お っ ぱ い

  ◆




「話は聞かせてもらいましたよ、兄!!」


 教室に戻れば、莉子が李津の机に座って脚を組んで待っていた。


 かたわらにはつむぎと躑躅つつじが、適当な席に腰掛けている。


「つーくん……喋った?」


「協力してもらう仲間が必要だけど、おまえ友だちいねーじゃん。だから、莉子ちゃんとつむぎちゃんを呼んで来た」


「胸にくるやめて」


 妹しか頼る人がいない現実をつきつけられ、李津のライフポイントはもうマイナスだった。実質、死である。


「なんですかおもしろいことを独り占めたって、そうはいきませんよ!」


 莉子は目を輝かせていた。全然おもしろいことではないのに、楽しそうである。


「あ、あのぉ。わたしはなにもできないのでぇ〜」


「つむぎちゃんはかわいいから、かわいい係をしといてよ」


「うえぇ〜〜!? 責任が重いぃ〜〜!」


 適当すぎる躑躅つつじの軽口を、つむぎは100%本気で捉えていた。


 つむぎは喋らせているとうるさいので、李津的にはそのままなにもしないでいてほしいというのが本音。


「んで、俺がこーやってはたらいている間、おまえはどこで遊んでたんだよ」


「えっ、スクイーズのこと?」


「は? 低反発のおもちゃがなんだよ」


「……ん?」


 聞かれて、一気に記憶が蘇る。


 今までもやがかかっていたような頭の中に、片手でつかんだモノの絵が鮮明に浮かび上がった。


 お っ ぱ い 。


 次の瞬間には真っ青になる。


 混乱していたとはいえ、結構な時間、堪能させていただいた気がする。


 いわく、やっちまった、と。


 相手は様子のおかしな生徒会長だ。これを既成事実に脅されたらどうしようと、生きた心地がしなかった。


「李津?」


 心配そうに顔を覗き込む躑躅つつじに、李津はハッともうひとつの用事――というかこちらが本命だったのだが――を思い出す。


「そうだ、にのまえ妹に、『もうしないでください』って直談判に行ってきたんだが」


「マジで? それであいつ、なんて?」


「『兄の玉潰す』って」


「とばっちりじゃねえかよ! あほ! 家に帰るのが怖ぇよ……」


「うちくる?」


 よよと机に突っ伏す躑躅つつじを気遣う李津だが、発端はおまえである。


「あ、あのぉ〜。仲違いの理由がピーナッツの食べ方って聞いたけどぉ、だったら収めるのは難しいかなぁって思っててぇ〜」


 そんな二人に恐る恐る声をかけたのはつむぎだ。


「きのこたけのこ戦争がいまだに終息しないのだってぇ、どちらにもいいところがあるからでぇ。こーゆうのってぇ、好みの問題じゃないですかぁ。どちらかに決めるっていうのは、無理かとぉ〜」


「「あっ!」」


 李津と躑躅つつじは顔を見合わせた。


 この依頼は、解決できないようになっている・・・・・・・・・・・・・・と気づいたのだ。


 どうして、そんな無茶な課題を生徒会長は李津に課したのか。


 李津が失敗する様子を楽しむいやがらせか。


 彼女の本心は、まだ見えない。


「こほん!」


 妙な空気になりかけていたところで、莉子がわざとらしく脚を組み替えて視線を集めた。


「まったく。兄が非合理的なことをしている間に、あたしはSNSで情報収集をしていたんですけどね! 総長二人のアカウント、見つけましたよ?」


 莉子はLINEを立ち上げると、みんなにURLを共有する。


「二人とも個人情報を大放出してたから見つかったんですけど、こーいうのから弱みは見つかる可能性が高いんですよ。だから腑抜けてないで、みんなで探しますよ!」


「弱み……」


 躑躅つつじが顔をひくつかせた。妹のプライベートを見るのに気が引けるらしい。


薔櫻薇バサラ先輩の彼氏情報も見つかるかもしれないですねー」


「俺は妹のアカウントからヒントを探すぜ!」


 莉子の煽りに急にやる気が出た躑躅つつじだった。





  

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