秩序を正すのが俺たちの仕事よ

 職員室で鍵を借り、再び倉庫へと向かう李津たち。その道中、バイク小屋の入り口でたむろしている男子たちが見えた。


 カバンからぶら下げたバッシュから見て、バスケ部の様子。


「わくわくするよなぁ、文化祭の演奏」

「絶対にウケるっしょ」

「このあと、しゅーちゃんちでバン練いける?」


 どうやら文化祭で、バンド演奏をする相談をしているらしい。


 それはありふれた青春の一コマ――のはずだった。


「ん? あれぇ?」


 会話に違和感を覚えたアルが足を止める。


「りっつん、バンドって文化祭だと有志ステージになるよね?」


「そーなの? 躑躅つつじ


「分類でいえばそうだな。でもあいつらバスケ部だろ? バスケ部は誰もステージに出ないはずだぞ」


「ねえつーくん、それは確かかな?」


 アルは神妙な面持ちで尋ねる。


 躑躅も改めて左上に目玉を向けて考えたのち、うなずいた。


「ああ。運動部は夏の大会で、文化祭どころじゃねえからよ。有志に出る運動部は少ねえし、俺でも覚えてるぜ」


「だよね。じゃああの人たち、ゲリラライブする気だ。ぼくもさっきパソコンの後ろでチラッと有志のリスト見たけど、バンドなんてなかったもん」


 立ち止まってジロジロ見ていれば、会話に夢中になっていた男子たちもさすがに気づく。


 バスケ部集団は立ち上がり、李津と躑躅、そして他校の制服を着ているアルをうさん臭そうに見回して牽制けんせいした。


「躑躅、どうする?」


「秩序を正すのが俺たちの仕事よ。ま、注意だけで済めばいいけどな」


 ほくそ笑み、指をポキポキと鳴らす躑躅だ。どう見ても穏便に話し合う雰囲気ではない。


 これはまずいと慌てる李津。


「アルはここにいて。俺たちで話つけてくる」


「で、でも、りっつんっ」


「心配するなって。平和的に注意をしてくるだけだか……」


「てめえらァァ!! 文化祭でゲリラライブを行おうたぁ、いい度胸じゃねえかぁ、あァ!?」


 しかし、李津を待たずに躑躅バカが特攻してしまった。


「は? 誰だよ、カンケーねーだろ!」


 そうなれば、絡まれた男子たちも一斉に牙をむき出す。


 ケンカの売買、無事締結ていけつ


 などと言ってる場合ではなく、生徒会が問題を起こすのは大変まずい。李津は躑躅を追いかけた。


「おい躑躅っ! What the f◯ckなにやってんだよ!!」


「なんでテメーは今デレるんだよ、あァ!?」


「フ◯ックくらいわかれよ! あと俺にキレるな!!」


「俺らを無視してんじゃねー! なんなんだテメーらは!?」


 圧巻の長身イケメン5名とそれなりの2名による、ガチンコストリートファイトが開幕。


「うわぁ、やばたにえん!? ぼくのせいで大変なことになっちゃったかも!? アセアセ!!」


 離れた場所で成り行きをあたふたと見守るアルだったが、セリフは古かった。






 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る