隣のクラスに妹がいますよ
◆
さて、妹サイドを見てみよう。
莉子とつむぎの1年生ズは、転校生ではなく新入生扱いで入学した。残念ながらクラスは別れてしまっている。
こちらは1年1組、莉子のクラスである。
田舎には珍しく、見た目が派手な莉子の周り360度には、朝からクラスの女子たちでみっちみちに囲まれていた。
「ね、ねえ、有宮さんってさー」
「あ、莉子でいーですよ」
「ほ、ほんと!? じゃあウチのこともアヤで!」
「あたしもあたしもー!」
「てか莉子ちゃんも敬語じゃなくていいよー!」
「あたしのはクセなんですよ。
ツインテールを揺らして莉子がにこりと微笑むと、クラスメイトたちは途端に色めきだつ。
つよい。
しかし合理厨の莉子、ヌルゲーは嫌いではない。
莉子の周りに集まる女子たちも、こじゃれたメンツばかりである。はたから見ても、クラスの一軍候補なのは明らかだ。
赤子が母親の乳を求めるように、教わっていなくても「莉子に取り入るべし」と、一軍になりたい系女子のみなさんの勘がささやいていた。
教室中に散らばる男子たちも気にしないふりをしながら、キラキラ女子たちを目の端に留めている。
こうして、小さなコミュニティの中に無常にも縮図ができていく。
施設でそういうのを何度も経験してきた莉子の余裕は、クラスメイトたちには魅力的に映っていた。
「そういえば莉子ちゃん、双子って本当ぉ〜?」
そんな頂点へと果敢にも話を振ったのは、はっきりした顔立ちの色黒な女子だった。1年なのに長い髪を茶色に染めてポニーテールに結んだ、気の強そうな子である。
言葉尻に含みがうかがえる気がした莉子だったが、ひとまず素直に頷いた。
「うん、隣のクラスに妹がいますよ」
「あーやっぱりぃ! くすくす。でも信じらんなーい。全然似てないんだもぉん!」
甲高い声で主張する言葉の端に、確かなトゲがある。
「それ、どういう意味です?」
莉子は動じることなく、ポニーテール女を笑顔で見据えた。
ポニ子は、強気に出られると弱いタイプだったようだ。顔を引きつらせて、あぐあぐと口を上下させた。
「た、他意はないよ? ほら、双子って珍しいじゃん? みんなも気になるかなーって思って!」
「へー、あとで見に行きたいかも!」「莉子ちゃんと双子なら、似てなくてもかわいいっしょ!」「女の子同士って楽しそー!」
事情を知らない他の女子たちは、好意的に頷き合っている。
いくらポニ子が気まずそうにしても、莉子は決して視線を外さず、無言で追い詰め続けた。
学校では、妹たちも有宮姓を名乗ることにした。
家族なのもすぐに知られるだろうとは思っていたが、初日に悪意を持って絡まれるとは想定外。
自分たちの情報はあまり出さないようにと、李津に釘を刺されてもいる。長々とこのお喋りに付き合う気はない。
「そんなことより、あたしこの町に来たばっかりなので、この辺のことや中学のこととか聞きたいな。誰が同中なんですか?」
だから話題を変える。
知らない女子の話よりも、みんな自分たちが得意な話題に食いついた。
うまく話せれば莉子に一目置かれるかも。そんな魂胆で、われ先にと近所のおしゃれ情報を得意になって話しはじめる。
せいぜい情報のマウントで殴り合ってくれと、ニコニコしながら莉子は高みの見物だ。
女子たちの話を聞きながら莉子は不安を覚えた。隣のクラスまで評判が届くなんて、つむぎは一体何をしてんのかと。
これからが思いやられるとばかりに、莉子は誰にも気づかれないよう、ため息をつくのだった。
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