第11話:超高速‼︎遊園地巡り[5/3(木)]
キャピタルドームアトラクションシティ。略称はCDAC。ヒーローショーが見られる劇場に高層ホテル。色々な施設が入っているけど。
「遊園地。しかも二人で、って」
待ち合わせの時刻は1時間も後。俺は落ちつかなくて入場ゲートの前を行ったり来たりしていた。
「変じゃないかな……」
ガラスに写る姿を確認する。ファッションサイトの見様見真似でセットした髪に家にある服で作ったトレンド風コーデ。学校以外で人に会うのは久しぶりだから周囲から浮いていないか不安になる。
「あの、
「は、はいっ」
後ろから急に声をかけられる。
「
「すんません。約束は10時やったのに。うち、楽しみで
「いや、そんな事ないです」
レモンイエローのワンピース。ベルトがアクセントになってお姫様のドレスみたいなシルエットになっている。
「早く来てよかったんじゃないですか、逆に。ほら、もう結構並んでるし」
何かのイベントがやっているらしく、チケット売り場には長い列ができている。
「どこに並ぶんですか?」
「えーと、ちょい待っとってください」
手奈土さんが走る。何列もある行列の端から端まで走って行って帰ってきた。
「真ん中の列やと思います」
「じゃあ、並んじゃいますか」
列に並んだ、その後ろにどんどん人が増えていく。
(ここからさらに1時間並ぶのか……ヒマだな)
「そや、この前届けてもろたやつ」
ゲームをしようとしたら、手奈土さんが話しかけてきた。
「この前の。『
「はい。あの時言うてはったアーティストさんのアカウント、調べたらもう削除されてはったんです」
「そうだったんですね」
結局、俺の話も大して役に立たなかったって事か。
「でも、あれについては今まで何も分からへんかったんです。どんな小さな手がかりでも、積み重ねていけばいつかは真相に辿り着けるんですよ」
彼女は真っ直ぐな目でそう言った。
「
「そんな事ないです」
だって、俺の世界が決定的に変わってしまった、あの夜。
「俺を助けてくれたのは、あなたでしょ」
それを聞いた手奈土さんは、複雑な表情で目を逸らした。
「そ、それより!最近、体調はどないですか?」
「いや、特には」
「さいですか?何や目の下にクマがあるように見えるんですけど」
「えっと、これは……」
話して信じてもらえるだろうか。
「夢を、見るんです。
「弟さん、でしたっけ」
「はい。最初は昔行った海水浴場とかだったんですけど、だんだん現実に近づいてきて。そのうち俺、夢の中でアイツに殺されるんじゃないかなー、って」
手奈土さんが見たことないくらい冷たい顔になっていた。
「まあ、冗談ですけど……」
「冗談でも、そないな事言うたらあきません」
(どうしよう、怒らせちゃった……)
なんとかして機嫌を直してもらわないと。
「あのー、チケット……」
「す、すいません」
後ろの人に言われて順番が来たことに気がついた。
「あの、このモナミプロダクションコラボスタンプラリーの参加券を、『バーニング⭐︎サムライ』コースで2枚」
手奈土さんがそう言うと、窓口のスタッフさんの表情が暗くなった。
「大変申し訳ございません!そちらのコース、通常の参加券は完売してしまいまして……。ペアコースの参加券ならご用意できるのですが、いかがなさいますか?」
「それで!」
(即答⁉︎)
「『スタンプラリーに参加してオリジナルグッズをゲット!さらに、フォトスポットラリーもクリアで空クジなしのグッズ抽選にチャレンジ!』ねぇ……」
スタンプ台紙と一緒に渡されたリーフレットを読む。
「ほら、早う行かんと」
いつの間にか手奈土さんはだいぶ遠くにいた。
「ちょっ、待ってってば」
……そこからはもう、ものすごい勢いだった。コーヒーカップ、フリーフォール、シューティングゲーム、ジェットコースター。
「これ、本当に二人で撮らなきゃダメなやつ?さっきの人、なんかグッズ置いて撮ってたけど」
「ペアコースだとこういう写真やないといけんって、スタッフの人が」
「ええ……」
フォトスポットで撮った写真を加工。指定のハッシュタグをつけてSNSに投稿。恐るべきスピードだ。
「こういうんは早いもの勝ちやって教えてもろたんですよ」
そう語る彼女の目は、まるでスーパーの特売に向かうお母さんのようだった。
停止したジェットコースターから降りる。
(うう、ものすごいコースだった……)
「大丈夫ですか⁉︎顔が真っ白ですよ?」
「いや、大丈夫、全然……」
そう言った矢先に思いきり入り口の柵につまずいてしまった。
「この近くで、どこか静かに休めるとこ……」
目まいがすごくて、手奈土さんに支えられていないと立っていられない。
「そや、観覧車!すんませんけど、ちいと辛抱してくださいね」
フラフラと歩きながら、なんとか観覧車に乗り込む。
「ごめんなさい。せっかく誘ってもらったのに迷惑かけてばかりで」
席に座る。
「ぎゅむ!」
何かを踏んだような気がして、おそるおそるお尻を上げる。
「
「えっ?」
そこにいたのは、羊のツノが生えた目つきの悪い黒いポメラニアンだった。
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