お泊まりよろしくねー! (LINEあり)

 翌日の放課後。生徒会室に、生徒会執行部のメンバーが集まっていた。


 相変わらず物々しい室内では、 「不言実行」と書かれた大きな額縁を背に、生徒会長・佐蔵井 絹が座っている。その席を先頭に、向かい合うように置かれた机に役員たちが着いていた。


 絹は神妙な面持ちのメンバーたちをゆっくりと見回すと、本日の連絡事項を口にした。


「明日から夏休みだ。生徒会は文化祭準備の指揮をとらなければならないが、中には部活の大会に力を入れたい者もいるだろう。そこで、助っ人を連れてきた。紹介する」


 その言葉を合図に、役員たちはソファ席へと顔を向ける。


「少し前から協力してくれている2年のにのまえ 躑躅つつじ。そしてこれからは有宮兄妹も参加する」


 紹介された李津たちは、ソファ席からちょこんと頭を下げた。


 だが、生徒会執行部の視線は冷ややかだ。


 そもそも、躑躅のような不良が生徒会に出入りしているのをうとましく思っているのがほとんど。


 そして今回の助っ人は、問題児で有名な有宮李津だという。


 自分たちは努力して選ばれて入ったのに、どうして不真面目な人間が神聖な生徒会に立ち入っているのだと。


 プライドの高い彼らが、新入りを認められるはずがない。


 ゴリッゴリの悪意に満ちた視線を受ける助っ人たちだったが。


「2年2組の有宮李津です。よろしくお願いします」


 李津、嫌われるのに慣れすぎて全然効いていない。


「初めまして、莉子ですっ! 一生懸命頑張りますので、ご指導ご鞭撻をお願いしますね、先輩たち☆」


 莉子、ギャルなのにかわいさと健気さを押し出してギャップ萌えに事欠かさない。


「よぉおっ! よろしくお願いしますぅ〜。あっりみや、つむぎですぅ。え、えと、あの、お菓子を作ってきたので、みなさんの机に置いてますのでぇ。よしなにぃ〜!」


 つむぎは手作りのお菓子で胃袋をつかむ。


 こちら、地獄の半生を乗り越えてきた者たちだ、面構えが違う。優等生たちのにらみが効くような、やわいメンタルではないのだ。


 そのかいあって、李津の評価は上がらなかったが妹たちへの警戒心は薄まった。優等生たちは、いい意味でも悪い意味でも素直だった。


「さらに、今年は交換学生が来ている。紹介しよう、松谷まつやハウル嬢だ」


 絹の隣でパイプ椅子に腰掛けていた、紺色のブレザーを着た女子が立ち上がる。


「どもー、初めまして! 茨城IT高校3年、松谷まつやハウルです☆ こちらの学校は文化祭のレベルが高いと聞いて、ノウハウを学びに来ました。仲良くしてくださいっ!」


 肩までの髪をおさげにした、黒縁メガネの少女はパチンとウインクをして見せた。


 真面目そうな見た目に反してノリが軽く、自己紹介慣れしている。


 ちなみにこれは余談だが、大変豊かな胸元のせいで、はじけそうになっているブラウスには声援を送りたい。


松谷まつやさんですね、我が校へようこそ。困ったら副会長の僕、太宰だざいになんでも聞いてください」


 真っ先に立ち上がり、手を差し出したのは副生徒会長のメガネ男子だ。


 李津らへのリアクションとは真逆で、ハウルにはウェルカムな雰囲気を出していた。


(交換学生? 聞いたことないが、きっと彼女は優等生こちら側だろうな。だったら仲良くしておくに越したことはない)


 あわよくば成績への加点にならないかと。まさかおっぱいが理由では絶対にない。


 ハウルは微笑みを浮かべて、太宰の方へと歩き出す。しかし差し出した手は握られなかった。


 顔がこわばる副会長を素通りしてソファ席へ向かうと、ハウルはうれしそうに新入りたちを見下ろした。


 そんな彼女を不審がり、つむぎは兄のシャツを引く。


「お、おにーちゃん、こっち見てるけど、知ってる人ぉ?」


「え、いやいや!」


 李津は首を振るが、内心狼狽うろたえていた。


 年上の巨乳女子(しかもおとなしそう)! 李津の好みど真ん中だったのだ。


 これでゲーム好きならビンゴが完成。


 理想そのままの女子が目の前に現れたのだから、しどろもどろになるのは道理だった。


「やっほー! 今日からお泊まりよろしくねー!」


「なんで!?」


 無邪気にとんでもないことを言う巨乳女子に、李津は焦った。生徒会執行部のじとりとした視線も一様に集まる。


「兄!! お泊まりってどーゆうことですか!?」


「知らんわ! ご、誤解だからな!?」


「えー、昨日LINEしたじゃん。それに、服も貸してくれるんでしょ?」


「俺の服を!? LINE…………えっ!?」


「ねー、りっつん・・・・?」


 LINEする相手など、片手で足りるほどの彼が覚えていないわけがない。


 ようやく事態を飲み込んだ李津の顔はみるみると蒼白し、カラカラに乾いた口をぱくぱくと振るわせた。


「お、おおおおおおまっ、おまえっ、そんな、まさかっ」


「えへん、アルだよ! 会いたかった〜!!」


 ぎゅっ。と、ためらいもなく真正面から飛びつく距離バグの少女。


 そんな、「年下の男の子だと思ってたゲーム友だちが本当は女の子で、俺のどタイプな姿で目の前に現れたんだが!?」というラブコメのタイトルみたいなことが起きる!? とは李津のぐちゃぐちゃになった思考の一部。


 ええ、起きましたとも!


 そのうらやまけしからん光景を、ぎりぎりと奥歯を噛みながらにらみつける人間がいたことを、今はまだ、誰も気づいていなかったのである。







【アルの個人LINE】


>Arkadia


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ついに明日だ!

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23:14


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         気をつけて来なー

         駅まで迎えに行くわ、何時

         くらいになる?

         ----------------------

         23:40

         既読



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夕方6時とか?

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23:41



(喜ぶスタンプ)

23:41


         (了解っぽいスタンプ)

         23:42

         既読



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なんか持ってくもの

あるー?

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23:42


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         適当でいいよ。

         俺のでよければ

         Tシャツとかは貸す

         ----------------------

         23:48

         既読



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貸してクレメンス!

りっつん、面倒見イイネ☆

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23:49



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         だろ?

         俺って兄ちゃんタイプなん

         だって、最近わかったんだ

         よなー

         ----------------------

         23:50

         既読


         ----------------------

         ずっと弟がほしかったし。

         たくさん遊ぼうな!

         ----------------------

         23:51

         既読



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弟がほしかったんかwww

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23:52


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( ´_ゝ`)

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23:52


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んじゃ明日、楽しみにして

てなー!

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23:52



         ----------------------

         おー

         じゃあまた明日

         連絡よろー

         ----------------------

         23:55

         既読 




(画像はノートに掲載)

https://kakuyomu.jp/users/asamikanae/news/16818093081681011914



 

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