬】のポーションを工房の床へ撒く。
光が立ち込め、中から現れたのは――
淡い桃色の髪が印象的な大人の女性。その緩く癖のついた髪は今にも床に届きそうなくらいに長い。
潤んだ薄紫の瞳はまるで夜空のように静かに揺れ、全体的にどこか妖しい美しさが漂う人だ。
そしてなにより――! 身にまとっている服は露出度の高い黒の下着に、薄らと透けて見えるチェニックのみ!
俗に言うエッチなパジャマ風だ。てかほぼ下着じゃねぇか!
「あら。久しぶりに呼び出されたと思えば、今度のマクスウェルは随分と可愛らしいわね」
俺の興奮などお構いなしに、妖しい笑みを浮かべながらヒタヒタと俺に近づいてくる惚れ薬さん。
ヒタヒタ? あ、裸足なんですね。
足首に付けたアンクレットがセクシーだ。
その迫力に押されて思わず1歩後退りしつつも、どうにか言葉を返す。
「え? あの、うちのじいちゃんを知ってるんですか?」
「えぇ、勿論。ページーには一時期頻繁に呼び出されていたもの」
――あのジジイ! ティンクに隠れてめっちゃ使ってんじゃねぇか! 前言撤回! やっぱりろくでもねぇジジイだ。
「あ、でもあの人、自分の欲の為に惚れ薬を使った事は無いわよ……って、そんな話を聞く為に私を呼び出したのかしら?」
「あ、いえ、違います。実は力を貸して欲しい事があって――」
危ない、本来の目的を忘れるところだった。
話を元に戻して、惚れ薬さんにこれまでの経緯を手短に説明した。
……
「――成程ね。お姫様と錬金術師の色恋かぁ。中々面白そうじゃない。さっそく会って話を聞いてみましょう」
良かった。興味は持ってくれたようだ。
さっそく惚れ薬さんを連れて店に戻る。
……
「お待たせしました。こちらがアシスタントの……えっと――」
「アフィーです」
姫様に向かって深々と一礼する惚れ薬さん。
アフィー? ……あぁ。惚れ薬の学術名“アフラディヅァーク”から取ったのか。
「シェトラール・デルタグランテ・モリノよ」
「えぇ。もちろん存じ上げております。お会い出来て光栄です、姫様」
惚れ薬さんがもう一度深々と首を垂れる。
「うむ、構わぬ。面を上げよ」
その様子を見て満足げにうんうんと頷く姫様。
さすが惚れ薬さん。無作法な俺たちと違ってさすが所作術を心得ていらっしゃる。すっかりお友達モードのティンクを見て油断してたけど、相手は一国の姫君なのだ。
「恐れ入ります。……ではさっそくですが。今回のご依頼について大まかなお話は既にお伺いしております。お手数ですがあと幾つかお聞きしたい事がございまして、ご協力頂けますでしょうか。薬を作るために必要な事ですので」
「……分かったわ」
「ではまずお二人の関係についてですが――」
ちょいちょいと横からティンクが話しに割り込むもので、聞き取りというよりは女子トーク的なノリで話はどんどんと弾んでいった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
【惚れ薬】
古往今来、多岐にわたる分野でその名前が出てくる妖しい薬の代表格。
飲ませた相手を自分の虜にしてしまうという点で特徴は一貫しているのだが、詳細な効能や用法については千差万別の噂がある。
その中で本当に効果があるのは果たして何パーセント程のものなのだろうか。
ちなみに、性的興奮を誘発するといわれる“媚薬”とはまた別物らしい。
※惚れ薬さん
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