冷やかしなら帰れーーっ!!(LINEトークあり)


「なあ、本当に行くのか?」


「おにーちゃん、莉子ちゃんのこと心配じゃないのぉ〜!?」


 翌日の放課後、乗り気ではない李津がつむぎに引きずられるようにして連れてこられたのは、家の近くのコンビニ前だ。


 つむぎいわく、莉子がバ先の大人に手を出されかけているということで、二人で偵察に来たのである。


「おにーちゃんと出会ったコンビニで莉子ちゃんが働いててぇ、また二人で来れるとかぁ、もしかして運命かもぉ。うへっ、へへへ」


「近所はここにしかコンビニがないからな! ほら、離れた離れた!」


 腕にくっつく妹を追いやれば、不満そうに口をとがらせた。その前髪には、先日李津がプレゼントしたヘアピンが光り、李津の胸がむずがゆくなる。


 顔を出したくないつむぎは学校では貞子ヘアおばけだが、放課後はピンをつけ、にへにへするのがマイブーム。


 彼女に自覚はないが、きれいなアーモンドアイに整った鼻筋、薔薇色のような血色のよい唇など、顔面のトータルバランスはとても良い。


 ぷーと頬を膨らませてる表情も小動物のように愛らしくサマになるのだ。


 そんな女の子を前に、兄とてドギマギは不可避である。李津は無意識に顔をそらすのだった。


「あっ、莉子ちゃんが働いてるよぉ〜!」


 兄の心、妹知らず。つむぎはマイペースに走って店に近づくと、ガラスに顔をくっつけて中をのぞき込んだ。


 仕方なく、李津もつむぎの隣で中をのぞいてみる。しかし莉子の姿は見えない。


「どこ?」


「あれえ? いなくなっちゃったぁ〜」


「本当に見たのかおまえ」


「うえぇ、疑われてるぅ〜〜!?」


「なーにしてんですか、二人とも」


「!!」


 二人同時に飛び上がって後ろを振り返る。噂の莉子が仁王立ちしていた。


 笑っているが、目が笑っていない。


 李津も無理やりに笑みを浮かべて、ハンズアップする。


「よ、よぉ。妹が社会で困らずに働けているのか心配になってさ……」


「へえ、無干渉の兄がねぇ」


 莉子は鋭い猫目で李津をにらみつける。


 固まる李津とつむぎは、さながら猫に追い詰められたネズミの心境だ。


「っ、冷やかしなら帰れーーっ!!」


「すみませんでしたぁああああ!!」


 掃除用のほうきでしばかれた李津は、頭を抱えて逃げ出した。


 結果、ろくな偵察もできず莉子に殴られただけである。無駄足もいいところだ。


「あれ、つむぎ?」


 そしてつむぎがいないことに李津が気づいたのは、家の近くまで逃げ帰って来てからの話である。




 ◆




 李津らを追い返した後、客のいないコンビニでは、莉子がカウンターに伏せてメソメソしていた。


「ううう、兄にクソダサな制服姿を見られました。バチバチに鬱です」


「はは、コンビニの制服にそこまで言う?」


 壁に寄りかかり、腕と足をそれぞれ組んで精一杯カッコつけているのが例の成人男店員ロリコンである。莉子が伏せているのをいいことに、スリムながら女の子らしい体のラインをガン見していた。


「あたし、努力する姿って見られたくないんですよ。だせーじゃないですか、そういうの」


「ははっ、なんだよそれ、おもしれーなぁ莉子ちゃんって。俺はもう、好きな女にそういうとこ見せちまってるからなぁ」


「えっ、躑躅つつじさん、好きな人いたんですか?」


「まあ、な?」


「あたしの知ってる人です?」


「さあ、どう思う?」


 頭を傾けて流し目を送り、意味あり気に口角を上げる、モテ系主人公を意識してみた先輩だ。


 いつもとは違う真面目な雰囲気に、莉子はぽかんとしている。


(うわあああぁぁ見つめ合ってるぅ!? 莉子ちゃんが危ないぃ〜〜〜〜っ!)


 外からガラス越しに見張っているのはつむぎである。


 彼女、陰が薄いのを逆手に取り、莉子の撃退を逃れて先ほどまでコンビニの裏に隠れていた。


 タイミングを見計らって出てくれば、カッコつけているヒゲ面の男と莉子が見つめ合ってるシーンだ。


 これには心臓が飛び出しそうなほど驚いた。アダルト展開になったらどうしようと手に汗をにぎる。ドキドキが止まらない。


 だが莉子はというと、もう一人のスタッフへと視線を移した。


「なんか、大人もいろいろあるんですね? じゃああたし、あっち手伝ってきますね」


「あっ、えっ?」


 ロリコンのにおわせは通じず、堂々のスルーである。


(うえぇ、莉子ちゃん!? うまくかわしてるぅ〜〜っ!?)


 話している内容は聞こえないが、男店員はカウンターから出ていく莉子を女々しく目で追っているところである。


 莉子にはその気がなさそうだが、あの男の店員はきっと――。


 胸騒ぎは大きくなるつむぎだが、本日はこの辺で偵察を諦めることにした。これから役立たずの兄を探さねばならないからである。






【おまけ:つむぎ&李津】


>つむぎ



つむぎ

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おにーちゃんどこー?

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17:43


         ----------------------

         こっちのセリフだよ!

         ----------------------

         17:47

         既読



         ----------------------

         俺は家

         ----------------------

         17:47

         既読



つむぎ

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うー!

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17:49



つむぎ

(ねこが怒るスタンプ)

17:50



         (ねこ撫でるスタンプ)

         17:52

         既読



つむぎ

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もう!

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17:55



つむぎ

(ねこがよろこぶスタンプ)

17:56



つむぎ

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アイス買って帰るね!

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17:56



         ----------------------

         あ、いや。

         今日コンビニには入らない

         ほうが…

         ----------------------

         17:58

         既読



つむぎ

----------------------

えーん

莉子ちゃんに怒られたぁ

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18:04



         (逆ピースのスタンプ)

         18:10

         既読




(画像はノートに掲載)


https://kakuyomu.jp/users/asamikanae/news/16817330652005367322








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