03,12年後の悪夢から三途の川の謎 (1)


長い長い螺旋階段を構延は透の後ろを一歩ずつ下っていた。

校長室があった所は塔の上であった事が底が見えない螺旋階段から分かる。


気にしていた酸素は何故かあり明かりも窓から日光が土の合間を抜けて建物を照らしていた。


この建物は構延が思っていたよりとんでもなく大きい事に驚いていた。


自分達がいた校長室はこの学校のほんの一部に過ぎなかった。


「なあ…サヨの事だけど」


構延はこのタイミングしかないと思った。

透は悲しい事や苦しいことがあった時それを他人には言わない。

時が経てば経つほど口を閉ざし、度合いが大きいほど自分の感情に気づかないふりをする。


彼が自分にあってから小夜子の話を一度もしない事。


そして慎重な透がいつ崩れるか分からない。酸素も明かりもあるか分からない建物に入ろうとしたのも。

異獣がいるかも知れないと分かっているのにそれでも行こうと構延に言った時のあの笑顔。



全て小夜子が死んだ事に関係していることを構延は彼の顔を見て分かっていた。



だってサヨと透は透の家族が死んだ時からずっと一緒にいたから…家族よりも深くそして大事な仲だって知ってたから…透がサヨに友達以上の関係を思っていたのも…


「ん?」

「いや何でもない」

「俺は平気だよ。人が死ぬ事は慣れてる」

「…でも」

「人が死ぬ事はこの世界では当たり前だろ。だから別に慣れてる。お前もそうだろ?」

「……ああ。でもサヨは…」

「平気だから!──な?」



じゃあ何でお前…そんなに声が震えてんだよ。

平気な奴の声じゃないだろ。

確かに人が突然、死ぬ事には慣れてる。


昨日まで話していた友達…余ったおかずをお裾分けしてくれるお隣さん。

全員、何の前触れもなく死んだ。


だから悲しむ事はしない。体が持たないから精神がおかしくなるから。


でも…でも!お前にとってサヨは…



「お前は死ぬなよ。俺が死ぬまで」


そう言った透はどこが悲しげだった。


「…今から死ぬかも知れないよ?」

「ふっ…確かに」


長い長い螺旋階段もそこが見えてきた。

木のタイルが見えて透と構延は駆け足で階段を降りる。


そこは広い伽藍堂になっていた。まるで学校の体育館のように広かった。しかしボロボロの壁や何かが取り付けられていたであろう跡がここは何かの広場であったのだろう。


この広場から根っこのようにたくさんの廊下が生えていた。明かりも酸素も依然として存在していて透と構延はもうすでにその事に考えを巡らすことをしていなかった。


「広いなー。なんかお化け屋敷みたいだな!」


構延は未知の世界に入り込んだように廊下を覗き込んだりしていた。


「でもよ?その黒陰クロカゲとか言う奴いなくないか?」

「…ほらやっぱあれなんじゃない?エセ宗教が崇めてる神様的な?」

「そのエセ宗教の教祖の息子かよ。俺」

「俺はその教祖の右腕の息子だ」


その時だった。


バン!


構延が覗き込んでいた廊下から扉が開く音が聞こえた。


透と構延は身を固くする。


「……やばいやばいやばい」


構延は大急ぎで広場の真ん中にいた透の元に戻ってきた。


「どうする?透?まだ帰れるんじゃない?」

「……と、とりあえず戻るか」


透が螺旋階段の方を向くとそこに螺旋階段は無かった。

螺旋階段があった場所は黒い壁に変わっていた。


「…まるで映画の世界だ」


透は黒い壁を触りながらポツリとつぶやいた。


「ハリー・ポッター?」

「いや13日の金曜日」

「死ぬじゃん!」


「早く来ーーーい!!!!」


透と構延はまた身体を固くする。


その声はこの不気味な空間にはそぐわない子供の声だった。


「え?子供」


構延はさらに驚いた。


「なあ?まさか迷い込んだのかな?」


構延の問い掛けに透は薄らと笑った。


「…それかお目当てのエセ宗教の神様かもな?」

「やめろよ透」

「どっちにしろ会わなきゃ始まらないぞ」

「あーくそ。行かなきゃダメだよなー」


怯えてる構延を無理矢理連れて音がなった方に向かった。


廊下を歩くと一つだけ空いている扉があった。

そこだけ明かりが強く光っていた。


「覚悟決めろよ。構延!」


構延は大きく息を吸うとゆっくり吐いた。


「よし!行こう!」


教室に入るとそこは長机が並んでおり後ろの生徒も見れるように段差が作られていた。


段差を全て降りた先にある大きな黒板。

その前にあるまた大きな教卓の上に1人の少女があぐらをかきながら座っていた。


その少女の周辺にはボロボロになった本が落っこっていた。


黒い衣服に身を包みその少女の肌は褐色で長くした金髪を無造作に後ろに束ねていた。


「何年待たせるんじゃ!!この!!えーとあれじゃ!!カス!ゴミ!────ちょっと言い過ぎたけど!とにかく!待ったって事じゃ!」


少女は顔を真っ赤にして教卓の上に立った。


「……え?誰?」


構延は透と少女の顔を交互に見る。


「とにかくなんか怒られてる事だけは分かるな」

「それと迷子になった子供でもないね」


「おい!お前ら永星家と機坂家の末裔か?」

「……そうだけど」

透は恐る恐る言った。


「名前は!!?」


「永星透」

「えーと機坂構延…です」


少女は腕を組みながら片足をトントン教卓を踏んでいた。


「あなたの名前は?」


透はその少女にある期待そして望み──確信を持って聞いた。


怒っていた少女は突然、何かを褒められた子供のような顔に変わった。


「わしの名前は黒陰クロカゲじゃ!!」


「こ、この人が知性異獣…」

「そうじゃ!!伝説のな!」

「全く見えないが多分な」

「多分じゃなくて本当の知性異獣じゃ!しかも伝説の!」


黒陰は教卓を飛び降りて長机を経由しながら透と構延の目の前まで来た。


「わしは!あの伝説の異獣!黒陰じゃ!!」


ドヤ顔している黒陰、困惑している構延。


そして覚悟と期待を胸に抱く透。


この2人と1匹の出会いがこの世界の根幹を揺るがす事になるのをまだ誰も知らなかった。





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今後は文字数を1000字〜1500字に減らします。

よろしくお願いします。












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