もーちょっと、気にしてあげてもぉ

 コンビニ店員、躑躅つつじは焦っていた。


 愛しの莉子ちゃんが、いつまでたっても自分になびいてくれないからである。


 何が悪いのか?といえば、何もかもが悪かった。


 一応、莉子は未成年のため、児ポ児童ポルノを気にする躑躅つつじ、まず自分からイケない。なので必然的に遠回りな口説き方になってしまう。察してちゃんムーブでチラチラと、様子を見ているのが関の山。


 一方莉子は、意外にも異性の惚れた腫れた話に超絶うとかった。自身が本気で恋をしたことがないのも理由のひとつだが、「好きです」と言われて「はい? ステーキですか?」と聞き返すほどの突発性難聴を持っているのだ。元いた施設ではフラグ折り職人と呼ばれるほど、職人歴は長い。


 そのため、躑躅つつじの察して攻撃はツルツル滑ってあさっての方向へ。好意にまったく気づかないため、距離も縮まることもなかった。


 20歳ヤりたい盛り。湧き出る性欲で温泉街を開けそう。本来はひとりの女に対し、チマチマ攻略なんてやってられない。


 そこで躑躅つつじは、勝負に出た。


 LINEではログが残るため明言は避けていたが、面と向かって気持ちを伝えることにしたのである。


 仕事中、レジでの一瞬にかけることは避けたい。もっとムードがある場所でと考えるところに、このロリコンの本気度が伺える。


 躑躅つつじは思う。年上男子の魅力といえば、優しさ、包容力、そしてなんといっても車力くるまりょくだ。


 大事なのでもう一度繰り返す。車力くるまりょくだ。


 彼はこのコンビニで稼いだ賃金の一部と、父親に土下座して得た財力で、この春プリウスを一台購入している。


 そこで彼は莉子をデートに誘うことにした。


「莉子ちゃん、来週木曜の放課後空いてない? 遊びに行こうよ、俺の車で」


 そんなわざとらしい文句にも、デートの誘いだと思ってもいない莉子は、二つ返事でOKする。



 これが、躑躅つつじをさらに勘違いさせるのだった。




  ◆◇◆◇◆◇




 莉子の情報は筒抜けという状況下、ついにデート当日を迎えた。


 こちら2年2組の教室では、昼休み恒例となった李津とつむぎの兄妹の姿が見られる。


 いつもとは違ったピリついた雰囲気は、妹の方から漂っていた。


「おにーちゃん? わ、わたし、今日は莉子ちゃんたちのあとをつけようと思うんだけどぉ」


 チラリと隣へ視線を移し、つむぎは思い詰めたように告げる。


「おにーちゃんも来てくれる?」


 しかし、李津はまるで興味を示さなかった。弁当から目を離すことなく、もぐもぐと咀嚼そしゃくを続けている。


 他人のデートに首を突っ込むなんて馬鹿げている。そう思っての無関心だ。


「行かない。おまえも放っておけば?」


「で、でもぉ〜」


「莉子が出かけたいって決めたんだろ? だったら野暮だよ。心配も、度が過ぎればおせっかいだ」


 これほどにも李津が余裕なのは、ただ薄情だからというわけではない。そのコンビニ店員に会っていたのをふと思い出したからだ。


 初めてつむぎと出会い、パンを買ったときのこと。対応してくれたのはたしか若い男性店員だったではないか、と。


 彼の仕事の丁寧さには、今後の日本での買い物に安堵あんどした経験すらある。李津の中では好感度が高い人物だった。


 そんな李津の考えを知らないつむぎは、不服そうに口をとがらせる。


「…………もーちょっと、気にしてあげてもぉ」


「なに?」


「ううん、なんでもない。わかったぁ……」


 しぶしぶ了承したが、納得はしていない。


 つむぎがここまで心配しているのは、莉子が相手の好意にまったく気づいていないためである。


 第三者のつむぎが気づくほど好意は明白なのに、のらりくらりとかわしている莉子は、どう見ても危うかった。


 けれど、李津にどうしてもその女子の勘的なニュアンスが伝わらない。残念だが交渉はここで終わった。


 その後、二人は黙って昼食を取り昼休みを終える。


 いつも通り。


 一言も交わさずに。


 クラスメイトはその様子をちらちらと見て「変わった兄妹だな」と、余計に距離を取るのであった。






 

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