ボーナスにキッスでもしてやりたいもんだが

 というわけで李津の行動は早かった。


「ケンカ、やめてください」


「ああ? 誰だてめー」


 ドアの敷居をまたいで、李津は目つきの悪い女子と対峙していた。




 放課後、ケンカの直談判のため、李津は3年の教室へと向かった。


 レディースチーム「キャット・キス」の総長・にのまえ 薔櫻薇バサラはすぐに見つけることができた。誰に聞いても、いそうな場所を即座に教えてくれるからだ。


 会ってみてその理由はすぐにわかった。彼女、かなり目立つ。


 濃いめのメイクに長い金髪、170cmはあるだろう高身長もあって圧倒的な存在感を放っていた。


 そんな彼女に話しかける生徒はほとんどいない。


 2年の、しかも男子が彼女に会いに来ているのを面白がり、3年の生徒たちは李津と薔櫻薇バサラ邂逅かいこうに注目していた。


 それが彼女のイラだちを増幅させると、李津には知るよしもない。


「2年の有宮李津です。躑躅つつじと同じクラスで、仲良くしてます」


「はあ!? あンのクサレワカメ! 玉潰すぞって言っとけ!」


「どうふっ!」


 李津の顔面をぺたんこのバッグで殴りつけると、プリプリと怒りながら薔櫻薇バサラは教室を出て行った。


 接見時間わずか2分。交渉の余地なし。YOU LOSE。


「文法的に“You lost”と過去形ではないのかという英語圏からの意見もあるが、天下のカプ◯ン様が“You lose”といっているなら俺たちゲーマーはそれに倣うんだ……」


呵呵かか。いい格好じゃねえか、りの字」


 鼻を押さえてうずくまっていた李津が顔を上げれば、爆笑する生徒会長・佐蔵井 絹の顔が目に入った。


「てめぇは、こんな……ンフフッ。ま、真っ向から相手に挑む単純バカはいるかい」


 めちゃくちゃツボっていた。


「でもあたしは嫌いじゃないよ。誰もその、単純なこと・・・・・すらしないで尻尾巻いていきやがったからなぁ」


 ぽんっと李津の頭に手を置くと、絹はしゃがんで視線を合わせた。


「てめぇには期待しているよ。うまくいけばボーナスにキッスでもしてやりたいもんだがね、呵呵かか


「……いらない」


「そうかい、残念だな。あたしはこれでも年上にはモテるんだが、年下には魅力がねえのかな」


「!?」


 突然、絹は李津の手首を乱暴に取った思えば、自分の胸に彼の手を押し付けた。


 手のひらにすっぽりとおさまるちょうどいいサイズ感。ごわごわする制服の上からもわかる、中身のやわらかな感触。


 SQUEEEEEEEZEスクイーーーーーーズ!とは李津の全神経の叫びである。挙動不審な彼に向かって、絹は自然に小首を傾げた。


「引き続きよろしく頼む。あれはウチのかわいい子たち・・・・・・・・・・なんだ。これ以上、ことを大きくしたくねぇンでね」


 さらりと、ポニーテールの束が肩の前に落ちる。


「ああ、まかせてくれ!」


 瞳をきらめかせてカッコつける李津だが、その神経は膨らみに添えられた手のひらに全集中していた。





 気づけば、背後でピシャッとドアが閉まったところであった。


「??」


 記憶に混濁が認められる。


 自分の手のひらを眺めて首を傾げながら、李津は廊下を戻っていった。


 記憶に混濁が認められる。



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