第6話 後からならば何とでも言える2

「横領に気づいた誰かにも、感謝しないとな」

「ローズ達、子供達です」

あっさりと返ってきた返事に、ケヴィンは驚いた。

「子供だろう」

ケヴィンの言葉に、ロバートは頷いた。


「常に孤児院にいるという利点を活用し、物乞いや、スリや、ひったくりに、鍵開けの技を駆使したそうです。慰問で寄付をいただいたはずなのに、食べ物がないのはおかしい。悪いことをしている大人がいると、有志を募ったと聞いています」

「子供が」

「当時は、リゼと呼ばれていたローズと、今マクシミリアン邸の近習見習いであるリック、リックの亡くなった双子の兄弟のディックの三人が、子供達を率いたそうです。当時は不明でした。横領を暴いた功労者に報いようと、私も何度かグレース孤児院に足を運びました。軽犯罪を繰り返していた子供たちですから、子供達は、誰が横領を暴いたか、大人に知られたら捕まると思って隠れていたのですよ」


 子供らしい、勘違いに、ケヴィンの頬が緩んだ。

「リズの敵も、二人がとってくれていたのか。会えなかったのは残念だが、ありがとう」

ケヴィンの言葉に、ロバートは目を見開いた。


「俺が横領をしていた夫婦を殺してみろ、俺が罪人になる。俺には出来ない。敵をとってくれた。だから礼は言わせてもらう。ありがとう」

ケヴィンの言葉に、ロバートが穏やかな笑みを浮かべた。


 グレース孤児院に、ケヴィンが通うようになって、もう四十日以上が過ぎていた。

「明日も、グレース孤児院にいってくる」

「はい。ぜひ、そうなさってください」

ロバートは、快く送り出してくれる。


「俺はこのままでいいのか」

日々鍛錬し、鍛錬のあとモニカに会うためグレース孤児院に行く。孤児院から返ってきた後は、少し書類仕事を手伝い、ケヴィンの一日は終わる。その繰り返しだ。


「あなたに、お願いしたいことはありますが、モニカさんのご意見もあるでしょう。モニカさんに、お会いになってから、提案いたします」

当然のようにモニカの名を出すロバートに、ケヴィンは唇をかんだ。


「会えるだろうか」

「会えるまで、グレース孤児院に通ってください。これからさらに、三十日、いえ、四十日たっても、いらっしゃらないのであれば、ニコラスが描くモニカさんの絵を使います。下働きまで含めると、貴族の使用人はかなりになりますから、簡単な方法ではありません。モニカさんの顔が無関係の方に知られるのも好ましいことではありません」


 グレース孤児院で待っていれば、すぐにモニカに会えると思っていた。だが、全くその気配はない。

「モニカさんを信じて差し上げてください。毎年ずっといらしていたのです。何か急なことがあった」

ロバートの顔色が変わった。


「急なことはありました。潰しましたね。貴族をいくつか」

「そこで雇われていたという可能性は」

「わかりません。どれも、義に篤いと、シスター長様が評価するような家ではありませんでしたが。下働きを罰したりなどはしておりませんが。詳細までは、把握しておりません」

「そういえば、あいつらか」

ケヴィンは、隠れ家で何度かあった貴族たちを思い出した。

「子供を引き取っていいなど言う連中じゃないはずだ」

「そうであることを信じましょう。今は」


 ケヴィンは胸元から、二枚の紙を取り出して眺めた。モニカとリズの線画だ。

「明日、グレース孤児院に行ってくる」

「はい」


 明日会うことができたら、今の心配は杞憂に終わる。


 リズ、モニカにお墓にお祈りに来るようにと伝えてくれないか。ケヴィンは語りかけても、絵の中のリズは、微笑むだけだった。


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