兄ってば陽キャを履き違えてるんだと思います



 廃工場の女子たちはざわついた。


 これから決闘というまさにその瞬間、謎のメイク男がリーダーたちの前に飛び出したのだから。


「なにあれ」「不審者なんですけど」「え、こわ」「どする、捕まえて縛り上げとく?」「てか触りたくない」「縛られて喜びそうじゃね?」


 なんだろう、ちょっと惜しい顔面。雰囲気で誤魔化しているくせ、堂々とした態度が鼻につく。


 しかしレディースのリーダー二人の反応は違った。


「えっ、うそ、りっきゅん!?」


「どうしてここに!?」


 目をハートにするリーダーに動揺する少女たちだが、その名前には聞き覚えがあった。割と最近「ちょっと気になってるんだよね〜」と各リーダーに見せられたインフルエンサーの名だ。


 それにしても、恋する女の子は盲目だというがここまでか。


 以前見た陽スタのイケメンとは目の大きさも鼻の形もぜんぜん違う。しかし、自分たちもビューティーアプリにお世話になっているため、あまり加工の件には触れられない。みな、ストレスを溜め込んでイラついた。


「僕のせいで争いがおきると聞いて、いてもたってもいられなくなってしまってきみたちを止めに来た!」


 そのビジュですごい自信だなと、聴衆はドン引き。もはや、ちょっと笑いをこらえる少女までいる。


 けれど当事者たちは大真面目。薔櫻薇バサラはキラリを忌々しげににらみつける。


「てめぇが呼んだのかよ」


「は? ウチじゃねーし!」


「だったらどこから漏れたんだ!?」


「やめてくれ、薔櫻薇バサラ! 争いはっ、悲しみしか生まない!」


 天然男、李津の真価はここぞとばかりに発揮される。普通ではとうてい言えないセリフも、メイクで気が大きくなった男からスラスラと発せられていた。


 まるで劇団のような大袈裟な演技。


 しかしなんと、その言葉は効果てきめん!


 こう見えて押されたい薔櫻薇バサラ、李津を見つめる瞳は惚けて潤んでいる。ときめきは止まらない。ラブコメは続行する!


「キラリさんもっ! We are the?」


「あ? なんだてめぇ」


「そう、ワールド! ウィアーザチルドレン!」





「おいおいおい、てめぇの兄貴は大丈夫か?」


「兄ってば暴走してますね。あの人今までいんで生きてきた人なんで、陽キャを履き違えてるんだと思います、超かわい〜無理〜♡」


 廃工場の入り口で待機する絹と莉子は、中を覗きながら李津のつないだ電話で様子を探っていた。


 李津の活躍におバカになっている莉子を、可哀想な人を見る目で見つめる絹だった。


 そうこうしていると、レディースたちの雲行きが変化した。


「……わかった。あたしが折れる」


 降参とハンズアップしたのは、「卍・ザ・カヌレ」総長・キラリだ。


 なぜ急に?と、怪訝そうな薔櫻薇バサラに向かってニヤリと口角を上げると。


「だから、ガクト様はあたしがもらってやんよ!」


「っ!?」


 新しい宣戦布告に、ゴングは第二ラウンドを告げる!



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