第13話:遠征の収穫物[5/3(木)]
目が覚めた。太陽が眩しい。
「戻ってきたんだ」
「そうだ、ワガハイが助けてやったのだ!」
黒いふわふわが俺を見下ろしている。
「カヴァス」
「ニンゲン、ケーヤクの対価をよこせ」
「そんな事言われても、何を渡せばいいのかわかんないよ」
「なら、ワガハイをかいて欲しいのだ」
「絵が欲しいの?」
「うむ!あの変な黒い板に描くのではないぞ。紙に描いてワガハイにささげるのだ」
「まあ、そのくらいなら」
「ヤクソクだぞ!絶対だぞ!」
カヴァスは嬉しそうに尻尾を振っている。『対価は貴様の命だ!』とかじゃなくてよかった。
「
「はい。大丈夫です」
周りの人たちも次々と起きている。ティーンのグループ、カップル、親子連れ。みんな無事そうだ。
[コラボラリーにご参加いただいてるお客様にお知らせです]
スタッフさんが拡声器で何か叫んでいる。
「あ。わ私、ちょっと行って、き、くるね」
真路さんが走っていく。
「じゃあ俺も……」
立ちあがろうとしたら目の前が真っ白になった。とっさにしゃがみこむ。
「苦しい……」
「大丈夫ですか?」
手奈土さんがスポーツドリンクをくれた。
「立ちくらみやと思いますけど。暑うなってきましたから、熱中症かもわからへんし」
「ありがとうございます」
地面に座ってペットボトルに口をつける。
「手奈土さん」
「はい?」
「アレって、結局なんだったんですか」
グロテスクで悪趣味な、夢と言うには生々しい光景。
「俺、途中から記憶ないんでよくわからないですけど……」
―「よかろう!貴様の願い、吾輩が叶えてやろう!」―
カヴァスのあの言葉を聞いた後の記憶がない。気を失っていたのかもしれない。
「アレは……夢、とちゃいますか」
「はぐらかさないでくださいよ」
「そういう事にしておけ、ニンゲン」
カヴァスが口を挟む。いつの間にかトートバッグの中に戻っていた。
「たとえ正体を知ったとして
「そうなの?」
「そうなのだ」
カワイイ声なのに妙に説得力がある。
真路さんがこっちに走ってくる。
「どないしたんですか?」
「う、うん、あのね」
ものすごく息切れしている。
「一回ちょっと落ち着いて」
「は、はい」
息を整えて、彼女が話し始めた。
「あの、ですね。す、スタンプラリー、なんです、けど」
「うん」
「混雑しすぎて、中止になった、らしい、です」
「え……」
手奈土さんがメチャクチャ落ち込んでいる。
「あ、でも、今参加してる人たちは、あっちでスタンプもらえるらしいです」
「ほんまですか!ほな早ういきましょ!」
今度は目をキラキラさせて走り出した。
「忙しい人だな」
俺も急いで後を追いかける。
アトラクションエリアのフードコート。
「
「うちもそのブロマイド買いました。とりあえず一箱買うてみましたけど」
「一箱って、50枚⁉︎富豪……?」
女子たちが手に入れたグッズをテーブルに広げている。
「かけたか?」
「まだだよ」
俺はといえば、カヴァスをヒザに乗せてスタンプ台紙の裏にイラストを描いていた。
「李下さんは、グッズ抽選なんだった?」
真路さんに聞かれる。
「グッズ抽選?」
「SNSキャンペーンの……」
「参加していいのかな。手奈土さんの写真借りてやっただけなんだけど」
「す、スタンプ集まってるでしょ?なら、大丈夫だと思う」
「じゃあ、行ってくる」
受付で抽選をしてフードコートに戻る。
「どうだった?」
「ギリギリ引けたよ。なんか、カード?もらった」
「そ、それは……!」
「S賞『※イヤホン必須!※バーニング⭐︎サムライ撮り下ろしボイスメッセージシリアルコード』!」
二人の目の色が変わる。
「それ、うちの『ミニ色鉛筆セット』と交換してもろてもええですか……?」
「あの」
「えっ唄羽ちゃんだけズルい!
「ちょっと」
「お金出してるのはうちやもん」
「二人で!」
思っていたよりも大きな声が出た。
「……二人で聞いたら、いいと思います」
俺は二股のイヤホンジャックを差し出した。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
二人が端末にイヤホンを繋いでメッセージを聞く。
「ワ……!」
「はわわ……」
(どんな内容なんだろうか……)
手奈土さんにもらった色鉛筆でイラストに色をつけていく。
「ほら、できたよ」
「うわー!ワガハイなのだー!」
カヴァスが尻尾を振って喜ぶ。
「うれしい!ニンゲンはすごいな!」
「いや、こんなテキトーな絵で……」
そう言いかけたけど、あんまり嬉しそうだったのでやめた。
お昼ご飯を食べ終わって少し休憩。
「じゃあ、わ、私はこの辺で……。電車とか
「ほな、またな」
「気をつけてね、真路さん」
「あ……。れ、『レンちゃん』、でいい、よ」
「うん。またね、レンさん」
レンさんを見送った。
彼女と入れ違いになるように男の人がこっちに来た。
「こんな所にいたのかい、カヴァス」
薬くさい人だ。
「はい『猟犬』
「クーン」
カヴァスの首ねっこを持ってボール型の入れ物に入れる。
「李下太樹くんだね」
「どうして俺の名前を?」
「君の兄弟にメスを入れたんだ、僕は」
銀のフチのメガネをかけている。父さんと同じくらいのおじさんだ。
「双子の片割れがあんな事になって、引きずられているんじゃないかと案じていたけど。元気そうで何より」
手奈土さんが男の人に何かを渡す。
「例の
「『悪魔の胎児』!俺が見せてもらったのと同じだ」
思わず声が出た。二人がこちらを向いた。
「それ、ほんまですか⁉︎」
「う、うん。中にその、デブのシラスみたいなのが入ってて」
「妊娠初期の胎児だね。なるほど、故に『悪魔の胎児』……」
男の人が何かブツブツ言っている。
「ありがとう。持ち帰って調べてみるよ。何かあったら連絡頼む」
名刺をもらった。
「じゃあ、僕はこれで。息子の迎えに行かなくちゃ」
【聖
名刺にはそう書かれていた。
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