第6話 若造どもがやってきた (本編 第一章 疫病 第47話頃)

王太子様ってのは随分と、変わった考え方をなさるらしい。

ロバートの後任としてやってきたのは、バラバラな三人の若い男だった。


 貴族の次男と、見習いにちょっと毛が生えた程度らしい若い法律家と、商人だ。こいつらは一体何だとベンが思ったのが顔に出たのだろう。

「私の後任です」

ロバートが微笑んだ。


 無理だろうという言葉をベンは飲み込んだ。一人前かどうかは別として、三人きたのだ。王太子様は、腹心ロバートの代わりに三人送り込んできたのだ。


 ロバートは三人を残して、食事を早めに切り上げていった。


 ベンは、きっちり若造達に釘を差しておいた。


 ベンも含めた町の人間が仲間と認め、尊敬しているのは、一緒に苦労をしてきたロバートだ。信用を一から築き上げてきたロバートだから、一緒に仕事をする。少々の無茶も付き合う。


 突然やってきた若造達はロバートではない。若造達が信頼されるかどうかは、これからだ。ロバートは自慢をしない。そもそも自分の手柄と思っているかも怪しい。ロバートは、感謝する町の連中に、感謝は王太子様にするようにと言う。自分は王太子様の部下の一人として仕事をしているだけだというのがロバートの言い分だ。


 ロバートの苦労を若造達は知らなかった。言いたくないロバートの気持ちもわかる。だから、ベンはあえて、ロバートが寝床にも食事にも苦労したことを教えてやった。今の仕事しやすい状況を作ったロバートを、若造達が尊敬しなかったり、感謝しなかったりしたら、町の連中は怒るだろう。


「腹心ってのは並の番頭じゃねぇな」

ベンの言葉に仲間がうなずく。

「あー、大店でも番頭の代わりってんで三人よこすとか、聞いたことねぇよ」

「まぁ、二人に用心棒一人はありか」

仲間の言葉にベンは笑った。

「貴族のレオン様か。まぁ、良い体格だったな」


 若造三人が帰った後、ベンと仲間たちは酒を酌み交わしていた。三人のうちの一人、カールが持ってきた酒だ。

「ロバートと、あの若いレオン様だったら、どっちが強いんだ」

「知らねぇな」


 ロバートが、御者を勤めてくれている騎士たちを相手に稽古をしているのは何度も見た。少々喧嘩になれている町の破落戸では、太刀打ちできないのもよくわかる。

「今度聞いてみるか」

「素直に言うか」

「まぁなぁ。自分の方が弱いってなら、堂々というだろうが。自分のほうが強い場合は、濁すだろうな」

「あぁ。自慢すりゃいいのに」

「お前とは違うよ」


 ベンは、手紙を眺めて寂しそうにしているロバートを思い出した。ベンよりも賢く、そのくせ世間知らずで、時に突拍子もない事を言うロバートは、三人目の息子みたいなものだった。


 ロバートとは、仲良くなったつもりだが、生きている世界が違うのだ。王都で王太子様にお仕えする腹心だ。本人はちがうというが、イサカを救う知恵をもたらしてくれたローズ様とは恋仲だ。手紙の片隅の数行は恋文だ。それにしても十二歳の子供とは。恐れ入った。あのお人形のような顔ならば、女など、選び放題だろうに、なぜ子供だ。


 ベンは読み書きが出来なかった。ロバートに教えられて、少しずつ覚えている。だが、今も手紙のような長い文章は読めない。でも、名前や簡単な言葉はわかる。だから、あれが恋文だと知っている。


 町の恩人のローズ様のところに、ロバートを帰してやるのが、恩返しだろう。十二歳の女の子だ。慕っている男と離れ離れでは寂しいだろう。

「まぁ、あの三人のお手並み拝見だが、ロバートは帰してやらねぇとな」

「お前、寂しいんじゃねぇのか」

「うるさい。若造が三人もいたら、俺は手一杯だ。それに、帰してやらねぇとな。ローズ様のところへ」

「そうだなぁ」

「それにしても十二歳か」

「子供だな」

「子供だ」

「国王陛下に物申すってなぁ」

どんな女だと思った時だった。


「ほらほら、あんたらもいい加減帰りな。明日も仕事だろ」

妻の言葉に、仲間たちもベンも腰を上げた。


「明日から四人か」

そのうちにロバートは帰るから、ベンは三人を辻馬車に乗せることになる。

「仕事だ」


「だから、さっさと寝るんだよ」

朝、ロバートを庁舎に迎えに行くのがベンの仕事の始まりだ。

「はいはい」

ベンは、仲間たちが飲んだ盃を積み上げ、妻のいる台所まで運んだ。


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