第4話 親のない子と子のない親と2
グレース孤児院の子供達だけでなく、シスター達も協力を約束してくれた。ケヴィンは、孤児院で暮らす子供達の母や、子供達を迎えに来たわけではない。
協力すると、子供達が笑顔で言ってくれたことは嬉しかったが、気が引けたのも事実だ。
「下手な希望をもたせることになりませんか」
ケヴィンの言葉に、シスター長は微笑んでくれた。
「ここにいる子供達は、様々な理由で、親と別れました。あの子達なりに、わかっているでしょう。ただそれでも、妻と子と別れた後、必死に探してくれる人もいるというのは、あの子達にとっては希望です」
窓の外からは、騎士たちが希望する孤児たちに、稽古をつけてやっている声が聞こえた。
「剣の稽古もそうです。刺繍の練習も同じです。子供達は、自分達のことを気にかけてくれる人がいることが、嬉しいのです」
シスター長の言葉に、ケヴィンは最期を看取った父を思い出した。父は、二度も無理矢理出ていった息子を、勝手に妻と結婚し、子供を作った出来損ないの末っ子を、気にかけてくれていた。
知る事ができたのは、父の存命中に会えたからだ。ロバートのおかげだ。
奴隷商人達と一緒に捕らえられた時、ロバートに一度帰れと言われた。見逃してもらったのだから、言う通りにするのが義理だろうと、仕方なくジュードに引きずられるように故郷に帰った。金も無かった。
当時、先祖代々の習慣に従い、ロバートは使用人という立場に甘んじていた。自分は近習だと断言したロバートは、言葉だけは上品に、親を説得して、金をせびってこいと言った。どうせ親に可愛がられて育った餓鬼の戯言だと、思っていた。
国境を超えて数日後に、ジュードはようやく口を開き、年老いた父がもはや長くはないと言った。数年前から執務は長兄が全て執り行なっているとも聞かされた。
ケヴィンには、驚くことばかりだった。ロバートが、成人前に先代の当主であった母を喪い、一族の鼻つまみ者の父に苦労させられ、アレキサンダーを最も身近で、何度も命懸けで守っていたなど知らなかった。
久しぶりに会った父は、記憶にあったよりも遥かに年老い、痩せて小さかった。
出奔したハミルトンを連れ戻せという父の命令で、モニカと引き離されたのは事実だ。だが、父が老い、自分も若いとは言えなくなっていた。当時の恨みが消えたわけではない。だが、モニカが生きているはずだとわかった今は、国王である父には、父の事情があったと理解している。
「また明日参ります」
「えぇ。お待ちしています」
今日も会えないまま、一日が終わった。
リズの墓に花を備え、周りの子供達の墓も手入れしてやり、子供達の相手をして、力仕事を手伝って、ケヴィンの一日は今日も終わった。
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