妹が間違ったなら、止めるのが兄なんだよ!
だが、躑躅の説教はこれからだ。
「ったくおまえは。見ろ、こんなに大勢に迷惑をかけやがって。それに普通に不法侵入だろがよ」
「うるせーな! あたしがパクられようとも、兄貴には関係ないだろ!」
「関係あるわバカたれが!」
「ねえよ!」
「あるんだよ、おまえの兄貴だぞ!」
「はああ?」
それでも――。
「無駄だ。もう俺は、おまえから逃げねえ!」
いつも
「ダルいよ、
今度は薔櫻薇も引かない。
「はあ? 兄だぁ? 留年して、妹に学年を越されてんのに? 尊敬どころか、学校で視界に入るたび、恥ずかしいんだよ! てめぇを兄貴だなんて認めてねーから! わかったら手を離して、とっとと帰れよ!」
「おう、確かに俺はまっとうな人間じゃねえ。おまえよりも出来が悪いしなぁ」
自虐した薄笑いを浮かべて、
「だけどなあ、おまえがどう思おうが、俺たちはれっきとした兄妹だ。妹が間違ったなら、止めるのが兄なんだよ!」
狂犬のように暴れる薔櫻薇を、躑躅はもう怖いとは思わなかった。何年も兄をやってきているのだ。よく知る態度に「またか」という感情しかわかない。
それに
会話が成立しているのであれば、話す余地があるということだ。
「大人になるにつれてよぉ、叱ってくれる人間が減るんだ。間違った道に進んでも教えてくれることなく、離れて終わり。そんなの悲しいじゃねえかよ。……俺はな、そうなっちまう前にこいつに止められたんだ」
ぽかんと口を開けている李津を、
「おまえはどうだ? ここにはたくさん人がいるけど、本気で止めたやつはいるか? 誰がおまえを叱る? いねえなら、
「クソ、うぜーな!」
「おうおう、うざくて結構! おい、おめーらは自分の意志がねえのか!? 社会から縛られたくないくせに、こいつの言いなりか!? つまんねえチームだな!!」
「おい、そいつらは関係ねえだろ!」
周りの少女たちは
今日、どうしてここに来たのか。その理由を、
目の前でわめいているリーダーには恩があった。
でも、それだけなのか。
恩人だから、リーダーだから。命令されたから、なんとなくついてきたのか?
そして少女たちはひとり、またひとりと確信を持つ。
自分は、自分たちは、紛れもなく
少女たちの警戒が、ひとり、またひとりと薄れていく。
薄々わかっていた。この抗争が無駄だということを。
あの男が争いを終わらせてくれるなら、荒療治も受け入れよう。少女たちの気持ちがひとつになった瞬間である。
「それからオメーはいい加減、変な男への執着はやめろ! 金と時間の無駄だ!」
「うるせえっ!」
渾身の力を込めて肘を入れると今度こそ、薔櫻薇は躑躅の手を振り切った。
腹を押さえる兄から離れ、憎らしげに睨みつける。
「てめぇに人の恋路を邪魔する権利はねえ。本気でホレてるんだよォ、あたしはあああっっ!!」
薔櫻薇の心の底からの叫び声が、廃工場に響き渡るのだった。
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