お兄ちゃんサービスしてください(LINEトークあり)

「莉子、入るな?」


 独特な感性を持ったアメリカン野郎は、妹の返事がないのを肯定と捉え、躊躇なくドアを開けて部屋に入った。


 7畳の部屋の奥に、真っ白なシングルベッドが置いてある。そこに顔から豪快にダイブしていた莉子は、ピクリとも動かない。


 李津は化粧品が散らばるちゃぶ台をよけ、ベッドへと近づいてしゃがみ込んだ。


「悪かった、ごめん」


「……バファ」


「うん、バファ……だよな」


 莉子は布団のせいで声がこもっていただけなのだが、「バカ」じゃなくて「バファ」という日本語があると思い、話を合わせた李津は天然が絶好調である。


「ンンッ!? ぷっ、ふふふふっ」


 けれどどうやらこれが好転。15歳の少女にはツボったらしい。


 怒りたいが肩が震える。


 そもそも、人間の怒りは継続し難い。


 それに莉子こそ、そのタイプ。本当は李津が追いかけてきた時点で怒りは冷めていた。


 けれどガチで泣いちゃったことは事実である。涙で不細工になった顔を見られたくなくてちょい気まずい。思春期は、莉子の顔をそっと壁の方へと向けた。


 急に背中を向けられて動揺する李津に、妹はうしろめたそうに切り出した。


「……兄は嫌かもですけど、あたしはわりと、兄と仲良くしたいと思ってるんですよ?」


「それは、ごめん……」


 しょんぼりと肩を落とす李津だが、天然が、言わなくていい一言を後押しした。


「でも莉子、どうしてそんなに俺のこと」


「だから! 人と仲良くなりたいと思うのに理由なんてないんですってば!!」


 ついにわからず屋な兄にブチ切れた莉子が振り向いて叫んだ。


 顔を突き合わせる。


 息がかかるほど近い距離で、少女は膨れっ面を見せた。


「……あたしにもちゃんと、お兄ちゃんサービスしてください」


「あっ………………はい」


 もうこんなの、頷くしかない。


 だが一方で、「お兄ちゃんサービス」という初めて聞くのになんとも甘酸っぱすぎる魅惑のワードが、兄の頭に引っかかったのも事実。


「妹とは干渉しない(キリッ)」とか言っていた男の脳内では、帰国前に熟読していた妹系ラノベのあんなシーンやこんなシーンが無限に浮かんでは追い払う、いたちごっこに陥っている。


 フォローしておくが、李津が悪いのではない。お年頃のせいである。


「お・べ・ん・きょ・う〜〜〜っ!!」


 そんな時、後方より、こっそりと声の助太刀が飛んできた。


 ドアの隙間からハラハラして覗いていた黒髪の妹、エッチ路線には行かせんとばかりに必死である。


 その気概をしかと受け取った李津は、煩悩を振り払い、太刀筋に照準を合わせる。


「わかった。もしよかったら、俺が勉強の面倒を見るっていうのは?」


 判定バーに合わせてAボタン!


 Perfectパーフェクト


 健全な上に、勉強中は静かに過ごせる。莉子だって成績が上がる分には悪くはないだろう。勉強なら李津も得意だし、日本の高1の授業内容も知ることができる。お互いにメリットが大きい。


 李津はこのお兄ちゃんサービスの内容に確かな手応えを感じた。


「あー……勉強はいいです。あたし、成績は心配されるほど悪くないんで」


 しかしまさかのBADバッド判定っ!!


 断られると思っていなかった李津は見るからに絶望していた。ガチめに落ち込んでいる。俯いて、「えぇぇぇ〜」とかボソボソ言ってる。


「それより……。たまに、一緒に寝てくれたらそれでいいんですけど?」


 ピタリと固まる李津に、莉子が人差し指を突きつける。


「なんですかぁ兄、その顔」


「……それってどうなんだ、という顔かな」


「あははー、正直者か!」


 鼻先を指ドリルがぐりぐりする。


「いででっ」


「だって、いいじゃないですか。つむぎとは毎日お昼一緒なんですよ? こちとらたまに一緒に寝るくらいじゃないと、バランス取れないです!」


「…………」


 ここで安易に返事をしてもいいものか、李津は考える。


 兄妹と言ってもまだ決まったわけじゃないし、学校でも学年関係なく人気の高い、本来なら高嶺の花のような女の子だ。


 そんな子と添い寝が許されるのか。


 バレたら莉子ガチ勢に裸にひん剥かれて拷問を受けるレベルの話である。


「あたしのこと、嫌、ですか?」


 莉子は不安そうに、上目遣いで李津を見つめた。


 捨てられた子猫のような悲しげな懇願こんがんに、李津の心は破壊寸前だった。これを断れるほど彼にオトナの余裕はない。


「……絶対に、変なことしないって約束するなら」


「ぷは! おいこら、男女逆のセリフですよそれ!」


 的確なツッコミに、二人は顔を見合わせて笑う。


 李津はポケットからハンカチを出すと、妹の目元をやさしく拭った。さっきまで泣いていたのを思い出した莉子は顔を真っ赤にする。



 ――有宮李津の機嫌を取っても、この家に残れるとは限らない。



(うん。それでもいいから、一緒に過ごしたいって思ったんですよ、馬鹿兄っ)



 兄からハンカチを引き継ぐように受け取ると、妹は目から下を布で隠してまたにへりと笑った。



(……なにこれ、わたし空気すぎぃ?)


 ところでドアの陰から見守っていた妹2は、二人の急接近に危機感を覚えていた。







【おまけ:李津のたった一人の友人とのLINE】


>†りっつんのズッ友†(2)


Arkadia

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やほほ、りっつん!

日本はDO→?

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19:31


         ----------------------

         アル、久しぶり!

         やっと落ち着いたよ。


         ただ、妹という生き物が

         想像以上だった…

         ----------------------

         21:40

         既読


         ----------------------

         SAN値削られる

         ----------------------

         21:40

         既読


Arkadia

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ww

りっつん実質一人っ子みた

いなもんだったしなw

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21:41


         ----------------------

         放っておいてほしいのに

         次から次へと面倒ごとを…

         ----------------------

         21:44

         既読


Arkadia

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wwwwww

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21:44


Arkadia

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ぼくも末っ子だからw

耳が痛いンゴwww

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21:44


         ----------------------

         アルみたいな弟が欲しかっ

         たよ。

         ゲーム一緒にできるし。

         ----------------------

         21:48

         既読


Arkadia

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そwこwwww


あとはFPSうまい巨乳の

お姉さんだっけ?

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21:48


         ----------------------

         それは付き合いたい人!

         <●><●>ギンッ

         ----------------------

         21:59

         既読


Arkadia

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wwww

はよりっつんWi-Fi

つないでクレメンス

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21:59


Arkadia

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( ゚∀゚)o彡゜対戦!対戦!

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21:59


         ----------------------

         wi-fiは契約したところだ。

         しばし待たれよ!

         ----------------------

         22:03

         既読


Arkadia

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(n'∀')ηキタワァ────!!!

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22:03


         ----------------------

         なあ、アル?


         ずっと思ってたんだけど、

         ネットスラング古くね?

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         22:04

         既読


         ----------------------

         もしかして:

         中の人おっさん?

         ----------------------

         22:05

         既読


Arkadia

----------------------

/(^o^)\ナンテコッタイ

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22:06




(画像はノートへ)

https://kakuyomu.jp/users/asamikanae/news/16817330651782791455



 

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