どこの組のもんじゃあ!

  ◆◇




 翌朝、文化祭の助っ人たちが生徒会室で日課の朝活ゲームをしていたときである。


「生徒会長はいるかあぁぁ!?」


 ドアが乱暴に開け放たれ、長身の男たちがズカズカと入ってきた。


 先頭は昨日、躑躅つつじが絡んだバスケ部の5人。さらに見知らぬ女子が後ろに3人増えている。


「朝から威勢がいいねぇ。どちらさんだい?」


 急な客の来訪に身じろぎもせず、ソファ席から強圧的な声音を漏らすのは、生徒会長の佐蔵井 絹だ。


 スマホをゆっくりと下ろし、黒目だけ端に寄せて続ける。


「すまねぇが、事前にアポイントを取っていただかねぇと困るん……」


「は? 俺たちはクッソ忙しいのにわざわざ来てやってるんだけど!?」


「まあ、落ち着い……」


「うるせえ! つべこべ言わずにさっさと出てこいよ!!」


 人の話を遮った上に、足元のゴミ箱を思い切り蹴り飛ばして威圧するお客さま。生徒会室にロボット掃除機があれば、勢いよく追い回してくれたことだろう、バカたちを。


 目にあまる暴れっぷりに、絹の目がバキッと開いた。


「てめえら! 生徒会にカチコミたぁ、いい度胸じゃねえかァ、アァ!?」


 生徒会長が凄むと、予想外だったのかバスケ部の面々はひるんだ。


 1位が取れそうなときにゲームを中断させられた絹、なるべく感情を表に出さないようにずっと我慢していたのだ。


 溜まりに溜まった鬱憤は、招かざる客へとブッパされる。


「てめぇらどこの組のもんじゃあ! まずはてめぇが名乗らんかい!!」


「え、組!? 今、組って言った!?」


「違うからな、李津。クラスを聞いてるだけだからな?」


 やっぱり!?という顔をしている李津を、静かに諭す躑躅つつじである。


 それはさておき。


「き、昨日! そいつに因縁いんねんをつけられたんだよ!」


 調子を崩された先頭の男子生徒が、矛先を回避しようと躑躅つつじした。


「俺たちがゲリラライブやるんだってわざと騒いだおかげで、あやうく夏の大会のレギュラーも外されかけたんだぞ!?」


「あァ? そんなのてめえらの自業自得じゃねえか!」


 躑躅つつじが言い返すのを、すぐに絹が手で制す。


 あの騒ぎのあと、派手に言い争っているところにバスケ部の顧問が飛んで来た。


 バスケ部5人は体育館に強制連行。


 まだ残っている生徒が見ている中、騒ぎを起こしたことについて正座でしこたま叱られた。レギュラーも土下座でどうにか死守したのだった。


 ちなみに彼らは本当にゲリラライブを行うはずだったため、躑躅はなんら間違っていない。


 が、「まだやってないのに」という気持ちと、プライドをズタズタにされた怒りが収まらず、勢いのまま本日のご来場である。


「言いがかりの上に権力で生徒を制圧しようとするなんて、最低!」

「謝ってください!!」

「ていうか生徒会室のセンスきっしょ! イキって中学生かよっつーの!」


 ここで、後ろにいた女子が口々に騒ぎ始めた。


 彼女らはバスケ部マネージャーとその友人。よく喋り、口とお股がゆるいことで有名な3名だ。あわよくばイケメンズの誰かと付き合いたい。今が見せ場とばかりにガヤを張り切っていた。


「そうかい。それじゃあてめぇらは、うちの・・・が嘘ついて嫌がらせしたってんだな?」


「ああ、そうだ!」


「なんのために?」


「……へ?」


 問いかけにひるむバスケ部たち。


 反対に絹の表情には有無を言わさぬ迫力があった。


「てめぇらをおとし入れても、こちらにはなんのメリットもないと思うがね?」


「そ、そんなの、モテねえそいつらが俺らに嫉妬したんじゃねえの!?」


 そうだそうだとヤジを飛ばす外野たち。


 小さなころから輪の中心にいる系の人間たちは、大層、自己評価が高かった。


呵呵かか、そりゃそうかもしれねえなあ」


「会長、なに笑ってんすか! 俺は別に羨ましいとか思ってねーよ!?」


 ちょっとツボに入って笑ってしまった絹に、躑躅は心外だとばかりに抗議する。


 こほんと咳をひとつして、絹は顔つきを再び引き締めた。


「文化祭はうちのシマだ。不審な動きがあれば、未然にコトを防がねえといけねえ。そういうあたしの指示で、生徒会執行部は皆動いているんだ」


「でも、俺らがライブをやる証拠なんてないだろ!?」


「証拠? そんなねむてぇもん必要ねえ。ここではあたしが法だ、あたしが黒といったら黒なんだよ!」


「はあ!?」


 ダンッと大きな音に、室内の全員が黙った。


 拳を壁にめり込ませた絹は、バスケ部たちをにらみつける。


「さっきから適当なことさえずってんじゃねえ! てめぇら相応の覚悟持って乗り込んでるんだろうなァ!? てめぇのタマかけられんのか、あァ!?」


 真っ直ぐに啖呵を切られ、もごもご口ごもるバスケ部。今どきの若者は叱られ慣れていなかった。


「こっちは肩書きでもなんでもかけてやろうじゃねえか! そんなに証拠証拠いうなら、センセイでも入れて調査したらァ!」


 強気な絹とは対照的に、調べられてボロが出たら困るのはバスケ部だ。


 しかし、女子を連れてきた手前、カッコ悪いところは見せられない。バスケ部は頑張った。


「そ、そうやって脅して、生徒に言うことを聞かせてきたってわけかよ!?」


 震える声を抑えて、精一杯の嫌味。


 だがそれは、思いがけない効果があった。


「うっわ、生徒会ヤバ」

「もう関わらない方がいいよこれ」

「デカい声出せばいいって思ってそ〜」


 ヒソヒソと陰口を叩き合う、後ろのギャラリー女子たち。


 バスケ部絶体絶命かと思いきや、生徒会のガラの悪さをうまく第三者たちに見せつけることができたのである。


 おそらく彼女たちは、他の生徒に話を盛って吹聴してくれるだろう。


 生徒会への不信感が生徒たちの間で広がれば、バスケ部の味方も増える。違反しかけたことなんて忘却の彼方だ。


 なんとか面目が保たれたと、イケメンたちは顔を見合わせてほくそ笑むのだった。

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