第3話 天幕
私達は囲まれていた。夜だ。明け方には戦が始まるだろうと思っていた。天幕の数を見ればわかる。人数差が圧倒的だった。負け戦になることはわかっていた。私も含め、全員が死ぬだろうとはわかっていた。
あの夜が最期になると思っていた。外が凍える程寒い中、天幕の中で私達は暖を取っていた。突然、天幕に黒尽くめの長身の男が入ってきた。そう。お前の祖父、白い鷹だ。黒い覆面をとり、あの、真っ白な髪を見た時、私は心底驚いた。だが、私の父は落ち着いていた。来たなと言っただけだ。少し微笑んでいたかもしれない。
「私は私に連なる者を返してもらいに来た」
白い鷹の言葉に、私は心の底から悲しみ、かつ安堵した。私の妻、宵の明星は、あぁ、ライティーザでの名前はエミリアだ。お前の伯母だから、ライティーザの民だ。白い鷹の娘だ。白い鷹は娘を迎えにきたのだと思ったよ。愛しい妻とは別れることになるが、妻は生き延びるのだと思うと、少し嬉しかった。
「そうか。我々は明日、大地に還るだろう。連れて行くが良い」
父は微笑んでいたが、白い鷹は多分、怒っていた。
「何故だ。何故おめおめと裏切り者の意のままになろうとする。何故、今ここを抜け出し、体制を整え、奴らを討伐しない」
敵に背を向け、戦いを前に逃げろという白い鷹の言葉に、私は驚いた。
「我々は逃げずに戦う。戦士は戦いを前に逃げることはない」
父の言葉に、私を含めた全員が胸を叩いた。そう、ティタイトでは、強い気持ちがあるという意味だ。
「草原の神は、裏切りを許すのか」
白い鷹の声は低く、地を這うかのようだった。私は驚いた。父も含め、天幕に居た者達が息を呑んだのがわかった。
「草原の神は戦士を好むと、私は聞いた。裏切り者は戦士なのか。草原の神は裏切りを好むのか」
違うと私は言いたかった。誰かが首を振ったのが見えた。
「裏切り者を討伐するのが戦士だ。違うか」
白い鷹の言う通りではあったが、私達は圧倒的に不利だった。
「ティタイトの王族は、ティタイトの民を見捨てるのか」
外の寒さではない寒さに私は震えた。
「反逆などという、戦士にあるまじき行為をする者が、ティタイトの民の安寧のため国を治めると思うのか」
白い鷹の抑えた声は、私の魂を揺さぶった。
「戦士は、裏切り者を
天幕は静寂に包まれていた。
父は何も言わなかった。
「私は私に連なる者を返してもらう」
白い鷹が、私の肩に手を置いた。その時、私は初めて白い鷹が、私も連れて行こうとしていることに気付いた。
「何故」
「お前は私の娘の夫。私の義理の息子だ。お前の子供達に、ティタイトの習慣を教えるのは、父親のお前だ。私達が知るのはライティーザの習慣だ」
私は、何と言って良いかわからなかった。そうしたら、どうなったと思う? 私は、本当にあれには驚いた。
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