わたしは右足?になるのでぇ
放課後、李津とつむぎは生徒会室の前に立っていた。
金輪際、生徒会とは関わらないと決めていた彼がここにいる理由はふたつ。生徒会の呼び出しに対して「これで最後だから」と
そこまで言われて無視するほどの胆力もない彼は、嫌々ながらも足を運んだのである。
興味のない相手と話すのは時間の無駄だが、相手の義理を無碍にするのも人としてどうなのか。
だったら早く終わらせて帰ろうと、李津が諦めてドアに手をかけたときだった。
『
ドアの向こう側から聞こえてきたのは、生徒会長・
兄妹はなにごとかとドアに張り付き、聞き耳を立てた。
『男なら一度決めたら曲げンじゃねぇ! そのドスとキンタマは飾りか、あァ!? こっちは逃げも隠れもしねぇ! 一気に
『しゃーせんっ!! と、取らせていただきゃーーーーっす!!!!』
なにを?
奇しくも、危機一髪シーン。
「は、はやまるな、
李津がドアにぶつかるようにして飛び込めば、ソファスペースで向かい合う絹と
だが、李津は間に合わなかった。
「うわああああああああああっ!!!!」
身を低くした
ガチッと何かを
「
「はあ、はあ、はあ……。俺がヤったのか……?」
「ああ、よくやった。てめぇの手柄だよ」
「ううっ……あじがどう、ございばず!!」
絹は
「おう、りの字ィ」
「……なにしてんの」
「海賊カチコミゲームだよ。コイツにブッ刺して樽から飛び出させりゃ勝ちさァ。おまえもやるかい?」
見れば床に、海賊が無惨な姿で転がっている。
「やらねーよっ!」
感極まって泣いている
「あ、あのぉ〜、こ、このゲームってぇ、黒ひげさんを飛び出させた方が負けなのではぁ〜?」
「なに言ってるんだつむぎ。
「うえっ、えぇえ〜!?!?」
困惑するつむぎに、ポカンと呆れたリアクションを見せる李津だ。
余談だが、海外の黒ひげのルールはそうなっているし、日本も発売当初は「当てたら勝ち」がオフィシャルルールだったので、絹のやり方も一概に間違っているとはいえない。
「待ってましたよ、兄! むぎもやっほー!」
カオスな空間に聞き慣れた声が通る。
声の主を探せば、
「どうして妹1が、という顔だな。まあ二人とも適当に座ンな」
絹はソファを譲ると、自席から椅子を持ってきて腰掛けた。
ソファには李津と
目の前のテーブルには、海賊カチコミゲームが転がっている。
「まずは先日の依頼についてだ。りの字も妹たちもありがとう。レディースの2チームは再度あたしの管轄下に置くことになったから、もうカタギに迷惑はかけねぇ。佐蔵井 絹の名にかけて約束しよう」
絹は抗争のその後についてを、面々の前でつらつらと語った。
早く言いたくて仕方がなかったのだろう、言葉は詰まることなく流暢に続いていく。
だが李津が手を貸すことにしたのは、
報告がひと通り終わると絹は妹たちに目配せをした。
「さて、今日りの字に来てもらったのはこの報告だけじゃねえ。実はもうひとつ、頼みがある」
上の空だった李津だが、さすがにその言葉は聞き逃さなかった。
「はい、はい、はい、はい」とビートを刻んでいたあいづちをピタリと止める。
絹の「頼み」には嫌な予感しかない。思わず席を立ち上がるが、絹は動じることなく李津を見据えた。
「おまえ、あたしの右腕になるつもりはねえか?」
突拍子のない提案だが、瞳は真剣そのものだ。
そこに、話を口を半開きで聞いていた
「ちょっと待ってくれ! 会長? 右腕は俺じゃねーのかよ!?」
「そうか? じゃありの字は左腕でもいいか?」
めちゃくちゃ雑に、空いている左腕が提示された。すごく凛々しい表情である。
これにはさすがに李津も
「今日が生徒会室に呼び出す最後だって聞いたんだけど?」
「ああ、
図太い絹は、涼しい顔でクレームを受け流した。
眉間にしわを寄せる李津を見て、慌てて妹たちがフォローする。
「兄、これはチャンスかもです。生徒会に貢献すれば、イメージアップにつながりますよ!」
「お、おにーちゃんがもしひとりで寂しいならぁ、わたしも生徒会長の右足?になるのでぇ〜。ね〜?」
「おっ、じゃああたしは左足ですね!」
などと、前の席で勝手に盛り上がる妹たち。
「右足に左足って……おまえらエクゾディア作る気か!?」
「
ツッコミが噛み合い、李津と絹は顔を見合わせた。
「あれこいつ、まさか」的な。
お互いに
その時、李津のスマホアラームが生徒会室に響いた。
「あっ。悪いけど、少し外したい」
李津は腰を半分浮かして、そわそわし始めた。
一方、同じく絹もスマホの画面を見て。
「いや、あたしも10分ほど抜けようかな。躑躅、悪いが妹たちに茶でも出してくれねえか? ……おやどうしたんだい、りの字。なにかあたしの顔についてるかい?」
顔をジロジロと見られていることに気づき、絹は首をかしげる。
「組長、もしかして」
「おい李津! 組長じゃなくて
「ゲリライベント?」
「……その言い草じゃありの字、おまえもか」
二人は互いに口角を上げた。同志を見つけた目には、もう一切の迷いがない。
「
「フフ。組長も健闘を祈る!」
「だぁから、会長だつってんだろ李津!! おまえソレ、直す気ねえな!?」
冷蔵庫の前で叫ぶ
「はあ。スマホゲームのなにがそんなに楽しいんですかね」
「わ、わたしもぉ、おにーちゃんと一緒のゲーム、はじめようかなぁ〜。えへへ〜」
「むぎ、そういうドM発言はやめたほうがいいですよ」
「うえぇっ、どーゆー意味ぃ〜!? 莉子ちゃんぅ〜〜!?」
放置された妹たちは、ゲームに夢中な二人を冷ややかに眺める。
話し合いはゲームのゲリライベント後に再開されたが、とてもスムーズに進んだという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます