其の九:白昼堂々怪異事変[5/3(木)]

 「ペットロボット?最近のはしゃべるんだね」

太樹たいじは不思議そうにゴンドラの中にいたポメラニアン(?)をなでている。

「ロボットではない!ワガハイはカヴァスである!」

ふわふわのポメラニアン――カヴァスは舌ったらずな甲高い声でそう言った。

「カヴァスさんは、どないしてここに来おったんです?」

「それが、ワガハイにもわからないのだ」

なでられ疲れたカヴァスが唄羽うたはのヒザの上に飛び乗ってきた。

「お散歩ちゃんぽしていたらたくさんのニンゲンにもみくちゃにされて、いつのまにかここにいたのだ。だからワガハイ、ずっとここからちもべを探していたのだ」

「そら災難でしたね」

「そうなのだ。ニンゲンどもはワガハイを踏んだり蹴ったり。マトモに話を聞いてくれたのは貴様きちゃまらが初めてなのだ」

カヴァスは悲しそうに鼻を鳴らした。

「そうだ!貴様きちゃまら、ワガハイのちもべを探せ!」

「自分で探せばいいじゃないか」

「こんな小さなワガハイに、自分で探せというのか⁉︎にそうなニンゲンめ!」

「しっ……⁉︎」

カヴァスの噛みつきに太樹がショックを受ける。

「その、シモベさんいうんはどないな方なんですか?」

「おー!ふわふわのニンゲンは良いニンゲンだな!」

カヴァスは唄羽のヒザで嬉しそうに尻尾を振った。

ちもべにあえばわかるのだ!」

「つまり、わかんないってことじゃん」

「うるさいのだー!」

そんな話をしているうちに、ゴンドラが停止した。

「ほな、降りましょか。ほら、カヴァスさんも」

唄羽がエコバッグを広げてカヴァスを詰める。

「うむ!行くぞ!」


 観覧車を降りて、スタンプラリーの台紙とマップを二人で見比べる。

「後は、ここだけですね」

お化け屋敷の前には長い列ができていた。

「ニンゲンが群れてるのだ!」

エコバッグからカヴァスが顔を出す。

「シモベさん、このへんにおるんでしょうか」

「いないのだ……」

列の最後尾に並んで順番を待つ。

「あ……。う、唄羽、ちゃん……?」

唄羽たちの前に並んでいた人が声をかけてきた。

「レンちゃん」

声の主は恋天使れんじぇるだった。

「ややや、やっぱし唄羽ちゃんだよね⁉︎モナミコラボでしょ?お目当ては?」

「もちろん『バーニング☆サムライ』です」

「だよね!昨日の配信で告知してたから、と……私、7時から並んでたよ!」

「えっ、そない早くに?」

「もちろん!キャラくじ系は戦争だからね!」

恋天使の視線がカヴァスの入ったバッグに向かう。

「そのバッグ……」

「ギャウ?」

カヴァスが首をかしげる。

「もしや物販グッズ?めっちゃ買ったね、何買ったの?」

「あっいや、これは……」

唄羽が言い淀む。

「あのさ、ところで……。その、『バーニング☆サムライ』って誰なの?」

見かねた太樹が助け舟を出す。

「えっ、李下りのしたくんもしやバニサムをご存知ない?」

「うん、あんまり動画とか見ないから」

「あのね、バニサム……バーニング☆サムライは主にMetubeみーちゅーぶで活動してる配信者でね、モナミプロに所属しててね、メインはゲーム実況なんだけどたまにアップする『歌ってみた』とか激辛チャレンジ動画とかもサクッと見れてオススメ!顔出しNGで普段マスクと眼鏡で配信してるんだけど、それがデメリットにならないくらいめちゃくちゃ声がイイんだよ!3年前から活動を始めて今ではチャンネル登録者300万人を超えて世界中にファンがいてね……」

「わかった、わかったって」

「早口でよく聞こえなかったぞ、もっかい言え!」

「こらカヴァス、シー!」

太樹がバッグに入っているカヴァスを叱る。

「そのバッグの中に何かいるんですか?」

「あっ、いや、えっと……」

「ワガハイが見えないのか!この貧弱ニンゲンめ!」

カヴァスが恋天使の顔をモフモフするが、マスクをしているので効果は今ひとつのようだ。

「とにかく……バニサムはすごい……人気で……」

恋天使が急に舟をこぐ。

真路まじさん?大丈夫?」

恋天使が太樹のほうに倒れ込む。


 そして、世界が暗転した。


 その頃、ギャラリー「撥簾看はつれんかん」。

「――ここで速報です」

お昼のワイドショーに突如速報のテロップが入る。

「文京区の遊園地、キャピタルドームアトラクションシティど『来場客の意識がない』という複数の通報がありました。意識不明者は50人ほどにのぼるとみられ、消防が原因を調査中のようです。現場から中継です」

「はい!こちら現場上空です――」

モニターを見ながら弁当を食べていた清森きよもりが箸を取り落とした。

画竜がりょうさん?大丈夫ですか?」

ピンク髪をお団子にして黄色いサングラスをかけた男性が清森を心配する。

(あそこ、確か唄羽が行くって言ってた……!)

「すいませんArawashiあらわしさん、俺ちょっと抜けます!」

「えっ⁉︎あっ、気をつけて帰ってきてねー!」


 ギャラリーを飛び出した清森は、あたりを見回してから守護刀まもりがたなを構えた。

「……『われ木戸きど言霊師ことだまし、授かりし名は清森なり』!」

一瞬にして清森の服装が言霊師の装束しょうぞくに変化する。その手には霊器れいき――薙刀なぎなた点睛てんせい』が握られている。

〈清森!聞こえてるか!〉

霊器を通じてたけるの声が聞こえる。

〈おう、右手さんの網に何か引っかかったのか?〉

〈ああ。文京区の方でデカい霊力れいりょくの歪みがあった。ちょうどCDACのあるあたりだ〉

「クソッ、白昼堂々のモノノケ出没なんて聞いた事ねぇよ……!」

清森はCDACまでの道を急ぐ。少なくとも、異様な事態が起こっている事だけは確かだ。

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