As a brother and as a man
10話 妹は兄をインフルエンサーにする
理解できないものが苦手なんですよぉー
つむぎのクラスで騒動があった日の昼休み。李津の教室にはいつも通り、つむぎの姿があった。
いつもと違うのは莉子もいること。
1限目の終わりには、隣クラスの莉子の元まで騒ぎの噂は届いていた。しかし誰に聞いても「多分」「らしい」「よくわからないけど」という曖昧な証言ばかりだった。
莉子はギャルと地雷系に手を下した当事者だということもある。早く真相を知りたくて、昼休みは李津とつむぎのランチタイムに飛び入り参加したのだった。
事件後の話はこうだ。
つむぎを目の敵にしていたクレアは号泣したまま這うようにしてクラスを飛び出し、そのまま戻ってこなかった。ニコルは明らかにしょぼくれ、つむぎを避けるようになった。
山川翔也ら男子たちも
噂で出回っていたのは「クレアが突然転んだかと思えば、おかしくなった」というあたりである。
口下手なつむぎからは当然、それについてごまかすような上手い嘘など出てこない。
つむぎは仕方なく、彼女が「朝比奈さん」と呼ぶ
「えっ、幽霊っ!?」
「それってお化け!?」
同時に声を上げた二人に、つむぎは緊張した面持ちで頷く。
「だからおまえ……たまに変なバカ力が出るのか……」
初めて李津がこの町に来た日、川に飛び込もうとするつむぎにクソデカパワーで引きずられたのも、つむぎにしか見えないもう一人のせいである。
戸惑う李津の斜め隣で、莉子は青い顔でソワソワしていた。
そんな二人のリアクションに、早速つむぎは打ち明けたことを後悔した。
「気味が悪い」と人が離れていったのは一度や二度のことではない。
このせいで莉子が女子部屋を出て、李津の部屋に住み込んでしまったらと思うと気が気ではないし、もしかしたら自分が家を追い出される可能性だって考える。
つむぎはまぶたをぎゅっとつむる。こんなの、死刑宣告を待つ囚人のような気分であった。
「つむぎを守ってくれてありがとう、朝比奈さん」
冷たく心を刺す言葉を待っていた彼女に降りそそいだのは、あたたかくて柔らかな言葉だった。
「うぇ……?」
驚いたつむぎの瞳に、李津が顔を左右に往復させているのが飛び込んできた。
「それに、朝比奈さんのおかげで莉子が川に落ちなかったわけだもんな。な、莉子!」
橋の上から落ちかけていた莉子の体重を、運動部でもない高1女子がひとりで支えるなんて本来なら無理な話だ。もちろんそれも朝比奈さんのお力添えがあったからこそ。
「あっ、そ、そうですね。ありがとう、ございます……。ていうか、今もその……いるんですか……?」
莉子は顔の前で手の平を合わせ、ビクビクとつむぎに尋ねた。
つむぎは、申し訳なさそうに顔だけ振り返る。
「いるよ〜、わたしの左肩の後ろにぃ」
「うお」
「ひゃっ!!」
「ふふっ。朝比奈さんが嬉しそうなの、久しぶりかもぉ〜」
二人の挙動に、思わず笑みをこぼすつむぎだ。
幽霊が怖くないわけがない。けれど、李津も莉子も受け入れようとしてくれるのが伝わってきて嬉しくなる。
「そうか。ずっとつむぎのことを見守ってくれていたなんて、いい人なんだな」
「うう……わたしは理解できないものがいっちばん苦手なんですよぉー。くわばらくわばらぁー」
「誰の気持ちも
「そんなこと言うなら、兄だって大概ですからね!!」
本当は怖くて勘弁してほしい莉子だが、もう気にしないことにした。
イイ幽霊、怖クナイ。
つむぎとは同室ゆえ、そう思っていないとこれからも怖い思いをするのは自分自身である。
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