第四章:複合モノノケ「七人ミサキ」顕現及び交戦の記録

第14話:ある晴れた月曜日[5/7(月)]

 カキーン!

金属バットの音が響く。白球が外野に向かって高く飛ぶ。

「あ痛っ!」

そして、飛んできたボールが俺のおでこに直撃した。

「いけーーっ!!」

「走れ走れ走れ!!」

1・2組の合同体育。内野では2組の男子が大盛り上がりだ。

「じっとしてて!」

センターから手戸てどくんが走ってきた。

「先生が来るまで、頭を動かさないで」

「うん」

頭を動かさないようグラウンドに横たわる。

「めまいとか吐き気とかない?」

「大丈夫……」

連休明けの月曜日。空は憎たらしいほど青い。いつも通りの高校生活が再開しつつあった。


 痛みは引いてきたけど、大事をとって昼休み中は保健室で休むことになった。

「失礼します」

誰かが入ってきた。

「大丈夫だった?」

「えっと、君は……」

「ああ、李下りのしたくんは休んでたからしらないんだね」

爽やかな体育会系の男の子だ。

「僕は竜石たついし 光輝こうき。1組のクラス委員長だよ、よろしくね」

竜石さんがパンとお茶をくれた。

「これお昼。具合は大丈夫?」

「はい。午後の授業は出られると思います」

「うん。放課後のホームルームで体育祭実行委員を決めるから、忘れないでね」

「わかりました」

「頭を打ってるからね。もし具合が悪くなったら病院に行きなよ」

「ありがとうございます」

彼が帰って、また保健室は静かになった。

(わざわざ自販機で買ってきてくれたのか)

もらったメロンパンの袋を開けて、一口かじった。後で竜石くんにお礼をしなきゃ。


 教室に帰ってきた。

「あ!おかえり〜!」

「心配してたんだぜ!」

「手戸くん、ラカムさん。心配かけてごめんなさい」

「無事でよかったー!」

前の席二人が号泣している。

「おでこにボール当たりはったって聞きましたけど。痛くないですか?」

手奈土てなづちさんが俺のおでこに手を当てる。

「あの、えっと……」

「あっ!すみません」

手奈土さんが手を引っ込めた。

「え〜?なになに?二人ってそーいう感じ?」

手戸くんが言う。

「はぁ⁉︎そんなワケないだろ!」

「またまた〜。毎日一緒に帰ってるんでしょ?」

「それは、帰る方向が一緒だから……」

そんな話をしている所に先生が入って来た。

「授業始めるぞ、静かにしろ」

おかげで俺と手奈土さんの関係の話はうやむやになった。助かった。


 放課後は体育祭実行委員を決める話し合い。

「3年生の先輩が来てくれるんだって」

「へー」

教室に先輩が入って来た。

「こんにちわ。実行委員長の李下 一樹かずきです。今日は実行委員のお仕事の説明をします」

(えっ、兄さん⁉︎)

「実行委員の主な仕事は、クラスTシャツの発注と組練習の打ち合わせです」

兄さんが教室のスクリーンにタッチペンで書き込んでいく。

[黄組

 1年1組

 2年4組

 3年2組]

「クラスTシャツは、パンフレットを何社か取り寄せて決めるのがいいです。組練習の場所は体育館・もりのホール・グラウンド・道場の四つなので、赤組・白組・青組・黄組の代表で話し合って決めます」

話が終わって兄さんが後ろに下がる。

「では、実行委員を決めたいと思います」

竜石くんが教室前の机に立つ。

「立候補してくれる人はいますか?」

教室が小さくざわつく。

「お前やる?」

「ヤダよ、めんどいし」

「やりなよ実行委員」

「いやお前がやれし、逆に」

誰も手をあげないまま、時間だけが過ぎていく。

「じゃあ、俺やります」

まっすぐ右手を挙げた。

「じゃあ、1年1組の体育祭実行委員は李下くんにお願いします」

パラパラと拍手が上がった。


 このあと早速顔合わせがあるらしく、俺は兄さんについていって集合場所に向かう。

太樹たいじはえらいな」

「別に、そんなんじゃないよ。あのまま押し付け合いしてても時間のムダじゃん」

「そういう所がえらいんだよ」

予備室……という名の空き教室には、先輩たちがいた。

「黄組の席は窓側だよ」

席には黄色いリボンの2年生と、水色のネクタイの3年生が座っている。

「まだ時間あるから、先に座って待ってて」

「兄さんは?」

「資料とか用意しないと。実行委員長だからさ、全体のまとめしないと」

「そっか」

窓際におそるおそる近づく。

「あ……。俺、1年実行委員の李下です」

「1年の子?私、2年4組の信田しんだ リョウ。よろしくね」

「3年2組、黄組団長のラカム 芽亜里めありだ。よろしく」

二人とも女の人なんだ。芽亜里さんはズボンを履いていたから、てっきり男の人かと思った。

「ラカム、ってことは」

あんはアタシの妹。確か、アンタと同じクラスでしょ?」

『美人』って言うよりは『イケメン』って感じの人だ。そして、何というか、『凄み』がある。

「はいっ、そのセツは、いつもお世話に……」

「ハハハ、真面目かよ。まあ座れって」

俺は一番はじっこに座った。

「アタシは、負けるのがキライなんだよ」

芽亜里さんが言う。

「えっ?」

「だからやるからには絶対ぜってぇ勝つかんな。覚悟しとけよ」

そう言って、俺たちの団長はニヤリと笑った。

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