第4話 草原
私は一瞬で縛り上げられ、猿轡を噛まされて、袋詰めにされたのさ。驚いたな。一瞬だった。私は叫ぶ間もなく、誰かに運ばれて、馬の上さ。暴れるなとだけ言われたな。散々走ってから、ようやく止まったときに、袋から出してもらえた。
「声は出すな」
白い鷹はそれだけ言うと、私の猿轡を外して水を飲ませてくれた。暗い中、私が乗せられていた馬の騎手が見えた。小柄な男だった。そうだ。後からわかったことだが、お前の父ヴィンセントだ。
妻がどこか、子供達はどうしているのかと思ったが、あっという間にまた出発になった。
馬を走らせていたときだ。誰かが何か合図をした。途端に、白い鷹が弓に矢を
そうそう息子は驚いたことに、白い鷹の腹に
旅の話に戻ろうか。
明け方になり、ようやく周囲が見えるようになった。妻も娘も無事だった。私は安堵した。同時に、父と叔父達家族を思い、私は涙した。無理やり連れてこられた私は生き延びたが、今頃皆戦っているだろうと思うと、白い鷹に庇護され生き延びたことが申し訳なくなった。
「泣くのは早い。国境は先だ」
白い鷹の声は静かだった。風の無い日、音を吸い込んでしまう凪いだ湖のようだった。
あと驚いたことに、白い鷹は、息子の乳母も一緒に連れてきていた。
「私は戦うことはできません。いつか、夫と我が子の
乳母は目に涙を溜めたまま、私の息子に乳をやっていた。
旅の最中に私はライティーザの歴史を聞いた。そうだ。お前の言う通り、幼い頃の逃避行を生き延び、王権を取り戻した五代目メイナード王の話だ。幼かったメイナード王が王権を取り戻したのだ。私に出来ないはずがない。幼い娘と息子のために、国を取り戻す。父と叔父たち家族の
おや、どうした。そろそろ眠いか。そうだな、もう寝るか。何? 天幕で寝てみたい。ティタイトの天幕は初めてか。おいで。
また明日、お前の父の話をしてやろう。ヴィンセントとは、色々な話をした。そう、メイナード王の話を教えてくれたのもヴィンセントだ。その叔父レナード王の悲しい話も聞いた。旅の途中、皆で一緒に寝たのかって? そうだな。交代で見張りを立てた。私は、またここに戻ってくると毎晩誓ったものだ。
あ、履物は脱ぐんだ。なぜかって? 敷物の上を歩いたらわかる。そうそう、気持ち良いだろう。良い敷物は足も気持ちが良い。ちょっと待ちなさい。寝台を作ってやろう。ほら、こうしたら出来る。
ヴィンセントにはお前はここで眠ると、使いを遣ろう。おやすみ。良い夢を。続きは明日話してやろう。約束だ。草原の男は約束を守る。安心しておやすみ。
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