第6話 忌まわしい過去

「それじゃあ、話を聞かせて貰おうかな」

 無機質なコンクリートの部屋の中、男は柔和な笑みを浮かべ、語りかける。

 返事はない。

 だが男は予想していたようで、ほんの少しだけ待ってから質問を始めた。


「まず、君が最後に両親を見たのは何時ごろ?」

 相変わらず返事はない。

 正面に座る少年は、サイズの合わない椅子に座ったまま俯き、黙りこくる。


「聞こえてる?」

「……あ、えっと、もう一回、言ってください」

 生きることを諦めたかのような、幽かな声だった。

 昨日家族が死んだばかりの少年に、元気な姿を見せろというのも無理な話だろう。


「君が最後に両親と話したのは何時?」

「っ!た、確か二時ぐらいです。荷物が届いたぞって言われて、外に取りに行きました」

「なるほど、続けて」


「戻ったら、その、部屋が赤くなって、人が倒れてて、それが……」

「それが?」

「血だって、父さんと母さんだって気付いて、それで、何も、考えられなく、なりました」


 ふむ、と唸って男は少年の証言を吟味する。

 現場に残されていた証拠との矛盾は何一つ無い。

 荷物を受け取ったのは届いた直後、そして両親の体内のチップから死亡信号が出されたのもそれとほぼ同時だ。

 宅配ボックスを開いた時の指紋は少年のものだった。防犯カメラにも少年の姿が映っている。


「それはおかしい」

 だが、男の口から出たのは少年を否定する言葉だった。

「……え?」

「いや、だってそうだろう?ほら、周囲の映像だ。その時、君の家の周囲、半径十メートルに、他の人間はいなかったんだ」


 そういって男が出したタブレットの映像では、確かに少年の家の周囲には誰も映っていない。

「何が、おかしいんですか」

「君以外にいないじゃないか」

「だから、何がですか」

「はあ、とことんとぼける気か」


 全力で机を蹴り上げた。狭い部屋の中で衝撃音は 少年は驚き、びくりと震えて正面の男を見た。

「君が両親を殺したんだろう?」

 その男は、柔和な笑みの面影も無い、どこまでも冷たい目をしていた。

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