もーちょっと、気にしてあげてもぉ
コンビニ店員、
愛しの莉子ちゃんが、いつまでたっても自分になびいてくれないからである。
何が悪いのか?といえば、何もかもが悪かった。
一応、莉子は未成年のため、
一方莉子は、意外にも異性の惚れた腫れた話に超絶うとかった。自身が本気で恋をしたことがないのも理由のひとつだが、「好きです」と言われて「はい? ステーキですか?」と聞き返すほどの突発性難聴を持っているのだ。元いた施設ではフラグ折り職人と呼ばれるほど、職人歴は長い。
そのため、
20歳ヤりたい盛り。湧き出る性欲で温泉街を開けそう。本来はひとりの女に対し、チマチマ攻略なんてやってられない。
そこで
LINEではログが残るため明言は避けていたが、面と向かって気持ちを伝えることにしたのである。
仕事中、レジでの一瞬にかけることは避けたい。もっとムードがある場所でと考えるところに、このロリコンの本気度が伺える。
大事なのでもう一度繰り返す。
彼はこのコンビニで稼いだ賃金の一部と、父親に土下座して得た財力で、この春プリウスを一台購入している。
そこで彼は莉子をデートに誘うことにした。
「莉子ちゃん、来週木曜の放課後空いてない? 遊びに行こうよ、俺の車で」
そんなわざとらしい文句にも、デートの誘いだと思ってもいない莉子は、二つ返事でOKする。
これが、
◆◇◆◇◆◇
莉子の情報は筒抜けという状況下、ついにデート当日を迎えた。
こちら2年2組の教室では、昼休み恒例となった李津とつむぎの兄妹の姿が見られる。
いつもとは違ったピリついた雰囲気は、妹の方から漂っていた。
「おにーちゃん? わ、わたし、今日は莉子ちゃんたちのあとをつけようと思うんだけどぉ」
チラリと隣へ視線を移し、つむぎは思い詰めたように告げる。
「おにーちゃんも来てくれる?」
しかし、李津はまるで興味を示さなかった。弁当から目を離すことなく、もぐもぐと
他人のデートに首を突っ込むなんて馬鹿げている。そう思っての無関心だ。
「行かない。おまえも放っておけば?」
「で、でもぉ〜」
「莉子が出かけたいって決めたんだろ? だったら野暮だよ。心配も、度が過ぎればおせっかいだ」
これほどにも李津が余裕なのは、ただ薄情だからというわけではない。そのコンビニ店員に会っていたのをふと思い出したからだ。
初めてつむぎと出会い、パンを買ったときのこと。対応してくれたのはたしか若い男性店員だったではないか、と。
彼の仕事の丁寧さには、今後の日本での買い物に
そんな李津の考えを知らないつむぎは、不服そうに口をとがらせる。
「…………もーちょっと、気にしてあげてもぉ」
「なに?」
「ううん、なんでもない。わかったぁ……」
しぶしぶ了承したが、納得はしていない。
つむぎがここまで心配しているのは、莉子が相手の好意にまったく気づいていないためである。
第三者のつむぎが気づくほど好意は明白なのに、のらりくらりとかわしている莉子は、どう見ても危うかった。
けれど、李津にどうしてもその女子の勘的なニュアンスが伝わらない。残念だが交渉はここで終わった。
その後、二人は黙って昼食を取り昼休みを終える。
いつも通り。
一言も交わさずに。
クラスメイトはその様子をちらちらと見て「変わった兄妹だな」と、余計に距離を取るのであった。
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