兄はラブコメだと主人公になれないタイプですね

 とある放課後、駅前マクドナルドの客席で、莉子が腕組みをして立っていた。


 ツインテールJKの仁王立ちには凄みがあり、店内の客たちも何事かとチラチラと様子をうかがっている。


「おまえら、バチバチにクズですね」


 軽蔑の視線は、ひとつのトレーでポテトをシェアする二人へと向けられていた。


「だーかーらー! 有宮さんが勝手に転んだだけでしょ。一緒にいたウチらが疑われて迷惑してるんですけど」


「つか、てめーにはかんけーねーだろ!」


 視線を受けるのは、大仰にため息をいて答える茶髪ギャルと、その向かいの席で1対2なら負けないとばかりに、イケイケドンドンでイキる黒髪ボブの地雷系女子だ。


「つか……莉子ちゃんってかわいいって言われてるらしいけど。ぷっ、量産じゃんw」


「くすっ、やめなよーニコルぅ」


 黒髪ボブの嫌味を止めているが、意地悪くニヤついている茶髪ギャルも莉子を舐め腐っているのは明らかである。


 つむぎが怪我した日から一週間が経った。


 しかし本人が黙っているのをいいことに、クレア茶髪ギャルニコル地雷系は謝ることもなく、変わらぬ日常を過ごしていた。


 そんな彼女たちの性根に、ブチ切れの莉子ちゃんである。


「そーですか。別にいいんですよ。そっちがクズの方がこっちとしても罪悪感がなくなるんで」


「はあ? 何か勝手にピキッてんですけどw」


「周りのお客さんに迷惑だから、用が終わったなら早く帰ってくれない?」


 しっしと追いやる仕草をするクレアに莉子が背中を向けた瞬間、後ろからわざとらしい嘲笑が上がった。


 振り向きかけた莉子だったが、鼻で笑うに留めると、そのまま颯爽と階段を降りて行くのだった。




 ◆




 マクドナルドから莉子が出てくるのを見て、商店街入り口の壁にもたれて待っていた李津は、ゆっくりと背中を離した。


「兄、やっちまいましょう!!」


 開口一番そうすごんで、莉子は親指を背後へと指し示した。


 そんな彼女に、李津は苦笑を浮かべる。


躊躇ちゅうととかないのか、おまえ」


「首謀者がよく言いますよ。――まったく、つむぎになんて説明する気ですか」


「その必要あるか? ただ、あいつらが自分のしたことに足元をすくわれるだけだろ」


 さっぱりと答える李津に、莉子の怒りも落ち着いてきた。ここで初めて、これから自分たちが・・・・・・・・・しようとすること・・・・・・・・に戸惑うそぶりを見せる。


「でも兄、つむぎに『あいつらのことも助けて』って言われたんでしょう?」


「うん? 『すくってくれ』と言われたけど」


「たぶん兄の解釈した“すくう”じゃない気が」


 『救う』と『足元をすくう』は真逆である。


 だが全く意に介さない兄に、妹は呆れ顔にならざるをえない。


「うへえ、兄はラブコメだと主人公になれないタイプですね。でも妹子いもこは、そんな兄も好きですよ♡」


「……大丈夫、おまえもヒロインに向いてないよ」


 そんな悪役のような会話を数往復して兄妹が店を離れた直後。


 ファーストフード店の2階席で、爆弾が破裂したかのような悲鳴が上がったのである。

 




 

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