中身を好きになってほしいのでぇ
◆
駅前商店街の自転車屋に赤いママチャリを持ち込めば、2時間ばかりで直してくれると言われ、李津たちはホッと顔を明るくした。
「よかったな、つむぎ!」
店の外に出てテンション高く話しかける兄に対し、妹は申し訳なさそうに肩をすくめる。
「でもごめんね。おにーちゃんせっかく来てくれたのに、無駄になっちゃってぇ」
「いいよヒマだったし。さて2時間か。どうするかなあ」
「お買い物は30分あれば終わるのでぇ〜」
「じゃあ、イオンで暇つぶしでもするか?」
激安スーパーは商店街の中だが、5分ほど歩けば駅直結のイオンもある。2階建てでアパレルや雑貨となんでも揃っているので、性別年齢問わず暇つぶしにはちょうどいいだろう。実際、近辺の高校生の
「イオンっ!?」
しかしつむぎは顔をこわばらせた。「苦手なのか?」と李津は瞬時に推測する。
天然の彼が察せたのも、海外の家で「今日はホームパーティを開くわよ!」と養母に言われたときに自分がよくする顔だったからである。
「別に買いたいものはないんだけど……都合悪かった?」
「ち、ちがうくてぇ〜!」
ぶんぶんと首を振って、つむぎは懸命に否定する。
「わたしはその、う、うれしいけどぉ。おにーちゃんがぁ」
「?? 俺がなに?」
「おにーちゃんが、わたしなんかと二人で歩いててぇ、恥ずかしい思いをしたらちょっとヤダなってぇ」
三人ならまだしも、男女が二人で歩いていれば
おどおどしている額に、李津は軽くパンチする。
「こら」
「ひあっ!」
「変なこと気にするなよ、なんだよ恥ずかしいって」
「だってぇ〜。わたし、お買い物中もけっこー主婦さんにジロジロと見られるしぃ。それに、やたら押されるしカゴに入れた特売も取られるし、子どもにも蹴られるし、地元の方々にあんまり好かれてないのでぇ〜」
その弁明から、わりと深刻な事実も発覚してしまう。
確かに李津もつむぎを初見で「幽霊っぽい」と思った。けれど、それは夜だったせいだ……と思いたいのが兄心。
明るいところでもナメられる理由をルッキズムのせいにはしたくないが……。つむぎの外見をまじまじと眺めて、李津は閉口せざるを得なかった。
前髪の長い陰気なビジュアルもそうだが、つむぎは今日もカッパのイラストが描かれたロンTに牛柄のハーフパンツという個性的なファッションをしている。
聞けば、手持ちの服は施設に寄付されたものらしい。
つむぎいわく、みんなが選んだ最後に余った服や、施設の子のさらにお古をもらっていたら、こういったラインナップになったそうだ。
先ほどはコンプラを意識して個性的とやわらかく評したが、申し訳ない、率直に言えばクソダサい。
彼も別段おしゃれに精通しているわけではないが、それでもこれはと思う仕上がりよう。
兄として、年頃の妹にダサいと気づかせなければいけないのではないか――。そんな繊細すぎる
ひとまず傷つけないように、慎重に言葉を選んでみる。
「じゃあさ、時間もあるし、ふ、服でも買いに行く? 前髪も邪魔そうだし、少し切れば気持ちも明るくなるかも……」
「だいじょうぶ〜! わたし、服はたくさん持ってるのでぇ〜。髪もこのままが落ち着くし、か、顔をみなさんに見せたら気分を害されるのでぇ〜」
つむぎは顔を隠そうと、前髪を一生懸命なでつけた。
この妹、李津が思っていた以上に自己評価が低すぎるのだ。
「それにぃ、わ、わたしはぁ、見た目じゃなくて中身を好きになってほしいのでぇ。ふへっ、えっへっへ……」
そして努力しない陰キャの常套句である。
(さて、こいつどうしてくれよう……)
自分もそうだが棚に上げ、イラッとした李津は、テスト勉強より悩んだという。
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