第20話:宙ぶらりんのこの気持ち[5/20(日)]

 「……うーん、かなりガッツリ折れてんな。この折れ方だと内臓もちょいヤバいかも」

誰かが話している。

(この声、どこかで聞いたことあるような)

声をかけようと息を吸った。

「……‼︎」

お腹にものすごい痛み。

「大丈夫か⁉︎ほら、もう少し浅く息吸って」

「ひっ、ひー……」

痛いところを押さないように慎重に息を吸う。

太樹たいじくん、だっけ。唄羽うたはの友達だよな」

「あ……」

(この人、確か)

「うん?ああ、俺は清森きよもり――木戸きど清森。前に会った事あるよな」

俺は小さくうなずいた。

「今、傷の治りを早める処置しょちをしてるからな。少しラクになってきただろ」

「はい、少し」

首を上げてお腹の方を見てみる。

(何か巻いてある。紙?なんか書いてある……)

「ん、これ?墨字すみじで回復の言霊ことだまを込めた……巻物?まあ長い和紙だな、うん」

「それって、みんなできるんですか」

「いや?紙に文字書いて言霊込めるのは木戸うちくらいだな」

「そうなんだ……」

(じゃあ、あの時骨がくっつきかけてたのは。……もしかしてあの紙切れのおかげ?)

俺は、学校で『サバイバーズ・ギルド』の二人に会った時の事を思い出していた。

「一回くっつけた感じあるな。りんがやったのか……」

木戸さんがつぶやく。

「リンさんって、お知り合いですか?」

「ああ、ちょっとな」

木戸さんは少し目を逸らした。

「うし、これで大体大丈夫だろ!戻っても大丈夫だけど、後で病院行きなよ」

「あ、ありがとうございます」


 グラウンドに戻る。

(思ったより落ち着いてるな)

みんな不安そうにヒソヒソ話をしているけど、パニックになっている感じではない。

「あっ、も、戻ってきた……!」

「心配したんだよ〜‼︎」

手戸てどくん、レンさん。心配かけてごめんね」

「ホントだよ〜!なんかパトカー来てるし、『人が死んでる』ってウワサもあるし。ボクもう太樹たいじくんが死んじゃったと思ってメチャクチャ心配したんだよ〜!」

「う、唄羽ちゃんも。具合悪くなって、おうちの人に送られてったし。もう本当に不安で……」

「えっ、手奈土てなづちさん帰ったんだ」

(まあ、思いっきりお腹蹴られてたもんな……。後でお見舞いに行こう)

そんな話をしていると、グラウンドの向こうから人が走ってきた。

「兄さん」

「あっ、実行委員長!どうしたんですか?」

2年のリョウ先輩が言った。

「ごめん、ちょっと行ってくる」

「いってら。なんか大事な話っぽいしね〜」


 芽亜里めあり団長と兄さんが話している。

「じゃあ、そういう事で」

「おう。伝えとく」

他の組の陣地じんちに向かう兄さんと目が合った。

「太樹」

「何かあったの?」

「うん。……体育祭は中止。保護者が来てる人は一緒に下校、そうじゃない人は保護者の迎えを待ってなるべく早く下校だって」

「……死体が、見つかったから?」

兄さんは暗い顔でうなずく。

「みんな頑張ってたし、3年生にとっては最後の体育祭だけど……。こんな事になっちゃったからな」

後ろを振り返って見る。みんな荷物をまとめて次々と帰っていた。

「太樹は?先に帰るか?」

「ううん。兄さんと一緒に帰るよ」

「そうか。じゃあ、いつでも帰れるようにして父さんたちのところに行っててくれ」

「うん。気をつけて」

泣きながら帰る人、嬉しそうに帰る人。生徒と入れ違いに警察官が学校に入っていくのが見えた。


 家に帰ってきた。荷物を置いて私服に着替える。

「太樹、出かけるのか?」

父さんに聞かれた。

「うん。山の上の公園まで」

(ウソは言ってない。手奈土さん、公園の近くに住んでるって言ってたし)

「そうか。山に登るなら、クマよけの鈴をつけていくんだぞ」

「はいはい、わかってるって」

コンビニで買ったフルーツゼリーとスポーツドリンクをリュックに入れる。

「あくまで、建前としては、『お見舞い』だから、手土産、くらいは、持って、行かないと……!」

そんなことを呟きながらきつい坂道を登る。

「ハア、ハア……キッツ……」

ほとんど登山の登り坂を30分歩き続ける。

「や、やっと着いた……」

お屋敷の玄関前に辿り着く頃にはすっかりヘトヘトになっていた。

「えーと、どうすればいいんだろ」

扉をノックしてみる。

「ごめんくださーい!」

引き戸が細く開いた。

「何です、今忙しいんですが」

スキマから狐のお面が顔を出す。

「わっ、薬研やげんさん⁉︎す、すみません」

「おや、そう言うアンタは手奈土のおじょうさんの。お見舞いですかい?」

「は、はいっ」

「ちょいと騒がしいですけど、良ければお上がりくだせぇ」

「じゃあ、お邪魔します」


 屋敷の中は思ったよりも明るかった。

「あの、これ。お見舞いです」

「おお、こいつぁどうも。後でお渡ししておきやすね」

あちこちで人が動いている。

「手奈土さんはどんな感じですか?体調不良って聞いたんですけど」

「うーん。平たく言うと、霊力れいりょくを通しすぎて消耗しょうもうしている感じですかね」

「えーと、つまり……?」

「ほら、端末を充電しながら動画なんか見るとバッテリーが消耗するでしょう?それと同じようなモンです」

「それって、治るんですか」

「ええ。相生そうしょうの霊力を流してあげれば良くなりやすよ。今はたける坊ちゃんがつきっきりで看病かんびょうしてるみたいですね」

「じゃあ、会えないんですね……」

「まあ、そう気を落とさずに。元気になればまた会えやすから」

「じゃあ、俺、帰ります。お忙しいでしょうし……」

俺の肩を薬研さんがつかんだ。

「せっかくなんで、お茶でも飲んでいきやせんかい?」

「はい……?」

「ほら、こんな山奥まで来て頂いたのに手ぶらで帰すのもアレでしょう!ささ、入って入って!」

「えっ、ちょっ」

問答無用で廊下の奥に引きずられていく。

(お、俺は手奈土さんに会いにきただけなのに……!)

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