二人きりでうれしいって言った!!

 季節は夏休みに突入した。


 文化祭準備のために生徒会は夏休みも毎日登校なのだが、執行部のメンバーらは生徒会室のドアを開けるのにいつもストレスを感じていた。


 なぜなら――。


「だらアアアアア! 躑躅つつじぶち殺したらあああアア!!」


「会長? なんで俺ばっかり狙うんすか?」


「ミッションふたつクリア! つーくんに感謝」


「まだむぎが生贄おかわりに使えますよぉ!」


「うえぇ〜!? 莉子ちゃんひどいぅ〜〜〜!?」


「わはははは!! ぼくはお先にミッションオールクリア、高みの見物ぅ〜!」


「きゃいきゃい!」


「きゃいきゃい!」


 と、開けた瞬間このような光景が目に入るからである。


「……」


 登校してきた副会長の太宰だざいは、ソファ席でスマホゲームに興じている部外者を睨みつけて席についた。


 生徒会執行部ではない人間が、我が物顔で生徒会を使っているのが気に入らない。


 会長の手前、キレそうなのを我慢して、こめかみに血管を浮かび上がらせるに留めていた。


(ちっ。そもそもこのインテリアのせいで、生徒会は一部生徒から反感をかってるっていうのに)


 生徒会室の昭和極道ルックは代々からの伝統で、会長の絹もそれを引き継ぐといって変えていない。


 だったら行動で挽回したいものだが、最近の生徒会はこの有様。


 活動前ではあるが、会長や交換学生まで巻き込んで遊んでいる有宮李津たちのことが、太宰はどうしても受け入れがたかった。


「おう。いつも早くにご苦労さん、太宰。悪ぃな、もう少し待っててくれるかい?」


「はあー。大丈夫です。まだ全員揃っていないので、どうぞごゆっくり」


 気にかける絹の方を見るでもなく、皮肉めいた口調で太宰は応答する。


「ふむ……。それじゃあこの辺であたしは抜けよう。生徒会の開始時間までまだ時間はあるから、おまえたちは続けたらいい」


 絹は潔くゲームをやめると、自分の席へと戻った。


 さすがに、会長が抜けたあとも同じように続けることはできない李津たち。


「んじゃあ5人モードでやるかー!」


「いえーい!!」


 なので、モードを変えてゲーム続行!


 太宰のこめかみに、ピキピキと浮かび上がる血管の数が増えた。




 ◆




「エアコンもないし、意外ときつそうだな」


「おーあーるぜっとぉー(orz)」


「それ口に出してる人、初めて見た。つか、やっぱアルって古くね?」


 30分後、生徒会の仕事が始まった。


 今日は李津とアルがペアになり、備品チェックのため離れの倉庫へ出向。


 あまり使われていない倉庫のため、重いスチールのドアを全開にして、埃っぽい空気の入れ替えからスタートだ。


「ごほごほっ、うわ、ここから探すのかよ。思ったより大変だなこれ」


 10畳ほどの倉庫は、壁沿いに3段の棚が設置され、体育や行事で使う資材が棚の上から床まで散乱していた。


 わかりやすくげんなりする李津の後ろで、アルは鼻歌でも歌い出しそうなくらい楽しげだ。


「へへん。ぼくはりっつんと二人きりなのは悪くないけどね♡」


「ん? なんか言ったか? ドア動かしてて聞こえなかった」


「二人きりでうれしいって言った!!(クソデカボイス)」


 セリフを聞き逃した李津だったが、アルははっきりと言い切った。


(ふふーん。そうはいかないよ、りっつん。僕はぶつかり稽古一本だもんね!)


 アルの前で、ラブコメのテンプレは通用しない。オタクへの対策はしっかりと練られていた。


「そうなのか、俺もうれしいよ」


「んんんんっ!?」


 だが、彼も思ったことを素直に言うタイプである。


 この勝負、イーブンかと思いきや、アルの方が顔を真っ赤にして言葉を詰まらせる始末。


 攻めのは慣れているが、攻められるのに慣れていない彼女も、所詮オタクだった。


 バグりかけている少女をよそに、たしかに僻地での作業は気持ち的にも楽だな。と李津は思い直していた。


 冷遇されるのは慣れているとはいえ、生徒会室の居心地はよくない。


 外に出られた上、少人数作業は願ったり叶ったりというわけだ。


 きっとアルもそんな感じでうれしいと言ったんだなと、李津は都合よく解釈して勝手に共感した。





  

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