第17話:気になる二人[5/14(月)]

 「ほら移動遅いぞー!早くしろー!」

グラウンドのはしから芽亜里めあり団長の叫び声が飛んでくる。

「全体練習はこれでラストだ、時間ムダにすんな!」

「はい!」

今練習しているのは、1年生から3年生までの黄組全体でやる競技。みんなで四つんばいになって道を作り、その上を代表者1人がゴールまで走る。

「もう1周やったら休憩だよー!お水飲んで休んでねー!」

拡声器かくせいきを使って叫んでいるのは2年のリョウ先輩だ。団長の横に立って笑顔で手を振っている。

「うおー!」

男子の先輩たちが、それに答えるように暑苦しい雄叫びを上げる。

「うへー、わっかりやすっ」

隣にいたあんさんが、からかうように顔をしかめた。


 日かげで休んでいると、他の組のグループと会った。

「あ、兄さん」

ジャージに青いハチマキ。兄さんがいるクラスは青組だったはず。

「おう。太樹たいじがいるってことは、今の時間は黄組がグラウンドか」

「なんか用?」

「いや、そろそろ場所交代の時間だから。芽亜里さんは?」

「ただいま呼んで参りますので。少々お待ちください!」

内房うちぼうくんが走って人ごみの中から抜けていった。

李下りのした先輩カッコいいよねー」

「なんか同クラの子のTakTokタックトックに写って超バズったんでしょ?」

「そうそう!めっちゃイケメンなんだよねー李下先輩。なんか、バズったからめっちゃ取材きてるらしいよ」

「えーマジで?サッカーやめてモデルとかやったほう良くね?」

「それなー」

青組と黄組の先輩たちが仲良く話している。

「そーいやさー、李下先輩って1年の子とカレカノなんでしょ?」

そんな言葉が耳に飛び込んできた。

(えっ。兄さん、何も言ってなかった……)

「えー?誰と?」

「誰だっけ?ほらあの1組の、ちっちゃくて髪の長い、関西弁の……」

手奈土てなづちさんが⁉︎」

周りの人たちがみんな俺のほうを見ている。

「あっ、すいません……」

(付き合ってる?手奈土さんと兄さんが?何も聞かされてないんだけど、俺)

「体育館に移動するぞー!」

後ろの方から芽亜里団長の声が聞こえる。

「じゃあな太樹。ケガするなよ」

「う、うん。兄さんもね」

一人でモヤモヤしたまま、俺は兄さんに手を振った。


 練習が終わった。

「部活行かなきゃなんないから、代わりにモップがけやっといて!」

そんな感じで押し付けられて、俺は一人で体育館にモップをかけている。

「別に、兄さんと手奈土さんが付き合ってて俺が困ることなんて何もない。そもそも、小学校の時にユースクラブに通うようになってからこっち、兄さんがモテてなかった時なんてないじゃん。背も高いし、顔もいいし、クラブではキャプテンだし。……勉強は、俺のができるけど」

「なーにブツブツ言ってるの〜?」

後ろから声が聞こえてきた。

「ギャア!てっ、て、手」

「そうそう、ボクだよ手戸てどだよ〜」

手戸くんは手にモップを持っていた。

「大変でしょ?手伝うよ」

「あ、ありがとう」

体育館の両はじから中央に、二人でモップをかけていく。

「体育祭の準備、進んでる?太樹くん実行委員でしょ」

「うん。クラスTシャツ、木曜日には届くってメール来てた」

「準備期間短いから大変だよね〜。ボクの友だちが通ってるところだと、体育祭って6月くらいなんだって。一ヶ月くらいかけて練習とかするらしいよ〜」

「ここの学校、部活に力入れてるから。早めに終わらせて、あとは高総体に向けて練習するんだって」

「大変って言えば、青組と赤組も大変だよね〜」

「なんで?」

「1年生いないもん」

「最初から点数入れてハンデつけるらしいから、そこは大丈夫だと思う」

「そっか〜。さすが実行委員」

体育館の真ん中でモップが2つぶつかる。

「……太樹くんって。ぶっちゃけ唄羽うたはちゃんのことどう思ってる?」

手戸くんが小さな声で言った。

「はぁ⁉︎なんでそんな話になるわけ⁉︎」

「だって〜。一樹かずきセンパイと唄羽ちゃんが付き合ってるって話の時、めっちゃキョドってたじゃん」

「あ、あれは……その……」

自分の中のモヤモヤを形にしようと、必死に考える。

「なんか、いやだな、って」

「イヤ?」

「だって。誰かと一緒に遊びに行ったとか、そういう話、家じゃ全然してくれないから」

「おうちではどんな話してるの?」

「サッカーの……プロの育成チームみたいなところで練習してる時の話とか」

「ふーん。お兄さん、プライベートな話はあんまりしてくれないんだ」

「うん。一応は家族の俺が何にも知らなくて、外の人から聞かされて初めて知ったっていうのが、なんかちょっと、いやで」

「そっかそっか」

手戸くんがモップを片付ける。

「じゃあ、直接聞いちゃえ!」

「ちょ、直接?」

「うん。太樹くんから一樹センパイに聞けばいいんだよ。『1年1組の手奈土さんと付き合ってるの?』って」

「いやでも、そういうのって……」

「いーじゃんいーじゃん!きょうだいなんだし、そんくらい笑って流してくれるよ!たぶん!」

「多分じゃ困るんだよ俺が……」

「ほら行ってきなよ!大丈夫、片付けはボクがやっとくから!」

手戸くんがグイグイ背中を押してくる。

「わかったわかった、行くから、行くってばー!」


 体育館から校舎につながる渡り廊下を歩く。

「すみません、手奈土さんはどちらにいらっしゃいますでしょうか」

二人組の男子生徒に声をかけられた。メガネとデカいゴリゴリの二人組だ。

(知らない人だ。でも、うちの制服着てるしな……)

「あの、何年生ですか?」

ネクタイの色は二人とも黄色――2年生の色だ。

(だから、この質問はわざとだ)

「私ですか?13です」

かかった。

「本当ですか?12けど」

男が顔色を変える。

 その瞬間、俺の体が宙に浮いた。

「は?」

フェンスに叩きつけられる。意識に痛みが追いついてきて、俺はやっと理解した。

(殴り……飛ばされた……⁉︎)

殴ったのは後ろにいた方だ。俺と話していた方はケロッとしている。

「なーにが『キミはしゃべるとヨケーなコトしか言わないからダマっていたまえ』だよ。桂馬けいまがしゃべったってボロが出たじゃねーか」

たまには脊髄せきずいではなく脳で物事を考えたまえよ、香車きょうしゃ

誰だ、こいつら。何しにきたんだ。

嗚呼ああだ名乗っていなかったね」

メガネの方が俺に向かって何か話している。

「我々は『サバイバーズ・ギルド』。野暮用やぼようのついでに、貴方あなた勧誘かんゆうに参りました」

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