第65話 ラッキースケベ事故ちゅー
「やば、アガる!」
「よかったね」
でも注意書でもいれとかないといけない。野外でのカラオケや過度な叫びは周辺のお客様にご迷惑となります的なの。これ日本のキャンプ場でやったらだめなやつだからね?
「だいじょーぶ! ここでしかしないし!」
「社交界やってる時しかやらないし!」
「なにより」
社交界で騒がしいのに便乗してやる算段らしい。まあバレるわけにはいかないものね。
バーベキューみたいな食べ方も王族ではありえないだろう。美味しそうに食べてるからよしだけど。
「いっちゃん花火も!」
「はいはい」
どこの技術屋さんに頼んだのか分からないけど、手持ち花火が何種類もある。
花火は決められた場所でしかやっちゃだめだからね。とは思いつつもパリピたちが考えて今日の場所を用意したみたいだから、これもよしとしよう。
「エフィ、ここ持って。向きはこう。人には向けちゃだめ、振り回すのもだめだからね」
「ああ」
火をつけてあげると
再現度高すぎない? パリピの記憶力もすごいけど、シコフォーナクセーの技術力もすごいよ。
「いっちゃんいっちゃん」
「はい?」
追加の手持ち花火を持った王陛下が次も次もとばかりに立っていた。火をつけて並んで花火をする。エフィは王妃殿下となにか話しながら少し離れた所で花火を楽しんでいた。
「真面目な話いい?」
「え? ええどうぞ?」
本人が嫌がりそうなのに珍しい。戸惑いながら頷くと、王陛下は微笑んで頷いた。
「いっちゃんはえっちゃんと一緒にいたい?」
「え?」
また恋バナ? と思ったらそうじゃないらしい。
瞳に冷静な色が入ってやっと王陛下の意図するところを察した。
「王族と結婚するってどういう意味か、いっちゃんなら分かるでしょ?」
「ええまあ」
「それでいーのかなーって」
王陛下は私が全てを放棄したことをよく分かっている。仮にエフィと結婚して、また同じことができるのかときいているのね。
「社交と外交から逃げたかったのは事実です」
「いっちゃん、しごできがすぎたからねー」
「あはは、やりすぎでした?」
笑って誤魔化す。
あの頃は頑張りすぎることでなんとか立っていた。過去のことは遠くなっているけど、思い出すとやっぱり少し辛い。今はエフィが側にいてくれるけど、それまでは誰もいなかった。今、同じように一人になったら……エフィがいなかったら耐えられなさそう。
「ん?」
「え?」
城の方からきゃんきゃんわんわん言いながら走りよってくる犬数頭。なんで、このタイミングで? 脈絡なしよ?
「あ、うちのわんこたち」
「はあ」
わんこたちはエフィに真っ直ぐ突っ込んできた。
数の多さにエフィは受け止めきれず地面に尻餅をついてしまい、そこにわんこたちの一斉ペロペロが始まった。
「ちょ、お前たち、待てっ」
「うける~えっちゃんと久しぶりに会ったからだ」
笑うパリピ二人。
犬にまみれて見えないエフィ。
ペロペロまみれ……なるほど。
「ラッキースケベかあ」
パリピの真面目な質問にエフィと一緒にいることができないんじゃと思っている私の淋しさが出ちゃった。あまり考えたくない。
私が告白の返事をと思いつつも実現しないのはそこな気がする。エフィは待っててくれてるのに、私が決断しきれていない。
「いっちゃん?」
「いえ、独り言です」
すると城の方から王陛下直属の侍従とおぼしき人が駆けてくる。けど、わんこの世話係じゃないみたいで統制が取れない。平謝りしつつ、見かねた王陛下がすっとお仕事モードになり、わんこたちに声をかけた。
するとぴしりと整列してお座りした。パリピすごい。今の姿だとパーカー似合わないぞ。
「私が連れていこう」
「では私もお付き合い致します」
「ああ、頼む」
両陛下が王族らしく犬を連れて城内へ、ただしパーカーで。シュールすぎる。
被害者なエフィは座り込んでいるけど、侍従からもらったタオルで身体を吹いていた。
はだけてるあたり、顔だけじゃなくて全身舐められたんだな、あれ。ラッキースケベの力は今日も健在です、みたいな。
「エフィ大丈夫?」
「ああ」
二人きりになった庭は急に静かになる。
ぱきりと焚き火の音がよく響いた。
「……今のはラッキースケベか?」
「あー、えーと……」
「父上に何を言われた」
別にお父さんが悪いわけじゃないよと伝えるけど納得してない顔だった。お互い座ったままのところを、じりと詰め寄られる。
「それよりもお風呂入った方がよくない?」
「いい」
「でも」
「イリニ」
手をとられる。
逃げられない。
「その、」
「話して」
じりっとさらに近づく。
「む、昔のこと思い出して」
「昔?」
「一人で外交頑張ってたの、もう終わってるけど思い出すと辛いかな、って」
少し驚くエフィ。
王族としてのエフィと並んで外交をこなすのは私が避けたいことだ。けどエフィと一緒にいないのは辛くて考えられない。かといってエフィにだけ全部背負わせるのは自分が辛かったからしたくなかった。けど、あの辛さをもう一度という意気地のなさがあってなかなか決断できない。
今日の社交界でエフィがいかに私に気を遣って煩わしいものから遠ざけてくれたのはよく分かった。きっとエフィと一緒になれば、嫌なものから遠ざけてくれるだろう。なのに踏み切れない。
「何故父上とそんな会話に」
「そ、それは」
さすがに話すのはと思って逡巡していたらエフィの背後に大きなわんこがぬぬぬっと現れた。
「エフィ後ろ」
「誤魔化すな」
「嘘じゃないって」
勢いがすごい。速さそのままエフィの背中に飛び付き、油断してたエフィがそのまま前に、すなわち私の方へ倒れてきた。
「イリ、ニっ」
「え?」
あっと思った時には既に触れていた。
「!」
「!」
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