竿役は誰でもいい。最悪、俺が寝取る(LINE トークあり)

 すぐに四人は、にのまえ 薔櫻薇バサラと卍・ザ・カヌレリーダーのSNSアカウントを手分けして調べた。


 気になった二人の共通点を書き出して15分。


「こんなかんじかなぁ〜」


 つむぎの手元のノートには意見がこのように揃った。


・チームリーダーを公表している

・派手なメイクしがち

・薄着がち

・ハイブランド自慢しがち

・車好きがち

・ネットリテラシーがグレーな動画あげがち

・仲間とウェイ写真多いがち


「うーん……強請ゆするとしたら、動画がよさそうだな」


「見てくださいこのアッパッパーなショート動画。SNSで拡散されたら炎上モノで草。消える前に画面録画で証拠確保しときますね」


「あ、あのぉ〜。おにーちゃんも莉子ちゃんも、いちお躑躅つつじ先輩の妹さんのことなのでぇ。お、穏便な感じでぇ〜?」


 容赦を知らない腹黒兄妹である。つむぎがたしなめていると、躑躅つつじが声を上げた。


「なあ、誰だこいつ?」


 彼が差し出したスマホ画面には、韓国アイドルのようなきれいな顔立ちの男子のTikTokアカウントが開かれていた。タレントではなさそうだが、フォロワーが1万と少しいる。


 躑躅つつじの手元を覗き込み、李津は眉を寄せる。


「いや逆に誰だよ」


「妹の誕生日の投稿にコメントしていた男のひとりだ。妹がハート多用したレスつけていたから気になってこいつのページ見てみたらよ、男の投稿すべてに妹がレスしてんだよ」


「リア友か? ん? 妹、そいつの誕生日に何かあげてるっぽいぞ」


「マ!?」


 兄たちの会話を聞きながら、莉子はすぐに陽スタを検索し始めた。そして同じ男のアカウントの投稿を見て、何度もうなずく。


「すごい! 躑躅つつじさん、よく気づきましたね!」


「え、どうしたの莉子ちゃん」


「ビンゴです! この男、卍のヤツもプレゼント送ってます!」


 男の投稿に卍がつけた「ウチが送った服着てくれてありがとう♡」というコメントを、莉子は印籠のように見せつけた。


 コメント欄にまで気づくとは、さすが兄の執念というところ。


 李津はアカウントを見つめて爪を噛む。


「まさか……ピーナッツ戦争はブラフ・・・か?」


「ええ、オッカムの剃刀・・・・・・・――男の影が出てきたなら、仮説は1つで充分ですね」


 ノリノリで莉子も口角を上げちゃったりする。


「あ? オッカムって誰だぁ?」


「『お母さん』の津軽弁とかかなぁ」


「普通にヨーロッパの哲学者ですけど……」


 話についていけてない躑躅つつじとつむぎに、決めゼリフの説明をするはめになる莉子である。


「ふむ……」


 その間、李津は机の一点を見つめて黙り込んでいた。


 口元はぶつぶつと何か動いているが、まるで聞こえていないように集中している。


「おにーちゃん、ゾーンに入ってるぅ〜」


「よくあるのか? こんなのクラスで見たことないんだけど」


「ゲームしているときとかこんな感じですよ。ヤバいですよねうちの兄、超推せる」


「莉子ちゃんのそのお兄さん愛、なんなの」


 躑躅つつじが怪訝そうに莉子を見やる。自分の知っている兄妹像とかけ離れすぎているため理解が追いつかないという顔である。


「推し……愛……あっ」


 突然、閃いたように李津は声を上げ、莉子の手首を掴んだ。


「寝取れないか?」


「えっ!?」


 手を握られて嬉しい反面、この兄、頭がおかしくなったのかと莉子が顔を引きつらせる。


 しかし李津は真剣だ。


「竿役は誰でもいい。最悪、俺が躑躅つつじの妹を寝取る!」


「てめえ! それ以上言ってみろ、ぶっ飛ばすぞ!!」


 躑躅つつじが立ち上がって李津の襟元を掴んだ。だが李津の瞳に躑躅つつじは映っていない。


 それで莉子はピンと来たようだ。きらりと瞳を輝かせた。


「いいでしょう、兄」


「莉子ちゃん!? よくねえよ!? 俺の妹だよ!?」


「あたしに任せてください。その代わり、兄にはインフルエンサーになってもらいます」


「ああ、本来なら絶対に嫌だけど仕方ない、俺もそれが早いと思ってた。あとつむぎ、おまえにもやってほしいことがあるんだけど」


「ひゃいっ!?」


 李津に呼ばれたつむぎは、びくっと肩を上げて返事する。


「つむぎはこの、韓国アイドル風のイケメンを寝取ってくれ」


「ひえぇ〜〜!? 妹になんてことをさせる気ぃ〜〜〜〜!?」


 トラブルを後回しにできない李津、解決への近道が見つかれば手段は問わないタイプ。


 ここに、有宮家NTR作戦が始まりを告げた。







 それから、全員がXデーに向けて動いた。


 いちばん負担が多いのは、ネットに強い莉子だ。


 夜な夜なパソコンで作業をするため、その労力は尋常ではなく――。


「うふふふ、兄のセルフィーが集まるなんて、あたし的にも得しかないですね!!」


 ……。


 いや、心労ならつむぎにいちばんかかっていた。慣れないメッセージのやりとりで、大層疲弊し――。


「莉子ちゃん〜! えっちな画像くれって言われたのでぇ、おにーちゃんの肘を曲げたところを撮って、巨乳っぽく見せて送ってみましたぁ〜」


「おまえ、たくましくなりましたね」


 ……。


 主犯の李津や躑躅つつじなんかもっともっとヤバくて、大役をまかされた責任感と緊張が蓄積しており――。


「李津! こっちの準備は整ったぜ」


「おっぱい(なんだって!?)」


「……もう少しであいつらは行動を起こすはずだ!」


「おっぱい(わかった、妹たちにも共有する)」


「くそっ、誰だァ! 李津からスクイーズを奪ったのはァァ!? おっぱいしか言えなくなっとるだろうが!!」


「に、にのまえくん、スクイーズなら足元に落ちてるっす!」


「おう助かったぜ! ありがとな、そのセリフのために用意されたようなモブ男! おい李津、しっかりしろ! スクイーズだ、握れ!」


 にぎにぎにぎにぎにぎにぎにぎにぎにぎにぎにぎにぎ。


 目がイッた男が執念深くスクイーズを握る姿に、クラスメイトはみなどん引きだ。


「はっ!? な、なんだよつーくん血相変えて。おまえ最近、ちょっと変だぞ?(おっぱい)」


「李津ぅーーー!!! くそ、おまえをシャブおっぱい漬けにした犯人はぜったいに俺が見つけ出して、なんとかしてやるからなぁ!!!」


「??(おっぱい)」


 ……。


 とにかく、それぞれがそれぞれの務めを果たし、その日を待つのであった。


 そしてついに。


 Xデーが決定した。






【LINE】


>キラリ


         ----------------------

         てめえまたかよ!

         ----------------------

         23:25

         既読


キラリ

----------------------

てめえこそ!

----------------------

23:28


         ----------------------

         ふざけんな!

         ----------------------

         23:28

         既読



キラリ

----------------------

やっぱり殴り合いで決める

しかねえな

----------------------

23:29


         ----------------------

         上等だ!

         ----------------------

         23:30

         既読



キラリ

----------------------

今度こそ決着をつけてやる

よ!

----------------------

23:30


         ----------------------

         ああ、てめぇなんかに

         ----------------------

         23:31

         既読



キラリ

----------------------

りっきゅんは渡さない!

----------------------

23:31


         ----------------------

         りっきゅんは渡さねえ!

         ----------------------

         23:31

         既読






(画像はノートに掲載)

https://kakuyomu.jp/users/asamikanae/news/16817330659503848200


 

  

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