第5話 大河
おはよう。起きたか。朝飯だ。初めて見たか? これは、そうだな。牛の乳がたくさん入った茶だ。これにこのパンを浸して食べる。食べてみなさい。体が温まる。
そうだよ。私たちはこうして皆で分けあう。彼らは私とお前の天幕を守ってくれる。王宮にある庭だがな。悪者が忍び込んでくるかもしれない。用心は必要だ。
私は用心をして、彼らに私の天幕を守ってくれと命令した。夜起きていた者はこれから眠り、眠っていた者が起きて昼の間、私達の天幕を守ってくれる。だからこうして朝、同じ茶を飲み、同じパンを食べて温まる。私たちの習慣だ。
さて、昨日の続きを話そうか。
あの頃は、こんな余裕などなかったから、石のように硬いパンを
川の民は、積荷を私達がティタイト側から見えないように積んでくれた。
積み荷の影に身を隠した白い鷹は、私たち家族に言った。もう昔のことだが、今も私は白い鷹の言葉を覚えている。お前にも聞かせてやろう。白い鷹の孫、我が友ヴィンセントの息子よ。
白い鷹は言った。
私は馬商人に馬の金を払った。待ち合わせ場所で待つ間の食料や燃料の金も払った。だが、馬商人が危険を犯して馬を交換してくれたのは金を払ったからだけではない。私が妻と結婚するよりも前のことだ。私と当時は王太子だったライティーザの国王は、ライティーザ王国の奴隷商売をほぼ壊滅させた。私は知らなかったが、奴隷商人達は、馬商人達にとって家族を殺した
川の民もそうだ。私が奴隷商人を討伐した頃よりももっと若い頃の話だ。大河に近いライティーザの町で沢山の者が疫病にかかった。ティタイトは、疫病を恐れ、ライティーザ王国からの船を受け入れなくなった。大河を渡る者がいなくなった。交易が止まり、川の民は飢えた。妻と出会ったばかりだった私は、国境の町イサカに派遣された。ライティーザ王国は、疫病に襲われた町を助けた。その時に、川の民も助けた。ライティーザ王国に住んでいたティタイトの民も助けた。
今、川の民はこうして船を出してくれる。ライティーザに住むティタイトの民は、二つの国の違いを知っている。お前たち家族の助けになると約束してくれている。
かつて助けられた者が、かつて助けたものを助ける。そうしてまた、助けられた者は別の誰かを助けるだろう。
裏切り者はどうなるだろうか。裏切り者が治める国がどうなるだろうか。裏切り者が治める国に住む民はどう生きるだろうか。お前はお前の国ティタイトが、互いに裏切り憎しみを募らせる民の暮らす国になってもよいのか。草原の神は、それをお喜びになるのか。
白い鷹の不思議な色の瞳が私を見ていた。草花が芽吹き始める頃、春の大地のような瞳だ。白い鷹の言葉は、私の決意を後押ししてくれた。
私は草原の神に祈り、誓いの言葉を口にした。
草原の神よ。私は裏切り者を討伐します。家族や家臣や民の
その時、強く風が吹いた。草原の神の祝福だ。草原の神に私の祈りが届いたのだ。私は嬉しかった。
白い鷹は私の娘を招き寄せ、私の息子を抱き大河を見せた。
見ておきなさい。我の息子よ娘よ私の孫よ。お前たちは必ずこの地に帰ってくる。ここはお前たちの民が生きる大地、お前たちが守らねばならない人々がいる。お前たちが治める大地だ。
白い鷹の言葉通り、私達はティタイトの地に戻った。さすがに息子は覚えていなかったが、娘は白い鷹の言葉を覚えていた。
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