わかったァ!! 友だちになろォォ!!

  ◆◇◆◇◆◇




 翌日、2年の教室にて。


「えっと、1限は……」


 朝からブツブツやっているのは有宮李津である。


 独り言を喋りながら机の中を探っているのを、にのまえ 躑躅つつじは前の席で、体を固くして聞いていた。


 昨日あんなことがあったばかり。どうしても後ろが気になってしまう。


「うーん、なんの授業だっけ、ツツジ」


「はあああっ!?」


 さすがに躑躅つつじは振り返った。昨日、頭をぶち抜くぞと言った男は後ろの席でぽかんとしている。


「…………数学だろ」


 ぼそり、面倒ごとを回避すべくつぶやく。


「サンキュー。なあツツジ、課題やってる?」


「だからなんでおまえはナチュラルに話しかけてくるんだよ!!」


「だって俺、クラスの友だちは渡邊さんしかいないから。喋れる男、おまえだけだし」


「えっ!?」


 これに反応したのは隣の席の渡邊さんだ。いつの間に友だちになったのかと涙目である。


 昨日の件だってどうなったか聞いていないが、なぜか李津と普通に世間話をしている躑躅つつじが怖くて突っ込めず、口を半開きにして首を振るのがやっとであった。


「くそ、知らねえよ。てか俺、おまえの3つ上だぞ? なんで気安く下の名前で呼んでんだよ! ナメてんのか!?」


「? 名前を呼ぶのは当然のことだろ」


 李津にとって、知人をファーストネームで呼ぶのは一般的だった。どうして質問されているのかもわかっていない。


 しかし躑躅つつじははらわたが煮えくり返りそうだった。


 同年代の男にはイジられ、女には金づるにされ、心から信頼することができなかった。


 その秩序が、学校内に持ち込まれるとたまったものじゃない。舐められたくない躑躅つつじの警戒は大きかった。


「なにが目的だ。言っておくが、弱みにつけこんで俺をどうこうできると思うなよ。俺にはバックがついてるんだからな」


「目的っていうか……」


 李津は視線をせわしなくうろつかせて。


「………………友だちになりたいだけというか」


 顔を背けてぽそりとつぶやく。


「は?」


 そりゃ変な声も出る。


 マジで何言ってんのコイツと、躑躅つつじは小鼻をひくひくさせている。


「俺、友だちのなり方とか、よく知らないんで……」


「……」


 赤面して不貞腐れる李津に、躑躅つつじはトゥクン……と兄心をときめかせていた。さすが、兄の年季が長いだけある。


「っ! わかったァ! 友だちになろう!! な、李津・・ゥ!!」


「声でっか」


 ワンピースのキャラみたいに叫んで、がっし!と肩を叩いてくる躑躅つつじに、ぶっきらぼうに答える李津だが、耳まで赤くしている。


「えっ!? 一体、どうなってるの??」


 隣の席の渡邊さんをはじめ、クラスメイトは二人のやり取りにどよめいた。事情を知らない人から見れば、どう見ても躑躅つつじが李津をいじめている。


 だけど、いつもと様子が違うことに何人かが気づく。躑躅つつじが学校で笑っているのを見るのは初めてだった。


 躑躅つつじはとっても胸がぽかぽかしていた。


 留年しすぎてクラスに友人がいないだけでなく、腫れ物扱いをされていたため、これほどフレンドリーに話しかけてくれる男は初めてだった。


 悪行をはたらいていたのも、クラスから浮いている腹いせ的なところもあったのかもしれない。


「莉子が言うから話しかけてみたけど……目立って最悪じゃん……」


「えっ!? 莉子ちゃんが!? 俺のこと、なんて!?」(都合のいいところしか聞こえない)


「知らね。So annoyingくそほどうざい


「あっ!?」


 躑躅つつじは口をあんぐりと開けて、李津を見た。瞳がゆらぎ、徐々に顔が赤くなる。


「あ、ああ、ああああああれか!? もしかして今、ボソッと英語でデレた……のかァ!?」


「うん、なに言ってんの?」


 盛大に勘違いする躑躅つつじ、英語の成績は悪いがライトノベルに限りは読書家である。だいぶ都合良く勘違いしていた。


 ひとまず、クラスに新しく男友だちができた李津だった。誠におめでとうございます。






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ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


躑躅のコンプレックス逆鱗・豹変回でしたが、それよりも突然のアイス店店長・原田洋子さんの実況には違和感があった方もいるかと思います。とてもすみません。


躑躅を李津の友人にしたかったので、「躑躅を完全に制裁する」ではなく、チョケた雰囲気に抑えました。


チンピラにのまえ 躑躅つつじの、今後の活躍にもご期待ください。




 

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