02,12年前の三途の川から今まで (2)
異獣による殺害が当たり前になりそして対処する事が出来ない人類は死ぬ事を常識とする概念を持つ者達が現れた。
その者達は例外なく…
大切な人達を亡くしていた。
透が1階の階段を降りると階段を登ろうとする構延と会った。
「平気?」
「いや…まあ平気」
構延は彼がなぜあそこで自分と共に一階に行かなかった事を小夜子を助ける為だと理解しそして今の彼の表情を見てそれが叶わなかった事を知った。
構延は歯を食いしばる。
透は死を常識としながらも生に執着する人間であった。
小夜子が死んだ時、彼は自分自身も死んでもいいと本気で思っていた。
しかし構延の声を聞き彼は生に縋り付く事を選んだ。
そう決めた透はもう小夜子の死を悲しむ事は無かった。
悲しみでは小夜子は戻ってこない。
そしてその感情が今、自分自身の生存確率を著しく下げる事を即座に理解し彼は感情を消した。
「構延…構延!」
しかし構延は透のようにはいかなかった。
「わかってる。わかってるよ透」
「1階の状況は?外に出れるか?」
「1階には変なチンパンジーみたいな奴がいて俺が下に行った時にはほぼ死んでた。それに他のクラスには幽霊みたいな奴がいてそれが催眠?みたいな事して全員死んでた。恐らく生きてるのは俺らだけ…かも知れない」
2階とほぼ変わらないか。
そこで透は疑問を抱く。
「じゃあどうしてあの時、カーテンが…」
「あれはカーテンを机に縛り付けて思いっきり窓から投げた」
「お前…よく俺の意図を理解したな?」
「何も考えてないよ。でも透があの状況で理由を聞く時間なんていらないでしょ?」
透は自分の親友を見て本当にこの男が友達でよかったと思った。
透の口足らずの所を察知して行動してくれるそんな友達を心の底から死なせたくないと思った。
「ほら早く行こう。今からダッシュで校門まで走ってそっから家に帰る」
構延は走り出す。
「分かった!行こう!」
1階に行くと廊下に猿のぬいぐるみがいた。
どうやら生徒の返り血を浴びたのだろう真っ赤だった。
「どうする?あいつがいて玄関まで行かないよ?」
「職員室に外に出る扉があるそこから行くぞ!」
透と構延は猿のぬいぐるみから反対側に走り職員室のドアから外に出る。
そこで彼らは絶望する。
外にはこの校舎ぐらい大きい鯨が空を泳いでいた。
その鯨はニヤリと笑うとこの学校の一つだけの道を突進して壊した。
とてつもない音と土煙。
その音と煙の間で透は見ていた鯨の歯がまるで人間の歯みたいになっている事をそしてその口の中に無数の人間がいた事を。
透と構延はその衝撃で咄嗟に屈む。
「うお!やっば!校門ダッシュはもう無理か」
透は今見た光景を忘れようと努力していた。
人の死体は彼に悪夢を思い出させる。
歯。人。山。土煙。血。蝉。鯨。血。絶望。
「おい!透!しっかりしろ!」
構延に肩を掴まれて透はようやく現実に戻ってきた。
「わ、悪い。とりあえず山の中に…」
ポヨ ポヨ ポヨ
返り血まみれ今や変わり果てた姿になった猿のぬいぐるみ……猿の異獣が自分達と同じ方法でグラウンドに出ていた。
パキン!
窓ガラスが割れる音。
2階から先ほど透が蹴った猿の異獣がグラウンドに現れた。
「山の中に!走れ!」
透と構延は校門とは逆に走り山の中に入る。
後ろからは
ポ ポ ポ
と走る音がする。
どこまでが奴らの射程距離なんだ?
直線に入ったら間違いなくシンバルで死ぬ。
何か障害物があれば奴らの攻撃は効かないとか?
それならここに沢山の木がある。
透と構延は猿の異獣と自分達の間に必ず木を挟む事を考えながら走った。
山の奥深くまで透と構延は走り続けた。
息も切れて身体が走る事を拒否してくる。
胸が痛くなり足の裏が痛い。
しかしそれでも奴らの足音は聞こえてくる。
「も…もう無理だ。俺死ぬ」
「待て構延!諦めるな。ここまで来たじゃねえか」
すると前方に土に埋もれたある建物を発見する。
それは長い年月かけて土に侵食され今や廃墟なった古い建物だった。
しかし土に埋もれてもなおその威厳さは失われておらずどこが不気味に透と構延を見ていた。
「あそこの建物!見ろよ!あそこまで行こう!」
「はぁはぁはぁ──わ、分かった。あそこまで」
ポ ポ ポ
透が後ろを振り向くと猿の異獣2匹はシンバルを叩こうとしていた。
「飛び込め!」
透は構延を押しながら自分その建物に飛び込んだ。
ガッシャーン!!
ガッシャーン!!
2回シンバルの音がなった。
しかし彼らは死んでいなかった。
2匹の異獣は何故か目的を失ったように周りをキョロキョロと見て踵を返した。
助かったのか?
息を整え透は廃墟を見渡す。
まるで見る影もないの木の柱や瓦礫、朽ちかけた壁などがあった。
しかしかろうじてここが何かの学校である事が分かった。
それは何故か。
東京・新宿高等魔術学院 歴代校長画 と書かれていてその下に所々抜けている校長の絵が飾ってあったからだ。
透はその東京・新宿高等魔術学院を見て何か怪しい宗教を思い浮かべた。
魔術って…やばいな。こんなクソ田舎にこんな怪しげな建物建てるなんてしかも山奥に…
まあ…異獣を倒したいって気持ちは分かるけどこんな怪しげなことしても意味ないのにな。
やっと息を整え終わった構延もその校長画を眺めた。
「うわぁすご!凝ってるなー。見ろよ歴代ってこれ本当だったら30人ぐらいいるぜ?しかもお爺ちゃんばっか」
構延は抜けた所も数えながらある程度の数を予想した。
「まあ長く続いてますよーってのを表現したかったんだろ。歴史は人を騙す一つの手だからな」
「確かに言えてる──なあ絶対、この中にいる5人ぐらいネットで調べたら出てきそうだよな?」
「多分、農家とか普通の仕事してる奴らだぜ?」
「勝手に使われて可哀想〜」
構延と透は笑い合った。
しかし構延は調べても東京・新宿高等魔術学院なんてものは出てこなかった。
「なあ?出てこないぞ?こんな学校」
「えー。こんな山奥の田舎にあるんだからさ。宣伝しなきゃ誰も来ないでしょ」
「本当、本当。占いとか漫画とかしか出てこないよ」
透は校長画に近づいた。
すると目の前に丸机が現れた。
「うえっ!?」
「どしたー?虫?」
構延はまだこの学院の事を掲示板やSNSで探していて突然、机が現れた事に気づいていなかった。
「構延!おい!コウエン!」
「何だよ…え…その机どこに?」
「わかんねえ。いきなり現れた」
「はぁ?ん?なんかのってね?」
透は丸机をまた見る。
「……書類みたいな?いや手紙?」
構延も丸机に近づく。
「開けてみようぜ?」
「どうすんだよ?ミミックみたいな異獣だったら」
「それだったらもう死んでるよ。開けてみよう」
構延は丸机に置かれた書類を手に取り床に腰を下ろした。
透も同じように腰を下ろして書類を覗き込む。
「えーと私は……
「は?
透と構延は顔を見合わせる。
「透の苗字だ」
「俺の祖先がこんな…インチキ魔術師だったのかよ」
いつも夢で見る母親の実家 柏崎家で見る悪夢を思い出す。
俺の爺ちゃんも全員こんな名前じゃないしそれに…父親の家は異獣に殺されてるって聞いてるし
「と、とりあえず読むね」
「頼む」
「え、えーとこれを目にしているという事は私の末裔が何らかの形でこの学院に訪れているという事だろう。そして私と同じ"
「ちょちょ待て。硝子の魔術師?やばいってやっぱり」
「俺もそう思うけどこの机が突然現れたのも何か変だと思わない?まるで魔法……」
「本当に言ってるのかよ?構延?もういいよ。辞めようぜ?もっとちゃんと祖先の事とか聞いておくべきだった」
構延は諦めて最後の方だけなんて肩書きが見ようとした。
しかしそこで次は構延が目を見張る番だった。
「お、おい!これ!これ!」
構延は書類の下の所を指差す。
そこには
東京・新宿高等魔術学院 校長
副校長
と書かれていた。
「は?え?機坂ってお前じゃん」
「そう俺だよ!俺も祖先もこのインチキ学校にいたんだよ!」
「最後まで読んでみよう!やっぱりなんかやばい気がするぞ!」
透は書類を見る。
ここに全ての記載する事は余りにも不可能だ。それに私の末裔がいつ来るか分からない以上、魔力を最小限にして保管と選抜に特化しなければいけない為、手短にしか記載できない。なのでこの学院の地下に私と契約した知性異獣がいる…はずだ。恐らくだがきっと約束を守ってくれている…はずだ。
なので詳しい事はその知性異獣に聞いてくれ。
名前は
君にしか頼めない。この日本を頼んだ。
硝子の魔術師より世界へ そして私の末裔へ
「な…何だよこれ。しかも地下ってここもうないじゃねえか」
「それに知性異獣って何?異獣に知能があるって事?そんなのがいたら俺ら終わりだよ」
「な、なあこの瓦礫の下に階段ない?」
構延が右奥を指差す。
「…お前、行く気?」
「いやいやまさか。だって酸素とかないと思うしそれにもしそのクロ、カゲ?みたいな奴がいたら死ぬし」
ポヨ ポヨ ポヨ
透は建物を外を見る。
そこにはまだ2匹の異獣が自分達を探し回っていた。
俺達が見えてないのか?本当に…魔法?
「でもよ。俺ら外に出れないよな。なんかこいつら見えてないし」
「しかもさ俺らどうやって帰るの?山奥出し完全に遭難したよね」
ドン!
建物が揺れる。
その揺れで瓦礫が崩れ完全に階段が見えた。
「……もしその
透は階段を見ながら構延につぶやく。
「お前…行く気だろ」
「異獣の攻撃は異獣に効くんだよ!なあどうせここにいても遭難してるし外には異獣いるしこの階段……行ってみないか?機坂副校長」
透は構延に笑いかける。
「校長の言う事には逆らえないな。どうせ死ぬぐらいなら喋る異獣に会ってから死ぬかー。永星校長」
構延は透に笑い返した。
彼らは立ち上がり階段を一歩下った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます