閑話:ドリンクバー端会議

 『はじめに:神話の血脈


 「あなたは神を信じますか?」

こう聞かれた時、あなたはきっと身構えるだろう。新興宗教と政治の癒着、破産に追い込まれるほどの献金、信徒からの執拗な宗教勧誘。昨今の情勢から『宗教』というものはどうしても忌避されがちだ。

 しかし、今一度考えてみてほしい。特定の宗教を信仰していなくても、苦しい時は神―特定の崇拝対象ではない、概念的な神―に『神頼み』をする。死者には冥福、すなわちあの世での安寧を祈る。我々の深層心理には自覚がないレベルの信仰が根付いているのだ。初詣とクリスマス。お盆とハロウィン。神道・仏教・キリスト教のさまざまな行事が年中行事として受け入れられているのも、我々日本人の根底に揺るがない信仰があるからではないだろうか。

 では、我々に根付いている信仰とは一体何なのだろう。それは『建国神の崇拝』ではないかと私は考える。

 日本国の象徴として憲法に定められている天皇。なぜ天皇、ひいてはその一族が日本国の象徴に収まっているのか。それは初代天皇とされる神武天皇の子孫だからだ。神武天皇は伊弉諾イザナキ神が単独で生み出した天津神アマツカミの血を引く人物だ。その子孫であるという事は神の血を引く事を意味する。

 海外の多くの国ではこの『建国神の血筋』はすでに途絶えている。国家間の侵略戦争や異民族間の婚姻によってさまざまな民族が混じり合ったためだ。

 人類の延長線上にいた神の血筋が途絶えた事で人々は心の拠り所を失った。そこで人々は新たな形の宗教を生み出した。そこでは神は人間よりも上位の存在として存在し、決して人間と交配することはない。皮肉にも、神と血筋を切り離した事で宗教はその信徒を広範囲に広げ、土着信仰を次々と淘汰していく。世界宗教の誕生である。

 一方、日本ではどうだろうか。さまざまな戦乱や侵略があったものの、そのほとんどが日本国内で完結している。ゆえに血筋の正統性が2000年以上の長きにわたって保たれ続けてきたのだ。

 しかし、この日本には知られざる神の血筋を受け継ぐ一族が存在する。彼らは独自のコミュニティを形成し、神代から連なる力を受け継いでいる。

 瑞獣ずいじゅう四神しじん八方はっぽう五行ごぎょう。大地に芽吹く生命の力―霊力れいりょくをその身に取り込み奇跡を起こす『霊者れいじゃ』の系譜である。本書ではその成り立ちと形質、そして知られざる彼らの営みを紐解いていく。』


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『第一章:瑞獣家―鳳凰家と麒麟家―』

『第二章:四神家―|東川とがわ西路さいろ南海みなみ北丘きたおか―」

『第三章:八方家―ごんそんこんけん―』

『第四章:五行家―火村ほむら手奈土てなづち金崎かんざき水面みなも木戸きど―』

真路まじさん、どちらから読みはるんです?」

唄羽が問いかけた。

「ぬぬぬ……。欲を言うなら頭から全部読みたい、けど……」

パラパラとめくっただけでも相当の分量がある。

「全部読んだら多分、徹夜オールになるテンションだよなぁ……」

真路が頭を抱える。

「じゃあ、とりあえず、第四章からで」

「はい」

返事と共に、唄羽のお腹が鳴った。

「あっ……。す、すみまへん」

「いや、いいよいいよ。生理現象だし、ね」

真路は注文伝票とメニューを手に取った。

「ドリンクバーだけじゃ足りないよね。なんか食べよ」

「はい。真路さんは、何にしはるんですか?」

「あの……。良かったらでいいんだけど……」

「はい?」

真路は恥ずかしそうにモジモジしている。

「『レンちゃん』って、よ、呼んでもらっても……いい、かな?し、下の名前が恋天使れんじぇるだから、それで……」

彼女はかがんで、唄羽の耳元で小さな声でそう言った。

「レン……さん?でええんですか?」

「う、うんっ!でさ。わたっ、私も、『唄羽ちゃん』って呼んでもいい?」

「か、構へんですけど」

「あ、ありがと……!マジ感激……!」

恋天使は目をウルウルさせている。

「あのう。レンはん、ご飯頼むんとちゃいました?」

唄羽は首をかしげた。

「あっ!そそそ、そうだね!何食べよっか」

真路がいそいそとメニューをめくる。

(友達いてへんかったからよう分からんけど。女の子の付き合いって、こんなもんなんやろか?)

恋天使の距離の詰め方がおかしいだけなのだが、そんなことを唄羽が知る余地はない。

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