其の十四:丑三時密談義[5/9(水)]
真夜中の繁華街を
(うっすらとモノノケの気配はあるけど、場所を特定できるほどではない。嫌な感じだな)
くたびれたジャージに履き潰したランニングシューズ。背中を丸めて歩いている彼を通行人が避けて歩く。
「見えない探れない……『必ず見つける』と大見得きったのにこのザマとか。お笑いだよ、全く」
武は
「この時間帯ですらコレなら、
右手さんこと『
「都内にいないから引っかからない、って事でもなさそうだよな……」
考え事をつぶやきながら歩いていると、スーツの男と肩がぶつかった。
「あっ、すいません」
顔を上げると見覚えのある顔がいた。
「
「
武の言葉を
「……このあたりでは『ヤグルマ』で通ってるんだ。合わせてくれ」
男が武に
「偽名を使わなきゃならない事情でもあるんですか?鳳
武が
「ま、色々あってな」
大仁は武から手を離した。
「こいつも一緒に連れてっていいか?知り合いのとこのガキでな」
連れ立っていた女に質問する。
「んもう、特別ですよう?」
女は少し困ったように笑った。香水と酒の混ざった匂いがした。
案内されたのは高級そうなクラブだった。店内ですれ違う人は皆、華やかに着飾った女性ばかりだ。
「奥の部屋に。お連れさんがお待ちですよう」
「ありがとう。はいこれ、道案内ぶんのお駄賃」
大仁が自分の端末から女の端末に送金する。
「えー、これだけですかあ?」
「勘弁してくれよ、後で指名してあげるからさ」
「約束ですよう?ヤグルマさん」
「はいはい。じゃ、また」
女をあしらい、大仁と武は奥の個室に入った。
「……スケベ親父」
武が大仁に
「ここのスタッフが一番口が固いんだ。個室内は防音だし、店全体に盗聴対策が施されている。都内で一番
「ふーん……」
個室のドアを開ける。壁沿いに設置されたコーナーソファには
「どうも」
「こんばんは。むさ苦しいオッサンばかりで申し訳ないね」
「あ……。こ、こんばんは……」
武はぎこちなく二人に
「まあ、座りなさい」
「あ、じゃあ、失礼します」
武は一番下座に座る。
「紹介するよ。
(この二人も言霊師なのか)
「あ、どうも……」
「おっ、
黒いふわふわが武の
「カヴァス、やめなさい」
北岡がカヴァスの首元を掴み、自分の膝に置いた。
「北岡さんがカヴァスの飼い主なんですか?」
「逆だ!コイツがワガハイの
「
北岡とカヴァスの掛け合いが終わると、大仁が口を開いた。
「今日ここに集めたのは他でもない。
「それでは、僕の方から報告させていただきますね」
宍戸がタブレットを取り出す。
「特定霊具の解析結果です。ざっくり言うと、近くにあるものの霊力を吸い上げて羽化する……いわばモノノケの卵のようなものですね」
「周囲の霊力?人間の魂じゃなくて?」
武が質問する。
「はい。極論、その辺に置いておいても羽化します」
「それについては私から
北岡がバッグからタブレットを取り出した。
「これと同型の霊具が、フリマアプリ『ウルカイ』に出品されていた際の画像だ。SNSの更新頻度から見るに、組織犯ではなさそうだ」
タブレットにはフリマアプリの出品画面のスクリーンショットが映し出されていた。
「『眠っているエナジーを呼び起こすパワーアイテム』『肌身離さず持っていると、あなたのエナジーが赤ちゃんのように成長していきます』……」
説明文を読んだ宍戸が頷いた。
「なるほど。携帯するように誘導する事で、常に霊具の近くに『人間の魂』という霊力の
「あの、続きを……」
武が申し訳なさそうに
「じゃあ、話を戻しますね。羽化の際、内部に
宍戸が説明を終えてタブレットを閉じた。
「これ自体に霊力を持っている訳ではない、っていうのが厄介な所ですよね。霊力から居場所を探知できない以上、
「そう、ですよね……」
武がうつむく。
「君が落ち込むのは筋違いだ。犠牲者が出ていたにも関わらず、手を打つ事すらできなかった我々に責任があるのだからな」
大仁がそう言って武の肩を叩いた。
「ところで最近、10代の女性が失踪する事件が相次いでいる」
北岡が切り出した。
「事件現場は主に2か所。渋谷駅構内と、新宿駅西口地下街だ」
「……
武が聞いた。
「特には。しかし、どちらも過去に
「赤ちゃんが捨てられてた、って事です?」
「そうだな。一連の事件の影響で『コインロッカーベイビー』なんて怪談も産まれた……らしい。その怪談に関連するモノノケがいたとしてもおかしくない」
「それを俺たちで
武が不機嫌そうに返した。
「いや、そういう訳ではない。ただ、気になっているだけだ」
「そうですか」
(モノノケを使って何かをしようとしている……?いや、そんな大規模な事を一人でできるものなのか?)
話を聞いている武の頭の中には疑念が渦巻いていた。
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