第16話:突貫!部活やろうよ[5/11(金)]

 放課後の図書室。

「部活動を……やります!」

レンさんがテーブルにヒジをつき、両手を顔の前で組んでいる。

「いや、逆に今までのは部活動じゃなかったの?」

俺は思わず突っ込んだ。

「いやーそれが……。ほら、我々って活動報告書に書けるような具体的な活動はしてないじゃないですか」

「なるほど!つまり担当教員に報告するための実績作りですね!」

「うう、内房うちぼうさんのおっしゃる通りです。世知辛せちがらみ……」

レンさんが勢いよく立ち上がる。

「しかし来週からは中間テスト前の部活動停止期間。体育祭の練習は例の事件の対応で実質的に中止状態。真っ当に部活動するなら今しかないのですよ!」

そう言って彼女は力強く手をグーにした。

「具体的には、どないな事をしはるんです?」

唄羽うたはちゃん、よくぞ聞いてくれました」

机の上に一冊の本が置かれる。タイトルは『語られざる日本の信仰』……うさんくさい。

「この本を読んで、ディスカッションをして、最終的には書いてある事を要約したスライドを作る!……というのが、今日の部活動、です」

「でぃすかっしょん」

「身構える事は無いですよ李下りのしたさん。書いてある事について議論して見やすくまとめるだけの簡単な作業です!」

内房くんが笑顔で言う。

「それのどこが『簡単な作業』なんだよ……」

「さっ、早速取り掛かりましょう!」

「早うせんと、日ぃ暮れてしまいますもんね」

「えへへ……。持つべきものは頼もしい部員だね」

うーん、乗り気じゃないのは俺だけみたいだ。


 「まずは、筆者の主張する世界観の整理からですね」

①『霊力れいりょく』について

「本文では『大地に芽吹めぶく生命の力』と表現されていますが、これは一体どのようなものなんでしょう?」

「えー?そのへんは別に深掘りしなくていいんじゃない?」

「そうですか?では、部長は『霊力』とはどんなものだとお考えで?」

「アレじゃない?ファンタジー系のマンガとかゲームでよく見る、動植物の消費する共通的なエネルギー。いわゆる『マナ』とか『エナジー』の類義語なんじゃないかな……とは、思い、ます」

レンさんが自信なさげに言った。

「ほら、よくゲームとかであるじゃん?木からエナジー吸ったら枯れたりとか、自分のエナジーを渡してひどいケガを治したりとか。そんな感じで、奪ったり与えたりできる命のパワー?的なものでは」

「なるほど。他に何か意見はありますか?」

「あの……」

「どうしましたか?手奈土てなづちさん」

「さっき、『霊力』を『動植物の消費する共通的なエネルギー」』って言うてはりましたよね」

「そうだけど」

「それについて少し訂正したくて。『霊力』って、要は地球の魂なんです」

「地球の魂?」

「はい。地球の魂っちゅう大きな霊力があって、生き物はそこから霊力をお裾分けしてもろてるような感じで」

「つまり……、地球が持っている霊力が発電所で作られる電力のようなものだとして。生き物は電線から電気をとるように地球の霊力をもらい、自分たちの生命を維持するために使っている。という事でしょうか?」

「そんな感じです。ただ、ずっと吸いっぱなしにしとくのは出来へんくて、霊力を持てる量には限界があるんです」

「つまり、生き物は霊力を蓄えるバッテリーのようなものを持っている。そのバッテリーの容量以上は保持できないという訳ですね?」

「そうそう、そんな感じです!」

「なるほど。では、そんな感じでまとめておきますね」


②『霊者れいじゃ』とはどのような人たちなのか

「この『霊者』って単語も気になるんだよね」

レンさんが言った。

「読んでると『みんなは知ってるよね』って感じで飛ばされてるから、何が何だかわかんなくて……」

「ああ、専門書あるあるですね」

二人が手奈土さんのほうを見る。

「そのへん有識者ゆうしきしゃにお伺いしたいんですけど……ねっ?」

「……うちが言うたって、ナイショにしてくれます?」

手奈土さんが照れながら言った。

「もちろん!スライドは我々伝承研究会でんしょうけんきゅうかいの共同制作ですからね」

「それを聞いて安心しました。ほな、説明させていただきますね」

そう前置きして手奈土さんが話し始める。

「さっき言うてた、人間が霊力のバッテリーって例えを使わせてもらいますね」

「ええ」

「普通の人は、外から無理やり取られるようでなければ、霊力を貯める事しかできないんです」

「じゃあ『霊者』は違うの?」

「霊者は、蓄えた霊力を使える人をひっくるめた言葉……やと思います。すんません、あんま耳馴染みのない言葉やから……」

「なるほど」

手奈土さんが話した内容を素早くメモしている。

「じゃあ、よくいう『霊感ある人』っていうのもその『霊者』なの?」

「はい、だいたいは李下りのしたさんの言う通りやと思います。幽霊とかは霊力の塊なんで、霊力がなんとなく見える人もざっくり言うたら『霊者』に入ると思います。だいぶ弱い部類ですけど」

「そうなんだ、弱いんだ……」

「もっと強くなると、自分の中の霊力を他の何かに受け渡す事ができますね。強い人は霊力をたくさん溜め込めたり、霊力が無うなった時の回復が早かったり。とにかく使える霊力が多いんです」

「『霊力を何かに受け渡す』って、たとえば?」

「例えば……。言葉に込めて誰かに言うことを聞かせたり、金属に込めて形を変えたり。もっとえらい人やと、立ってるだけで周りに草が生い茂るらしいです」

「えっヤバ……。シシガミ様じゃん」

「いや、そんくらいの人は流石に見たことないですよ⁉︎うわさに聞いた事あるくらいで」

手奈土さんが食い気味に否定した。

「とにかく。霊者っていうのは、霊力を感じて不思議なものを見たり、霊力を使うて不思議な事を起こせる人たちなんです」

「はえー、そうなんだ」

返事をしながらレンさんはページをめくる。

「となると、次に気になるのがこの『何とか家』って人たちだよね」

瑞獣ずいじゅう家・四神しじん家・八方はっぽう家・五行ごぎょう家ですね」

本をめくっていた内房くんがページを指差す。

「この『手奈土家』――京都を拠点としているらしいですが、手奈土さんの苗字もここから由来してるんですかね?話し方にも京都なまりが入っていますし、もしや手奈土さんはここの家の……」

「つ、次行きましょ!時間も無いし!」

手奈土さんがあわてて話題を切り替える。

(この中では、誰が手奈土さんの家の事知ってるのかな。俺はもちろん、なんかレンさんもうっすら気づいてそうな感じはあるけど)

③『モノノケ』とは何か

「これは……いわゆる『妖怪』『幽霊』『悪魔』をひっくるめたものと説明されてますね」

「さっきの『霊者』の説明をもとに考えると……『モノノケ』って霊力のカタマリ?」

「そうですね。死んだ生き物の霊力……つまり『魂』は地球の『魂』に合流して、また新しい命になるらしいんです。その合流がうまく出来でけへんくてこの世に留まり続けてるのがモノノケやって教わりました」

手奈土さんが窓の外に目を向ける。

「せやからモノノケを倒して、きちんと合流できるようにしてあげるんです」

「そっ、か……」

――タぁ、いィ、じィぃー!――

泰樹しんじの、泰樹だったナニカの声が聞こえた気がした。


 「よし!だいたいこんなもんでしょう!」

テーブルの真ん中に置かれたタブレットにスライドが写っている。

「火村絵凛『語られざる日本の信仰』(岩沼書店、2030)まとめ

①『霊力れいりょく』とは

・動物や植物が持つエネルギー

・『地球の魂』をみんなで分け合っている

・生き物が蓄えられる霊力の量には限りがある

②『霊者』とは

・「霊力が見える」「霊力が使える」人

・霊力が見えるだけの人は一番弱い

・強い人ほど使える霊力が多い

③『モノノケ』とは

・妖怪、幽霊、悪魔の総称

・うまく循環しなかった霊力の塊

・倒す事で元の流れに戻すことができる」

「おー!なんかそれっぽい!」

空はオレンジ色になっている。

「君たち。もう帰りな」

見回りの先生が図書室のドアを開けてそう言った。5時のチャイムが鳴った。

「じゃあ、帰ろっか」

「そうですね」

「それではお疲れ様でした!先生、さようなら!」

内房くんがリュックを背負う。

「誰か一緒に帰る人は?」

「同じクラスのガオくんと待ち合わせています」

「そうか、ならいい。君たちは?」

先生が俺たちに質問してきた。

「私たちは車で帰ります。さ、三人で」

「うん。行方不明事件、まだ犯人捕まってないからな。誘拐されないように帰るんだぞ?」

「はーい」

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