それがダチじゃね?(LINEトークあり)
ほとんど街灯のない田舎道を、男二人は自転車の小さな灯りだけを頼りに歩いていた。
誕生日パーティが終わり、李津はコンビニへ行きがてら自転車の
「つか! おまえらのゲームの強さなんなの!? 俺、わりとマリカーはうまいと思ってたけど、李津と莉子ちゃんエグかったわ!!」
「俺は当然として、莉子がデキるのは想定外だったよなぁ。あ、それと
「あ? ふざけんな! 俺は年上だぞ!!」
「ハンッ、ザコに人権があると思うなよ?」
「てめぇ!」
「わはははは!」
これまでにいろいろとあった男たちだが、プライベートを半日も一緒に過ごせば距離はしっかりと縮まるというもの。
いつもは静かで寂しい夜歩きが、今日はやけに楽しい。
夕食後、みんなでやった
それを見て、
「なあ李津、それだわ! 学校でもそういう感じでいいんじゃね!?」
「ん? 急に学校がなに?」
李津が首をかしげると、躑躅は頭をかいた。
「実は莉子ちゃんにすっげー聞かれてんだよ。李津が、学校でうまくやれてんのかって」
「莉子が?」
「おまえ、学校だと空回ってて痛てーんだよな。今みたいにゆるくやればいいのによォ」
「ああー……」
李津は言葉を濁した。
クラスは躑躅がいるから不便はいない。ただ、妹に友人関係を心配されているとは思わず、そこだけは少し恥ずかしかった。
「…………俺、ダメなんだよな」
「ん? おお……」
躑躅の声がしぼんで、李津は自分の失言に気づいた。友人の前でネガティブな話題、しかも自分語りをしようとしたのである。まずいと顔をしかめて、平手を差し出した。
「いやごめん、俺の話なんて」
「? なんでだよ?」
しかしネアカは話を流すことなく眉をひそめた。二人の男子高校生は互いに、しかめっ面を見合わせる。それでも李津が迷っていたため、躑躅は大きなため息をついた。
「なんか誤解してんかもしれねーけどよぉ、俺、おまえの話聞きたいぞ? 楽しいことも、腹に溜まったモンも全部。それがダチじゃね?」
軽い調子で小突かれた李津は、息を大きく吸った。泥を含んだ田んぼの水の匂いが鼻先に届く。グワァとカエルがひと鳴きして、風が雑草を揺らした。
30歩分ほど自分らの土を踏む音を聞いて。
躑躅の台詞と顔が見えづらい暗闇が、ついに彼の固い背中を後押しした。
「……俺、人に合わせられないんだ。人間関係って最初はいいけど、継続が難しいだろ。そのための努力ができないんだよ」
――みんなと同じ話題で笑う。
――疎遠にならないように定期的にコミュニケーションを取る。
――同調し、褒め合い、相手に合わせた行動をする。
海外に住んでいたときに人が離れていったのは、李津が外国人だったからではない。
自覚はあった。
だから日本では先手を打った。
妹にだけは嫌われたくなかったから。
李津が提案した「適度な距離感を取り、過度な期待をしない関係」は、妹と長く付き合うために考えた方法だったのである。
「なぁるほどなー」
緊張する李津の隣から聞こえてきたのはアホみたいに気の抜けた声だった。
「別にいーだろ、そんなんよぉ」
「うわっ!?」
躑躅は片手で自転車を支えたまま、もう片方で強く李津の肩を引き寄せた。
「働いてるといろんな世代と話すんだけどさー。自分のことしか考えてねーヤツ多いぞ? オッサンですらそうなのに、おまえはまだ他人を気遣うことができるから全然マシだろ!」
なんでもないように、白い歯を見せて笑ってみせる躑躅だ。
そんな彼の腕を、李津はパチンとはたいた。
「汗がつくんだけど」
「……」
李津はマジで嫌そうな顔をしていた。
なぜなら、先ほどの罰ゲームで上半身裸にされた
暑がりな本人はこの状況が気に入っていたが、半裸の男にベタベタ触られて気持ち悪いというのが李津の素直な感想だった。
カッコよくフォローしたつもりがハシゴを外された
――だが、これが有宮李津の天然の正体だ。
だったら仕方ねーか。躑躅は李津からそっと離れると、何ごともなかったように前を向いた。
「俺には、どーしても譲れないモンがあるけどよぉ。そのラインを越されねぇ限り、おまえがおまえのままでも嫌だとは思わねーよ」
肯定的な言葉に、目をぱちくりとまたたかせる李津だ。
今まで同年代に「もっと協調性を身につけろ」と注意されることはあったが、「そのままでいい」と言われたのは初めてのことである。
正味、多様性を受け入れることは、集団生活をする10代にはなかなか難しい。
だが躑躅が受け入れようと思ったのは、年上だからという理由だけではない。
「俺、おまえには感謝してるんだよ。おまえが学校で声をかけてくれなかったらきっとやりづらくて、バイトも高校も辞めてたかもしれねーからさ。あんがとな」
一気にしゃべると、照れ臭くなったのか躑躅は自転車にまたがった。まだコンビニまでは距離があるのにも関わらず、だ。
「裸でうろうろしているのを店長に見られたらやべーから、ここで! んじゃ、またなー! ハッピーバースデー李津うううう!!」
上裸の自転車男が暗闇へと溶けていくのを見送りながら、李津はそっと胸を押さえた。
もしかしたら、
だが真っ直ぐすぎる躑躅の言葉は、気持ちを軽くするのには十分だった。
「あいつ……いいヤツだな」
初夏にも入っていない季節。夜はまだ冷える。おそらく大丈夫だろうが、友人が風邪をひかなければいいなと李津は思った。
【おまけ:アル&李津】
>†りっつんのズッ友†(2)
(ケーキの写真)
23:01
既読
Arkadia
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お?
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23:01
Arkadia
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おめっとん!
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23:01
Arkadia
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ケーキキタ――(゚∀゚)―――!!
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23:01
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妹と友だちに
祝ってもらった
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23:02
既読
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すげーうれしい
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23:02
既読
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アルもありがとう!
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23:03
既読
Arkadia
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今日誕生日なの初めて知っ
てちょっと動揺しているけ
ど、りっつんがうれしそう
だからもういい、ぼくまで
うれしいよwwwww
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23:03
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そうか、ごめん!
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23:04
既読
(飛ぶピュアおじさんの
スタンプ)
23:04
既読
Arkadia
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いいよ!!
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23:04
Arkadia
(めでたい感じのスタンプ)
23:04
【画像はノートへ】
https://kakuyomu.jp/users/asamikanae/news/16817330652534897706
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